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神が与えたいらない能力  作者: 七詩のなめ
第一章 始まりの物語
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第四話 地獄増殖

地獄増殖


俺と麻耶は朝、一緒に学校に登校していた。

同じ家から、同じ道を、二人で。そう、二人で。

周りからの視線が痛い。

それはもうすんごく痛い。

それもこれも全て麻耶のせいだ。

昨日、麻耶は俺の家に押し入り親父の隠し子だと嘘を突き通し俺の家の子となった。

苗字は変わらず花美奈だが、同じ家に住む住人となったのだ。

同時に俺の家は家庭崩壊の危機に直面したがそれも麻耶がなんだかんだで収めてしまった。

全く、こいつは何ものなんだ。

「な、なあ、もう少し離れないか?」

「アメリカではこのくらい常識よ」

「ここは日本だ! それにアメリカでも抱きつきはしないだろ!?」

「しないわ!」

「断言した! こいつ、断言したよ!!」

ああ、なんだか頭痛くなってきた。

俺は太陽が燦々と照らす路上で麻耶の暑っ苦しい抱きつきに耐え、周りからの『何アレ、マジでうざくない?』的な痛い視線からも耐えながら通学路を進む。

「麻耶、マジで離れてくれ。暑い」

「ふふっ、それが目的よ」

「俺を熱中症にさせる気か!」

「それもいいわね」

こいつは悪魔か! いいや、悪魔だ!

暑さで脳がオーバーヒートを起こしているようで思考回路が有らぬ方にどんどん突き進む。

ダメだ。クールダウンクールダウン……。

「できるかぁぁぁぁ!!」

俺は投げやりな気分になりかけ出す。

また一つ、俺の平穏が消え去った一瞬であった。


授業中、俺は睡魔に襲われながらも必死に目を見開いていた。

眠い。昨日のゴタゴタのせいでゆっくりと眠れなかったせいだ。

机に肘を着きとうとう手で頭を支える体制になってしまった。

まだ大丈夫だ。夏のべっとりとまとわりつく暑さのおかげで寝れないからまだ大丈夫なはず!!

そんな俺の考えも虚しく暑さが睡魔に負けている。

とそんなところで隣から俺の横っ腹を突く人物がひとり。

麻耶だ。

不意を突かれたおかげで眠気は消えた。

「さ、サンキュー……」

「全く、寝ないでよね。私の家族なんだから」

家族。

そうか。そうだよな。成り行きは置いておいて俺たちは家族になった。

麻耶のその言葉の聞こえがよくて俺は微笑んでいた。

「なによ。その変な顔は」

言い方はキツイがその顔は笑っていた。

俺もなんだか笑っていた。

そして、笑っていない数学教師が俺の目の前に立ったのは数秒後だった。

「そうかそうか。そんなに数学が面白くないか。まだ、隣の女の子と話している方が面白いか、ああ?」

一瞬で俺の額に冷や汗が滴る。

あれだけ暑かった空気が一瞬で氷河と化した教室。

その中で俺は固まっていた。

「よおおおし、お前に選択権をやろうじゃないか。次回のテストで百一点を取るか。窓から紐なしバンジージャンプをするか。無理だと分かっている女子に告白した映像を百万回クラスで上映するか。さあ、どれがいい?」

どれも嫌です!!

てか、これ脅迫だよね!? 教師が生徒を脅迫してる!?

「あ、あの、ほかの選択肢は――」

「死、だ」

「全力で拒否させてもらいます!!」

ダメだ、このバカ教師は俺を殺すことしか考えてない!

「せ、先生! 俺はトイレに行ってきます!!」

俺は立ち上がり逃走。そのままトイレまで一直線だ。

トイレに駆け込む前に誰かに手を引かれた。

「……麻耶!?」

「そこじゃ見つかるわ。こっち!」

俺の手を引いたまま麻耶が走り出す。

見つかる? 溝坂か?

「後ろを見てみなさい」

走りながら簡潔に麻耶が言う。俺は言われた通りに後ろを振り向くとそこにはこないだの死神がわんさかいた。

「ななな、なんじゃこりゃ!!」

「あなたが逃げたあと教室中をこいつらが埋め尽くしたの! 多分、誰かの妄想だと思うのだけれど、誰のかまでは断定はできなかったわ!」

これが妄想の具現化なのか!? これはもう恐怖だよ! それ以外に感想がないよ!!

「どどど、どうするんだよ!」

「取り敢えず屋上に誘き寄せて一気に狩りたいのだけれど、他の生徒の夢を食べてるのよ! 早く何とかしないと大変なことになるわ!」

人の夢を食べ始めてる?

「この学校にいる生徒は私の使い魔が眠らせてくれたから目立ちはしないだろうけどもここじゃ狭いわ」

だからといってどこかに誘き寄せる餌もないのだろう。麻耶は初めて俺の前で焦りを見せる。

「てか、お前はこの数を一人で相手にする気か?」

「そうするしかないでしょう? 全員を犠牲にするより、ひとりでも多くの人を救えるのなら私は後者を選ぶわ!」

そう言って、鉄のシャーペンを取り出し鞘から剣を抜く形を取る。

「鉄よ。固く冷たい鉄よ。鋭く切り裂く劍となれ!!」

長い剣がシャーペンから生成されていく。

ダイヤモンドの輝きを放ちながら生成された剣は目の前にいた死神を一気に三体も切り伏せた。

だが、その数はごく僅かでありまだまだ多くの死神が残っている。

「クッ、やっぱり私一人じゃ……」

弱音を吐きながらも次々と死神を倒す麻耶。

その動きはまるで羽だ。

軽い動きで敵を翻弄し、強靭な攻撃で相手をねじ伏せる。強さを持った羽。

そんな麻耶に見とれていると麻耶が叫ぶ。

「危ない!!」

俺は後ろを振り向くとそこには俺の首目掛けて振り下ろされる鎌があった。

殺される。

瞬時にそう思った。

『砕けろ』

鎌が首を刎ねるまさに瞬間。そんな言葉が俺の脳裏を横切る。

すると、鎌は俺の首に当たる瞬間で砕ける。

「Keeee?」

死神が何が起きたのかわからないような声をあげる。

俺も何が起きたのか理解が追いつかない。

だが、俺が鎌を破壊したのは事実だ。

「よくやったわ! まずはこの場から逃げるわよ!」

そう言って麻耶が再び俺の手を引く。

「ど、どこに行くんだよ! どこに行ったって同じだろ!?」

この数じゃ逃げるのは不可能だ。

「あなたを守ると言ったでしょう! 少なくてもあなただけは守りきって――」

「そんな事関係ない! 逃げたって平穏は帰ってこないんだ! それにこのままにすればみんなの夢が食われちまうんだろ?」

俺は引かれていた手を振り払う。

無論、平穏を諦めたわけではない。だが、このまま逃げたとしても平穏は帰っては来ない。ならば、平穏が帰ってくる極僅かな確率の方に賭けた方がいいと判断したんだ。

「お前が俺を守るというなら、俺の平穏も守りやがれ! それができないのなら、出直してこい!!」

俺の言葉に麻耶が動く。

どうやら、俺の言葉が届いたようだ。

「わかったわ。私はあなたを守ると言った。あなたの言うとおりあなたの平穏も守ってみせましょう!!」

再び剣を構えなおす麻耶。

そんな光景を眺めていると教室の方で死神が女生徒に近づいていくのが見えた。

まさか、あの子の夢を食うつもりなのか?

俺の体が瞬時に動く。

教室のドアを容赦なく開け、死神に向かって走る。

「やめろォォォォ!!」

自分でもなんでこんなことをしているのかわからなかった。

だが、体がそうしろと言っている気がする。

だが、俺の突進も虚しく俺は死神の鎌に吹き飛ばされ教室の壁に背中をぶつける。

「ぐぁ!!」

吐き気が一瞬俺を襲う。

しかし、そんなものに浸る時間さえ与えられず俺は死神の標的になってしまう。

死神が俺に向かって進み寄る。

背中をぶつけたせいでうまく力が入らなくなった体で立ち上がろうとするがやはり立てない。

殺されてしまう。

再び死を宣告される中、俺の脳裏に言葉が浮かぶ。

『我を抜け。我を抜け』

何を抜くんだ?

その言葉の意味が分からない。

死神の鎌は麻耶が間一髪で防いでくれたが数が多すぎるのか麻耶は苦い顔をする。

三十以上の死神が俺たちを囲む。

「これは……まずいわね」

逃げ場を無くした俺たちは生き残る手段を探すのだった。

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