廃墟となった町
ぼちぼち更新していきましょう
視点:気絶していた女子高生
「・・・見慣れない天井ね」
自分は何を言っているのかと、呆れながら身を起こす。
目覚めた場所はベッドの上だった。
ボーッとした頭を揺らし、強引に意識を覚醒させる。
周囲には誰も居ない、自分一人だった。
机と椅子、円い窓とタンスとかなりシンプルな部屋だ。
窓から見えるのは青い空と海・・・海!?
意識が完全に浮上すると、窓へと貼り付く。
そこから見えるのは空と海、他には影さえも見つけられない。
「え、嘘、何コレ・・・・私、学校から帰って・・・!」
脳裏には帰路と幼馴染みの姿、そして―――異形。
「うっ・・・」
口元を押さえ蹲る。
夢だったとしてもリアルすぎる映像に、胃液が喉を遡る。
その時、ガチャッとした音と共に扉が開いた。
現れたのは、白と黒を基調としたエプロンドレス―――所謂 メイド服を纏った女性だった。
青みがかった髪を肩まで伸ばし、足首まで隠したスカートを履いている。
だが、それよりも眼に引く物があった。
ピンッと尖った長い耳、普通の人間には有り得ない代物だ。
「起きられました「此処は何処!? 何で私が居るの!?」意味が分かりませんが」
「意味がって、こっちが分からないわよ!」
湧き上がる激情を抑えられなかった。
此処は何処なのか、二人は何処なのか、訳も分からない現状に精神が限界に来ていた。
「いえ、ですから貴女はこの船の船員なのでは?」
「あんた、此処の人なんでしょ! 説明してよ!」
・・・・・・・・・・・アレ?
「「貴女が船員じゃないの(ないのですか?)」」
お互いに硬直すると、バツが悪そうに頬を掻く。
と、そんな時に鎧の男を思い出した。
「そ、そうだ。あいつは?」
「あいつとは?」
「あの鎧よ! あのでっかいの!」
「ああ、彼でしたら・・・」
メイドが指さしたのは、扉から出た廊下の一番奥。
「あそこね!」
駆け足気味に奥の扉に近づくと、勢い良く開けはなった。
そこは会議室のようだった。
辺りには地図や海図が貼られており、部屋の中央の長机には羅針盤らしき物が鎮座している。
目的の人物は、小さな樽状のコップから湯気の上っている物を飲んでいる。
「・・・・・何を飲んでんの?」
奏の存在に気づいたのか、鎧は空いているコップにポットから液体を注ぐ。
注がれたのは白い湯気が上る透明な―――
「お湯じゃないのよ!」
水を沸騰させたお湯である。
兜の口元だけ外して飲んでいる鎧は、何でも無さげに開いていた新聞へ目を通す。
それに書かれているのは日本語ではない、見た事もない文字だった。、
「―――って、そんなのはどうでもいいの!」
ダンッと長机を叩く。
「此処は何処! あんたは何者で、この船は何!? さっさと答えなさい!!!」
頭から湯気が出そうなほどに激昂した私は、目の前の鎧の肩をぶんぶんと揺らす。
「・・・ジョッシュ」
数分間はそうしていたが、不意に人名らしき言葉を発した。
「あんたの名前?」
「そうだ」
「ふ~ん・・・って、そういう問題じゃなくて! あとお湯を飲むな!」
コップを奪い取ると、鎧・・・ジョッシュは口元の部分を弄りスライド式にフルフェイスとなった。
「おーい、旦那-!」
本気でド突いてやろうかと拳をプルプルと震わせていると、短い金髪の青年が部屋へと入ってきた。
「お、起きたのか? 良かった良かった」
「誰? つーか・・・誰?」
「あーそういや、挨拶が遅れてたな」
わりぃと片手を上げて謝罪する青年。
「俺はアル、アル=ランフォードだ」
「・・・如月 奏」
「キサラギ? 変わった名前だな」
「あー奏が名前よ、私の住んでる所は名字が先に出るの」
へーと簡単する青年・・・アルとジョッシュを見比べていると、アルが口火を切る。
「旦那、料理とか出来ないか?」
「・・・いや」
「そうかぁ・・・そんじゃ、街に帰ってから飯だな」
腹を押さえながらアルは溜息混じりに呟く。
「料理・・・?」
「ああ、この船ってすげーんだ! 保存庫に特殊な術式が使われてて保存できる時間も量も桁違いなんだよ!」
思わず口から出てしまった疑問に、青年は喜々として答える。
「動力は強力な魔力炉でメインが一つ、サブが三つ! 風が無くとも移動できる上に他にも多彩な機能があるみたいなんだ!ああ知りたい、触りたい、分解したい!!」
これ以上は聞きたくないので、強引に話を変えよう。
「それで! 誰も料理できないわけ?」
「あ、ああ俺も出来ないしレフィ・・・一緒に居た女に作らせれば死人が出る」
ガクガクと顔を青ざめてアルは震える。
「・・・ねぇ、ちょっと見せて貰っても良い?」
「うお~~~~~!」
「簡単な物しか出来なかったけど、食べましょうか」
キッチンからエプロンを外した私はは、ジョッシュとアル、メイド服の女・・・レフィを席に座らせる。
テーブルの上にはライムを乗せた魚の塩焼き、魚介を煮込んだスープが器に盛られていた。
「美味しそう・・・」
レフィは感嘆としている。
「というか、アレだけあってまともに料理もしないなんて・・・何を考えてんの?」
奏は呆れたとばかりの声音ジョッシュに尋ねた。
ジョッシュ、寡黙で何を考えているか分からないが悪人ではない・・・と思う。
こればかりは勘でしかないが、たぶん当たっているだろう。
そして・・・彼は兜を外す。
黒い髪、琥珀色の眼、そして鼻の頭に走る一文字の横傷。
その素顔は美麗、という物ではない。
さながら歴戦の戦士、そこには一言では片付けられない深みがあった。
それをふまえると確かに美丈夫と言って良いはずだ。
「・・・美味いな」
表情を変えず・・・いや、僅かばかりに口元を綻ばせるジョッシュ。
思わず見惚れた、今まで周りには居なかったタイプだったから尚更・・・はっ!?
「(何を考えてんの! 私は)」
「奏様、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。アル様の従者を務めておりますレフィーナと申します。レフィとお呼びください」
レフィはスカートを摘み、優雅に挨拶した。
「アルさんって、いいとこの人なんですか?」
「ま、まぁそんなとこ。あと敬語は要らんよ」
それは僥倖、まずは手始めに・・・
「色々とハッキリさせたいんだけど」
「―――だな、俺も混乱してきた」
現状の確認だ。
「私は如月 奏、歳は18で高校3年生。帰宅中に気がついたらあそこに居た」
必要最低限以下の説明、そこに彼女の警戒心が見えてくる。
「さっきも言った通り、アル=ランフォードだ。冒険者っつー何でも屋さ」
「アル様の従者、レフィーナ=セリダムです」
三人がそれぞれ名乗ると、視線が黙々と食事を続けるジョッシュに集まる。
「・・・ジョッシュ、オクトパス号船長」
それだけ、他には何も語らない。
やっぱり殴るか、そう考えていると・・・
「・・・・・・なぁ、旦那。オクトパス号って本当か?」
固唾を飲みながらアルが質問した。
それがどうしたのかと問いかけたくなったが、今は様子を見ることにしよう。
「ああ」
「本当に、“あの”オクトパス号なのか!?」
「ああ、俺の船だ・・・・ずっと前から変わらない」
どういう意味だろうか?
首を傾げると、レフィが耳打ちをしてくる。
「オクトパス号というのは、今から数百年も昔に大海原を駆け抜けた魔導船の名前なのです」
「魔導船? そう、そこよ! そっから何もかも分かんない!」
何が魔導船だ、何が数百年前だ、いい加減にして欲しい。
「説明してよ! 此処は何処なのよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・海だ」
ドンッ!
事も無げな呟きに堪忍袋の緒が切れ、全力で床を踏み叩いた。
「・・・・もう、わかんない・・・」
やり場のない怒りに震えながら、私は部屋を出て行った。
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気がつくと、私は甲板で潮風に当たっていた。
潮の臭い、波の音、風が心地よく頬を撫でる。
「・・・・・・どうした」
そこへ声音さえも変えずに、ジョッシュが近づいてくる。
「・・・ごめん、さっきはどうかしてた」
「・・・そうか」
「うん・・・」
それだけで会話が途切れてしまう。
「・・・ねぇ、此処は何処なの?」
「・・・蒼穹の海」
蒼穹の海、声に出さずに繰り返す。
確かに海は鮮やかな蒼色だ。
「・・・気がつけば、船の上にいた」
「それって―――あんたも何で居るのか分からないの?」
「南の港町に船を泊めていた、後は知らん」
もう少し聞こうと思ったが、ジョッシュは腰にぶら下げていた双眼鏡を構えた。
「・・・もうすぐ、町がある」
「アルとレフィさんが言ってた?」
「そうだ、あと一時間と掛からん・・・いや、分からん」
「はぁ?」
どういうことだ、そう問いかける前に双眼鏡を突き出される
見ろ・・・という事だろうか?
双眼鏡を受け取り、彼が見ていた方へと向けると・・・
「・・・・・・・え?」
黒い煙のような物が、陸地から上がっていた。
視点:口数少ない男
あれまー何だか酷いことになってんね。
船から下りると、そこはまさしく廃墟だった。
至る所から黒い煙が上がり、建物は無事だと呼べそうなのは一つもない。
「何だよ、こりゃ・・・」
「魔獣の仕業でしょうか」
魔獣・・・モンスターか? どうかねー
この一帯は魚人系のモンスターばかりだった、だけど此処まで出来るかな?
奴らは怪力で数も多い、だが基本的に陸周りの浅瀬には近づかない。
あと教会があると近づけない筈、だから町に攻め込めるモンスターは上位でも数少ない種族だけだ。
ご丁寧に教会までぶっ壊れてら。
しっかし・・・被害のワリには死体がないね、無意識でフィルター掛けてんのか俺の夢。
女子高生・・・奏ちゃん?は、ビクビクしながらマントを握ってる。
prprしたくなる衝動を抑えながらも、辺りを見回す。
すると、崩れた家屋から物音がかすかに聞こえた。
「あ、旦那! あんまり動かない方が・・・」
アルの制止を片手で応え、瓦礫をどかす。
ごっとり。
重々しい音と共に瓦礫を持ち上げると、そこには目に涙を浮かべた少年がへたり込んでいた。
「な、なんだよ・・・」
震える少年は恐怖で体が動かないのか、僅かに身じろぎするだけだ。
茶髪を短く切りそろえた少年は、埃を被ったのか汚れている。
「お、やっと一人見つけた」
よかったーとアルは安堵の息を吐く。
「あの小舟、返しといてくんね?」
・・・おいおい、子供に言う事じゃないって。
内心呆れながら、震える少年を抱きかかえる。
抵抗しようとジタバタしているが、夢の俺はハイスペックなので無駄だ。
「・・・・・親は、どうした?」
無駄だと悟った少年は、顔を背けて・・・
「・・・・・・・・居ないよ、俺は孤児だ」
重たい答えが返ってきた。
orz・・・・俺は子供に何てことを聞いたんだよ。
地面に降ろすと、少年は海を睨みつける。
「海から、変な奴らが来たんだ・・・」
「変って、あの魚人間?」
奏の問いに少年は首を振る。
「マーマンじゃないよ、あいつらは陸には近づかない・・・見た事もない奴らだった」
うう~~む、どういうことかね?
まぁ、とにかく。
「・・・飯、喰え」
そう言うと、俺は少年を米俵のように抱えて船に向かった。
「お、おい旦那!?」
「カナデ様、お食事の準備を致しましょう」
「おっけ~、任せなさいな」
女性陣は意図を察したのか、足早に船へと向かう。
?を出しているアルも置いて行かれては堪らないと、同じく船へと走り出した。
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先ほどの食事の残りを温め直し、少年はガツガツと口に放り込んでいる。
食堂にはジョッシュと奏、先ほどの少年だけだった。
アルとレフィは機関部を眺めているそうだ、何が楽しいんだろうか。
「うめぇ~~!」
満足げに腹を叩く頃には、皿の上の料理は無くなっていた。
「うわー食べたわねぇ」
「孤児院じゃあんま食えないからね、食える時には食わなきゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・(。´Д⊂)」
やばい、本気で不憫だ。
そう思うと俺って恵まれてたのね、おおっと忘れちゃいかん。
「・・・・・孤児院、とは」
「そうよ、他の人達は?」
「・・・・・・・・・消えちまった」
少年の話を纏めると、アル達が小舟に乗って海に出てからしばらくした頃に、海から黒衣を纏った集団がやってきたらしい。
宙に浮かび全身から邪悪な気配を醸し出す集団を見て、町の住民は警戒しながら様子を見ていた。
その瞬間、黒衣の集団は町中にばらけた。
生きた人間とは思えないほど青白い手で、住民達を捕まえ・・・捕まった住民は煙のように消えてしまったらしい。
それを見た者達は恐怖に染まり、我先にと逃げ出した。
武器を持って戦おうとした者達も、呆気なく消されてしまった。
少年は雑貨屋の影に隠れて難を逃れたそうだが、その後に黒衣の集団によって行われた無差別破壊によって動けなくなってしまった。
「黒衣の集団かぁ・・・」
うーーーーーん、アンデッド系かな・・・
触れただけで消えるというのみ気になるが、夢だから気にしない。
「あんた、名前は何? 私は奏よ」
「ビット、ビット=レインコール」
ビット少年は奏に心を許しているのか、その表情に影はない。
しばらく話していると、ビットは大きな欠伸をし始める。
そして、椅子に座ったまま寝息を立てる。
「・・・・部屋に運ぼう」
「あ、私が寝てた部屋で良いかな?」
「構わんが・・・」
「・・・・・人の気配がない部屋って、辛いと思うんだ」
や、優しい子や・・・(´;ω;`)
そしてビットをベッドに寝かせた頃―――
海は・・・一つの異変を生み出していた。
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