第二十一話 守りたいもの
守りたいもの
無人島に来て数時間、なぜかわからないが俺は勝手についてきた摩耶と新しく出会った信吾が目の前で戦い出してしまった。
麻耶の鋭い攻撃を信五は何事もなかったかのように避け、あるいは己の拳で跳ね返す。
「あ、あいつはほんとに強いんだな」
俺は半分呆れたように肩を落とし信五を見る。
信五は本当に楽しそうに戦っていた。
麻耶は……言うまでもなく必死そのものだ。
「なんで拳で精錬された鉄を跳ね返せるのよ!!」
麻耶はとうとうキレた。そうだよ。俺も最初はそう思ったよ! だけどあいつはそんなのお構いなしにぶつけてくるんだよ!!
信五にはどうやら不思議な力があるみたいだ。そう、例えるなら潜在的な主人公のような力が。
「ちっ! どうしたよ! そんなんで終わりか!!」
信五の攻撃は止みはしない。それどころか、あの麻耶が押されている。
「鉄よ。瞬足の愛馬よ。ランスロットの名において顕現せよ!」
地面に何本ものシャーペンを突き刺し、言霊を唱える麻耶。
すると、地面から大きな馬が現れた。その馬は信五に向かって後ろ足を上げ蹴り上げる。
「これで――」
「残念、こんなんじゃ俺は倒せねぇよ!」
なんと信五は蹴り上げに自分の防御が追いつかないと判断すると頭突きした。
そして、馬を木っ端微塵に吹き飛ばし、余裕で隙ができている麻耶に飛びかかる。
「う、そ……」
麻耶の懐に入り攻撃の瞬間を用意する信五。
嫌な音を上げながら麻耶は吹き飛ばされる。
「麻耶!」
俺は思わず叫んでしまう。あの麻耶がこうも簡単に倒されてしまう。それが俺の中に何を芽生えさせようとしていた。
「……お前は叫ぶだけか?」
信五の冷たい視線が俺に向かう。
なん、だと?
呆然と立ち尽くす俺に信五は再度問う。
「お前は仲間の危機を見て叫ぶだけなのか?」
そんなんじゃない。俺は戦えないんだ。剣がない、力がなければどうやって戦えばいいんだよ。
「剣がなくてもお前には腕があるだろ? 力がなくても勇気がある。お前は逃げてるだけだ。俺という最大の敵からな」
その言葉が俺を貫く。震撼させる。
別にこいつの言っていることはあっているわけじゃない。でも、こいつが言っているのは正論だ。
だが、それでも俺は――
「俺は平穏な生活がしたいだけなんだ。戦いなんて望まない。平和な生活が欲しいだけなんだよ。お前に何がわかる。こんな能力を持ったせいで俺は普通の生活ができなかったんだぞ!!」
俺の精一杯の叫びだった。これまで俺の中にしまっていた感情が一気に吹き出す。
「……だからなんだ?」
だが、答えは呆気なく、質素なものだった。
俺は完全に怒りが心を支配する。
「お前みたいな狂戦士に俺の何がわかるんだ!!」
「何もわからないさ。お前みたいな臆病者のことなんて。それにお前の状態がほんとにお前だけだと思っているのか?」
信五はそういう。俺は過去を振り返った。水姫、王牙さん、亮二。みんな自分なりの生活を、普通の生活をしていた。そして、麻耶。俺を守ってくれると言ってくれた女の子、俺の平穏を取り戻してくれると約束してくれた女の子。
ああ、何も分かっていなかったのは俺か。
自己中心的な考えで。なんでもかんでも周りのせいにして。
でも、それが何だよ。
俺の意思は変わらない。俺はこんな能力なんていらなかった。そのことで喚いて何が悪い!
「はぁ、まだよくわかってないようだな。――失っても知らないぞ?」
信五はその言葉を最後に俺の目の前から消えた。否、神速になり麻耶に攻撃を食らわしているのだ。
麻耶から悲痛の声が漏れる。
「ま、麻耶!!」
俺の叫びに麻耶は微笑む。痛みに耐え、ホントはもう倒れたいのに立ち上がる麻耶。
麻耶、なんでお前はそこまでして戦うんだよ。
「まだ気づかねぇのか? コイツはお前を倒した俺に復讐するために戦ってんだろうが!! そんなお前がそんなところでただ見て叫ぶだけか!! てめぇはこの世界の主人公だろうが!!」
主人公。違う。俺はそんなんじゃない。そんなんじゃないんだ。
俺はこの世界の歯車で、世界はきっと違うものを中心で回っていて。
だから、俺は――
「先輩からのありがたいお言葉をやるよ。主人公ってのはなれるものじゃねぇ。なるもんだ! なりたいと信じて、なろうと努力することだ! お前はどうだ? 主人公になりたくないのか?」
ボロボロになった麻耶の頭を鷲掴みにし信五は叫ぶ。
俺は未だに動揺していた。
なれるのか? 俺なんかが、主人公に。
「き、京介。あなたは、私が――」
――守るから。
なんだ。迷うことなんてないじゃないか。なれるのかじゃない。なるんだ。ならなきゃいけないんだ。
俺のために傷ついてくれた少女がいる。
俺なんかのために悪役をやってくれた人物がいる。
そこまでさせて俺はまだくすぶってるつもりかよ。
「剣よ」
俺の中に無数の言霊が現れる。
「無数に広がる、神剣よ」
地面から無数の剣が着き出る。
その一つを俺は手に取る。
俺は頬を伝う一筋の涙を感じながら剣に力を込める。
勝ちたい。その一心に俺は走り始めた。
「はは! そうだ、こい! お前の物語をぶつけてみろ!!」
剣は心、俺が思えばなんでもできる神技になる。
なら――
「麻耶! お前のシャーペンをくれ!」
信五の元を離れていた麻耶に要求する。すると、最後の力で俺に鉄のシャーペンを渡してくれた。
俺が思っている通りなら、きっと。
「頼む、麻耶に新しい能力を!」
そう念じると鉄が輝きを帯びる。地面に落とすと地面の中に消え、麻耶の前に現れる。
「唱えろ! お前の言霊を! 麻耶!!」
地面に伏せている麻耶は小さな声で唱える。いつものあの言霊を。
「鉄よ。冷たく固い鉄よ。鋭く切り裂く劍となれ」
すると、光を帯びた剣はいつもとは違う、しかし、神々しいくらいの輝きを放ちながら劍と化していく。
やっぱりできた。あれは、アロンダイト。英雄ランスロットの愛剣にして聖剣、伝説の剣だ。
「こ、これは……」
「抜け! 俺と一緒にコイツを倒そう!」
俺ひとりじゃコイツは倒せない。どうしても麻耶が必要なのだ。
「で、でも、私は戦う力は――」
「お前ができない部分は俺がする。だから、一緒に!」
麻耶は嬉しそうに微笑み、精一杯の力で立ち上がる。
そうだ。俺と麻耶はパートナー。パートナーってのは二人で最強だろ?
俺は信五に斬りかかる。
「……なかなか、おもしれぇじゃねぇか。それがお前の物語ってことだな? いいぜいいぜ、いいなぁおい! 俺も久々に本気をだそうじゃねぇか!!」
そう言って信五は初めての後退。ミランデさんのところに行ったかと思いきやいきなりキスをし始めた。
「って、ききき、キス!?」
驚きを隠せない俺。
「はし、信五さん。いきなりはキツイですよ……」
「すまんすまん。だけど、お前の力が必要だったんだ」
信五はミランデさんをなでると俺に振り返り何か話し始めた。
「番外神話 第一章、第一節 神は人間に力を与えた」
唱えた瞬間、信五のオーラが変わった。
なんだ。何が起きてるんだ?
「第二節 神は人間に地位を与えた」
信五が俺に襲い来ようとした瞬間それを邪魔するものが入る。
「そこまでじゃ!!」
見ると空から一本の槍が飛んでくる。
あれは確か……グングニル?
「フッ――番外神話 第二章、第三節 そして、神は永遠の時間と無敗の英雄を創り出した」
信五がそれを唱えるとグングニルは信五に当たることなく霧散する。
「やっと出てきたか。オーディン」
「人間が神業を使おうとするのでの」
真っ白いヒゲに眼帯をつけたじいさんが現れる。
誰だ? このじじい?
「ちなみにこのじじいは神様だぜ? 堕落してるがな」
かかか、神様!?
「ただ、神の名を使える能力者じゃよ。儂はオーディン。北欧神話最高の神の名を持つしがない老人じゃ」
どうやら、俺の不幸は肥大したらしい。




