知らない世界
木の家の前に着くと、立ち止まった。
随分と古帯びた小さな家だと思った。
ところどころ朽ち果ててるように見える。
とても人がいるような雰囲気がしない。
呼鈴みたいのがないので、一応ドアをノックした。
コンコン。
コンコンコン…。
少し待ったが、誰も出て来ない。
当然だ。見るからに居るわけがない。
周りを見たが人影らしきものも見えない。
どうするか迷っていたら、勝手に入ってしまえと悪い心が囁いた。
悪い癖だなと思いながら、ドアを引いてみたら簡単に開いた。鍵は掛かっていないようだ。
やっぱりただの空き家かな。
と、思いつつ中に入ってみると、暖炉があり火が灯っていた。
さっきまで誰かが居た形跡がある。
外見からではわからなかったが、中はとても綺麗で誰かが生活をしている感じだった。
中を見て少し驚いた。
とても人が住んでいるようには見えなかったからだ。
少し部屋の中を物色していると、入口から怒鳴り声が部屋の中で響いた。
ビックリして振り返ると、羊の顔をした人間が入口に立っていた。
そいつの容姿を見た瞬間に俺の頭の中が真っ白。
顔が羊で体が人間?この奇怪な生物はなんだ?
「△☆※□◎!!!」
羊の顔をしたそいつは、何かを喋ってきたが分からない。意味不明な言語だ。
幻を見ているかのように、俺は唖然とした。
そいつは近づいて来て、いきなり腕を捕まれ。
外に投げ飛ばされ地面に顔がめり込んだ。
物凄い力だ。腕がジンジンと痛む。
いや、マジ顔も痛い。
どうやら、家主のようだ。
勝手に家に入れば、そりゃ怒られるよな。
とりあえず謝ろうか闘うか迷った。
そう思い、うつ伏せから起き上がろうとしたら
ゴッ!
後ろから頭を殴られ、強い衝撃と痛みが襲った。
また地面に顔がめり込んだ。
あの羊野郎は以外と強いのね。
殴ることはねぇだろって思っていたら、視界が段々と白くなった。
地面に横たわり、意識が薄れていった。
数時間後。
地面が揺れてるのが感じる。
ゆっくりと目を覚ますと、何かの乗り物にいるのがわかった。
見た感じ救急車ではない。
床の振動が大きく居心地は悪い。
薄暗くじめじめしたところで、肥料のような臭い匂いがする。
そして、ひどく頭痛がする。
最初はトラックの荷台にいる感じがしたが、周りを見渡すと、トラックの荷台ではないのは確かだ。何かに運ばれてるらしい。
だいぶ意識がはっきりしてきたので、起き上がろうとしたら手足が動かない。何かがくっついている。自分の手首を見ると、重い鉄製の手枷が両手首に付いている。
それと同じのが両足首にも。
逮捕?これ手錠?何で捕まってるの?…あ!不法侵入か…自分のやったことに後悔。
それにしても、これは酷い扱いだ。
必死にもがいていると、薄暗い隅の方から老人のかすれた声が聞こえた。
「おめぇさんよ、逃げだそうとしてもムダじゃよ」
日本語?日本人がいるのか。
声がした方を見たが薄暗くて、よく見えない。
とりあえずこの状況を聞かないと。じいさんに今の状況を聞いてみた。
すると咳払いしながら、じいさんがヒソヒソと答えてくれた。いや、堂々と話してくれよ。
聞かれたらまずい状況なのかよ。
「悪いことしたからギルムに捕まったんよ」
ギルム…?何のことなのか、さっぱり分からない。ギルムとは……どこかの国?
そう考え込んでいると、老人がゆっくりとこっちに近づいて来た。
薄暗くて顔は分かりにくいが、茶色い大きめのフードを被っていて白いひげを無造作に生やしているのがわかった。
随分と汚ならしいじいさんだな。
「ここは…あの奴隷馬車の中じゃよ…」
老人がそう言ってニヤリと笑うと、また隅
に引っ込んだ。
一瞬思考が止まったが、理解はできた。
どうやら俺はこのじいさんと一緒に奴隷になるみたいだ。この先、絶望しかないのがわかった。
ただ、気持ち悪いから笑うなよじいさん。
小さな穴から光が射し込んでるところを見ながら、途方にくれて考えた。
ここは一体どこなのだろうか。
奴隷制度がある国なんて昔のピラミッドの時代ならあったと思うが、羊の顔をした人間はいない。ここは一体……。
色々と考えていると、馬車が止まった。
数人が歩く音がする。何やら声も聞こえるが聞き取れない。近くで大きな扉が開く音がした。
少ししたら馬車は動きだした。
どこに連れて行かれるのだろう。
不安と恐怖が入り交じり、吐き気がした。
隅っこにいるじいさんの頭に吐いてやろうと、考えていたら、外が騒がしくなってきた。
どうやらどこかの町に着いたみたいだな。
ここからでは見えないが、人々がたくさんいるのがわかる。
そして、馬車が止まった。
鍵が外れる音がして、荷台の後ろ扉が開く。
外から眩しい光が差し込む。
外の方を見ると、牛の顔をした人間がいる。
俺はもうビックリはしない。一回で慣れるって凄いなと思った。よくモンスターで出てくるミノタウロスみたいな風貌だな。
すぐに俺は荷台から引っ張り出された。
まだ頭がクラクラするから丁寧に扱ってくれよ牛さん。もう立っているのがやっとなんだから。
周りを見渡してみると、中世ヨーロッパのような町だ。普通の人間も入れば奇怪な人間もいる。
変な衣装を着たやつもいる。だけど、どの人も現代よりも、かなり古い服装だ。
やはり、異世界か?
考える間もなく、牛さんに背中を押された。
歩けってことか。せめてモーモー鳴いてくれればわかるよ。
こうして俺は、牛さんに先導されながら歩き始めた。皆の視線が汚い物を見るような感じがした。不気味な笑みも見えた。
これは完璧に奴隷だと皆はわかっているな。
そんな見るな。死にたくなるだろ。
数分歩いたら、洋館みたいな立派なところに連れて来られた。