第三十九話 いつもの日常
いつもの日常
学校、それは学び舎である。
学校、それは子供をひと括りにするものである。
学校、それは地獄である。
「なんで俺が夏休みに高校になんぞ来なくちゃいけないんだ!」
俺は夏休みにもかかわらず、暑い中、学校に来ていた。
「しょうがないでしょう? あなた、赤点を取るんですもの」
「うっ……」
そうなのだ。
俺はこないだ、厳密には夏休み最後のテストで赤点を取ったのだ。
そのせいで俺は今、學校なんてものに来なくちゃいけない状況なのである。
所謂、補習であった。
「ほら、早く行くわよ」
麻耶が俺の手を引っ張る。
チクショウ、なんでこんなにコイツの手は柔らかいんだよ!
そんなことを思いながら俺は教室まで連れてかれた。
「京介、そこ間違ってるわ」
「ゲッ、マジか」
「そこも間違ってる。あなた馬鹿なの?」
「言い返すことも出来ない自分がなんかかわいそうになってきたよ……」
今、俺は補習を受けている。受けているのだが、なぜか、俺だけ個別授業みたいなものになっている。
「チクショウ! なんで兄弟には麻耶の姉貴が付いて、俺には悪魔が――」
「喋る暇があったら先を進めろ。このままでは遊びに行けないではないか」
亮二にそういうのは悪魔、魔王のひとり、マモンの鮮水未来。
あの戦い以降、悪魔は人を狩るのを辞めた。
だが、そんなことをすれば魔王たちは死んでしまうので対策として俺たち表の王らが幸せを分けることになったのだ。
そして、あの二人はパートナーとなったのだ。
なんでも、亮二のことが好きみたいなことを言っていたような……。
「他所を見る時間があったら、少しは勉強に力を入れてもらいたいものだわ」
麻耶の愚痴が俺の手の進むスピードを早める。
これ以上、麻耶を怒らせるのは俺としても容認できない。
亮二よ、お前はまだ救われてるんだぞ?
俺なんて、一歩間違えれば命がなくなるんだから。
あれ? なんか、視界がボヤけてきたよ。
俺は目から流れる汗を拭い、補習の続きをする。
静かな教室、鉛筆の芯が紙に文字を書き記していく音だけが鳴る空間。
こういう時ってかなりの確率でやる気が消えるんだよなぁ。
案の定、俺のやる気は枯れきり、麻耶にバレないように遊び始めた。
「さっきから、手が動いてないのだけれど」
「ゲッ」
ああ、バレてしまった。お、怒られるんじゃないか?
俺が身構えると麻耶は開いていた教科書を閉じ、俺の方を見る。
「まったく、あなたのための補習なのに……仕方ないわ。少し、休みましょうか」
おおう!? 麻耶が優しいだと!?
どうしたことだろう。あれだけ厳しい麻耶が休もうだと!? 天変地異でも起こるのだろうか。
「私だって鬼じゃないわ。休ませることくらいするわよ」
「おお! 神よ! お前はどんなものより素晴らしいぞ!」
俺が褒め称えると麻耶は頬を朱色に染め、「そ、そんなことないわよ……」と恥ずかしそうに言い出す。
「おい! 兄弟! お前だけ休むな! ……はっ! そうだ。未来、俺も休みを――」
キッと鋭い視線が亮二を突き刺す。
「ひいっ!」
「お前は私に遊ばせないつもりか?」
マモンの低く、重い言葉が亮二に向けて発せられる。
「い、いや、一人で遊べばいいじゃないですか」
亮二は迫力に負けたのか、敬語になっている。
「クッ、私はお前と遊びたいと言っているんだ! それくらい気づけ、バカ――――!!」
教室中に響く大声。
亮二は震え上がっていた。
俺は少し笑っていた。麻耶もそれに釣られて笑っていた。
亮二よ。お前のパートナーは欲が深そうだな。
「き、兄弟、お前は俺の気持ちがわかるよな?」
亮二が俺に助け舟を求めてきた。
しょうがなく俺は、
「麻耶、今日このあとどっか行くか?」
あっさりスルーしてやった。
「おいぃぃぃぃ!! 裏切ったな!? 裏切ったな、兄弟!!」
「おいそこ、うるさいぞ! 補習時間、三時間追加だ!!」
亮二の表情が一気に冷め切った。
うわー、かわいそうに。
「磯崎、貴様もだ!」
「はい!? なんで俺まで!?」
「文句か? 文句だな? 文句したな? 追加――」
「喜んでやらせてもらいます!」
くそう! 亮二め! 俺まで追加されたじゃないか!
亮二の目はすでに死んだ魚みたいに腐っていて、黙々と問題とにらめっこしていた。
俺もため息を着きながらも問題を解く。
麻耶がいて、亮二がいて、佳奈がいて、王牙さんが――
あれ? 見覚えのない人たちが……。
「なんであんたたちがここにいるんだよ!!」
窓の外に王牙さん、佳奈、その他大勢がいた。
「ははっ♪ 面白そうだから来てみたよ♪」
舌をちょびっと出して可愛らしくする佳奈。
「これが学校か。まあ、俺様の学校生活はこんなもんじゃなかったがな!」
王牙さんがどうでもいい自慢をしてくる。
「ぱぱぁ!」
水姫が物珍しそうに辺りを見ながら俺に抱きついてくる。
ああ、なんでこうなった? なんでこうなりますかね?
それでも、俺の日常は進んでいく。
「おい、磯崎! お前は部外者を校内に入れたのか!!」
先生の怒声が響き渡る。
「はぁ、もうどうにでもなれ」
俺は呆れながらもその場に座ってシャーペンを回す。
ああ、なんか。
夏休みが俺をイジメるよ




