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神が与えたいらない能力  作者: 七詩のなめ
第二章 ウンディーネ
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第九話 乱入者

乱入者


とうとう始まってしまったよ、能力者同士の戦いが。

はぁ、神様はなんで俺に平穏をくれないんだ?

まあこんなところで愚痴ってもしょうがない。欲しいものは力ずくでも手に入れる。

これは麻耶が俺に言った言葉の一つだ。

なら、俺はこの言葉通り手に入れようじゃないか、平穏を。

だけど、それ以前に剣が抜けません。

「テアっ!」

麻耶が空中で一回転しながら剣戟を浴びせる。

さながら、空に舞う羽のように軽く、獰猛なライオンのような強さを示す麻耶。

だが、その剣戟すら笑顔で受け止めさらには反撃し返すウンディーネ。

もう、人知の及ぶ戦いではありません!

「ははっ。鉄のお姉ちゃんはやっぱり弱いね。能力の暴走を怖がってちゃ私には勝てないよ?」

麻耶は図星を指摘されたかの如く頬を赤らめ怒りの一撃を与える。

しかし、攻撃はウンディーネには届かない。

「あなたに何がわかるの! 暴走は自分の意志では操作できず、大切な人を殺してしまうのよ!」

重く伸し掛る麻耶の言葉にリアルさを感じ、俺は身震いする。

まさか、まさかとは思うが麻耶、お前は人を殺めたことが……。

「ははっ。もういいや、これあげる」

そう言ってウンディーネは手に水の弾を創りだす。

そして、それを麻耶に向け投げると見えない速さで麻耶の腹部を打つ。

「ぐっ!!」

腹を押さえながら麻耶はその場に伏せてしまう。

まずい。このままだとまたさっきの弾を打たれたら躱せないぞ!

そう感じたとき俺の体は俺が命令を出す前に動いていた。

「ばいばい。鉄のお姉ちゃん」

第二射が放たれる。

俺は麻耶の前に盾になるような立ちふさがる。

はっきり言ってあの攻撃をどうにかできるわけがない。だが、何もしなければ麻耶はきっと死んでしまう。そんな気がするのだ。

弾が俺たちに向かって飛んでくる。

ああ、死んだ。

そう感じた時だった。麻耶が意識を取り戻し地面にシャーペンを五本投げる。

「鉄よ。強固な鉄よ。我を守る絶壁となれ」

言霊を吐くとシャーペンは瞬時に形成され、鉄の壁へと変化する。

壁が出来上がった瞬間水の弾が壁に当たり火花を散らしながら有らぬ方向へずらされる。

てか、今火花ちった!? 水なのに火花が散った!?

最早、超常現象としか思えない物を見て俺は呆然と立ち尽くす。

「あははっ。お姉ちゃんじゃやっぱり弱いや――神聖なる水の精。我が名はウンディーネ、水を操り管理する者。水よ、我が名の下に水龍を顕現せよ!」

廊下に川のようになっていた水が引き、その代わりにものすごくデカイ龍が現れる。

ああ、そういうパターンね。

俺はこういうものに慣れているわけではないが見すぎたせいで半分諦めの入った感情でそれを見る。

「な、なあ、一応聞くけどあれって強い?」

「……強いわ。それはもう容赦ないくらいにね」

さいですか。

俺は不快にもため息が出る。

なんでだろう? 目の前のドラゴンがとてつもなく憎たらしくなってきた。

「さあ、追いかけっこの始まりだよ!」

ドラゴンがよーい、どんと言わんばかりにこちらに向かってくる。

「さ、流石にあれを受け止めるほど私の壁は強くないわよ?」

ですよねぇー。なんとなくわかってました。

『我を抜け』

うん。わかってるんだけでどねぇ。抜き方がわからないんですよ。

ドラゴンが麻耶の作り出した壁を噛み砕いている。

『我を抜け』

ドラゴンは壁を砕き今度は俺を砕きに来る。

ドラゴンが俺に触ろうとしたとき、俺は同時に言霊を語る。

「砕け散れ」

すると、ドラゴンは爆発し廊下に短い雨が降る。

「う、嘘……何をしたの?」

驚愕するウンディーネ。

俺が戦闘できないものだと思っていたのだろう。

確かに、戦闘はしないと思っていた。さっきまでは。

「こちとら、平穏を崩されてど頭に来てんだよ! ――我が手に来たれ。勝利の剣、勝利を約束された剣よ」

俺も前に透明な剣が現れる。

それを手に取る。

「輝きを取り戻し勝利を与えよ」

勢いよく引き抜くと剣は輝き始める。

「輝け! エクスカリバー!!」

剣は色彩を持ち始め、その度に輝きが増す。

「ははっ。それがお兄ちゃんの力なんだね?」

俺の足に浸かっていた水が徐々に無くなっていく。破裂したはずの水道管まで治っていく。

どういうことだ? 俺がしているのか?

「そうか。そうだったのね。あなたの能力は『後日修正』。あなたが思う平穏に近い環境に戻すことができるのね」

戻す? 俺の思う平穏?

なんだか、意味不明なことが起きているのは確かだが凡人には到底理解が追いつかない。

一体何が起きているんですか!?

どうやら、麻耶の怪我も治ってるみたいだし……。

「ははっ! 直されたならまた壊せばいいんだよ」

直した水道管が次々と破裂していく。

やっぱりこいつは故意に水道管を破裂させているんだな。

「どうしようもない、ジャジャ馬だな」

俺はある種の怒りを覚え剣を構える。

精神を落ち着かせ明鏡止水の境地に至る。

呼吸で相手の動きが鮮明に予想できる。そうだ。これが明鏡止水、達人と呼ばれた俺の力。

「ドラゴンさんに食べられちゃえ!」

再び作り出したドラゴンが俺に向かってくる。

俺は剣を地面に刺しジャンプする。

「無駄だよ!」

ドラゴンは俺が思った通り追尾して来る。俺の口元に笑が漏れる。

「え?」

次の瞬間俺は空中を舞い、ドラゴンの攻撃を完全に回避していた。

「何が起きたの?」

驚く麻耶に俺は説明をする。

「簡単さ。剣の柄を蹴ってまたジャンプしたんだ。いやぁ、できるとは思わなかったけど」

自分でも驚いていた。だって、確実にできないと思っていたんですもん!

火事場の馬鹿力というやつでしょうか。とにかく、俺はウンディーネの攻撃を回避できた。

これからは……考えてないけどなんとかなるでしょ。

俺は地面に刺さっている剣を抜きウンディーネに突っ込む。

「まだだよ。まだ、水は残ってる!」

ウンディーネを囲むように水の結界が張られる。

剣で切り裂こうとすると鉄よりも硬くなっておりビクともしなかった。

「こ、これは反則だろ……」

半分呆れ、半分諦めの入った言葉が口から出てしまう。

外からパトカーのサイレンが聞こえる。どうやら、教師が先生を呼んだらしい。

てことは早く終わらせないと銃刀法違反で俺が捕まっちまう? しかも、相手は小さな女の子。

俺の脳裏にある言葉が通る。

『見てください! これが○○高校の磯崎氏です!! なんと、まだ小さい女の子に刃物を突き立て甚振っていたと――』

ま、まさに変態じゃねッぇか、コンチクショウ!!

なんだよ! 悪いのはこの子だよ!? 俺はどちらかといえば称えられる方だよ!?

いいのか!? いいのか、俺! こうなってもいいというのか、俺ぇぇぇぇぇええええ!?

「ん? どうしたの、お兄ちゃん?」

「い、いや、なんでもない。お前を倒した後の現状に、なんだかこれほどまでの恐怖が湧いてきただけだ」

「ふ~ん。ま、いいや。警察さんも来ちゃったし私帰るね。またね、お兄ちゃん」

そう言って、ウンディーネは水の中に消えていった。

「ま、また会わなきゃいけないのか?」

ただ一人、俺だけはこの現状に満足できずため息が出てしまう。

「さあ、さっさとここから出ましょう? 水浸しで風邪引いちゃうわ」

くちゅんっと可愛らしいくしゃみをする麻耶。

俺は着ていた半袖のシャツを渡し外を見る。

「なあ、麻耶」

外は曇っていなかった。どちらかといえば快晴だった。

「何かしら?」

「今日は厄日だな」

麻耶は苦笑いし、それに釣られて俺も苦笑いする。

いつの間にか消えていたエクスカリバーと麻耶の剣。

水浸しの廊下に佇む少年と少女。

遠でで笑顔を見せながら水たまりの上に浮かぶ少女。

この時彼、磯崎京介は思った。

なんだか、この頃平穏が遠ざかって行く気がするよ。と

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小説家になろう 勝手にランキング 京介「怖いよ! もうちょっと優しく言ってあげて!」
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