プロローグ? アレー?
憑依・トリップ・勘違いなど初めての試みを凝縮してお送りします。
先は分かりません、見切り発車で行きましょう
《システムメッセージ》
《ネプチューンの三ツ又槍:海神を入手しました》
うっしゃーーーーーっ!
1LDKのそこそこ良い部屋で、男は歓喜の声を(胸の中で)上げた。
声に出していれば、防音の効果が高い部屋でなければ、すぐに隣の部屋から苦情が寄せられるであろう声量だ。
フローリングの上にある作業台、そこに設置されたパソコン。
男の視線の先にあるディスプレイには、全身を灰色の鎧で固められた大男が映し出されていた。
やっと属性武器が揃ったぞ! うはっwww
男は胸中で歓喜が渦巻くのを感じていた。
三日三晩、パソコンの前から退かなかった努力が報われた!!
何? 仕事はどうしたのかって?
二年前にサラリーマンやめました、無職楽しいですwww
ぶっちゃけ、宝くじで○○円が当たりました、億ですよ億!
両親はオーストラリアに移住、俺は日本でネトゲ生活!
いやぁ、あの頃は金運が寄ってくること・・・
大抵の宝くじは当たり、賭け事には勝ち、金の絡むことには失敗はなかった。
今はこの大人気MMORPGであるヒーロー・オブ・レジェンド・オンライン―――通称、H・O・L・Oをプレイしている。
世界観は剣と魔法の世界、プレイヤーはダンジョンやクエストを受け冒険を楽しむというありふれたゲームだ。
このゲームの魅力はやり込みと種族・職業の多さに限る。
百以上の職業と、細かな設定などがそれだ。
まず所持できる《持ち物》が限定される、正確には所持できる重量が設定されているのだ。
この重量というのは装備―――武器、防具などもプラスされて計算し、キャラの筋力・身長などから最大値が出されているため格好良いキャラにしたプレイヤーは悲惨だった。
最古参に分類される俺も、好みのガチムチキャラでなければアウトだっただろう。
無論、対処法が無いわけではない。
《転生》というシステムが有り、特定の《技能》や能力パラメーターを選択し、別のアバターに引き継がせるという物だ。
このシステムを使用するには成長限界、つまりは作成したキャラを最大レベルにまで達しなければ使用出来ない。
また、何度も《転生》させれば引き継げる能力が増える。
最終的に何回行えばいいのかは、正直に言うと考えたくなかった。
俺自身は39回もの《転生》を行っている。
次に示すのは《技能》についてか。
上記した重量や、その他諸々の助けになる物だ。
技や魔法、武器作成や罠解除、筋力強化など種類は様々。
中には特定の種族・職業で無ければ習得出来ない《技能》もある。
最大で12まで習得出来るが、俺は10習得した。
《技能》は使えば使うほど成長し、強力な《技能》へ変化する。
例えば剣の攻撃力と命中率を上昇させる《剣技》は、最初は《見習い》から始まり《熟練剣士》、《剣豪》、《剣聖》と変化する。
《見習い》から《熟練剣士》になるには、剣による攻撃を250回、与えたダメージ総量が1000にならなければならない。
最初は楽に感じるが《剣聖》になるには、その何千倍もの経験値や習得する技が必要になる。
さて、そろそろ恍惚タイムは終了だ。
今先ほど入手した属性武器《海神》は、水属性の最上級武器の一つだ。
入手法は《海神の指輪》、《小波の法螺貝》を装備して海底ダンジョンの砕億部のモンスターを倒すこと。
ソロプレイには辛い物があったが、最古参プレイヤーならギリギリ出来る難易度だ。
属性は全部で八個、火・水・土・風・雷・光・闇・竜である。
これでやっと全属性の最上級武器が揃ったのだ、感極まるのも仕方がない。
本当なら大声を出して喜びたいが、俺には出来ない。
声が出ないとか、そういうのじゃない。
先ほどから一度も声を出していない事に気づいていただろうか?
そう、これらは全て心の中で喋っている内容だ。
俺は無口、無表情だからだ。
それを聞けば必ず「えっ?」と思うだろう。
しかし事実だ、悲しいことに。
心の中ではこんなにも饒舌なのに、俺の口と顔はまったく変化しない。
いつも「ああ・・・」とか、「うむ・・・」とかしか言えない現実!
当然の如く友人も恋人もない、この鎧の如く灰色の人生を送ってきた。
俺がネトゲに逃げた理由が、この現実から目を背けるためだ。
笑いたければ笑ってくれ、自分でも情け無いと思う。
でも、でもH・O・L・Oなら画面越しに文章だけど話せるんだ、コミュニケーションが取れるんだ。
・・・話が逸れた。
俺のキャラ名はジョッシュ、職業は《大将軍》だ。
戦士系の最上級職で、体力・筋力・耐久力に優れ《特殊技能》が3つもある。
《特殊技能》とは12の《技能》スロットには含まれない、その職業だけの《技能》を指す。
戦士系では《聖騎士》、《暗黒騎士》などの魔法も使える職業とは違い、完全な物理戦闘系だ。
この二つは攻撃力が高い代わりに、耐久が紙だから選ばなかった。
ピコン!
ん? 誰かが話しかけてきたな。
『すいませーん、乗せてくれませんか-?』
『良いですよ、どぞー』
画面内には無骨な軍艦を彷彿とさせる船が、時キャラと話しかけてきた他プレイヤーを収容する。
H・O・L・Oは広大なフィールドを旅するため、何らかの移動手段が必要となる。
徒歩だけで2~3時間掛かるなど常だ。
その為、馬車や船、飛空挺を使用するわけで、毎月に一回だけ行われる緊急クエストには景品として自分だけの船を入手出来る場合がある。
この船はやって一年目の時に偶然、入手した代物だ。
ただの帆船だった船は、H・O・L・O内で使用される通貨―――グリオンを改造費として街の工場に支払うことで此処まで進化した。
しかし、掛かる費用と時間とは裏腹に人気は低い・・・と言うよりも、全ての乗り物には人気はさほど無い。
何故なら乗り物を操作するのに、貴重な《技能》を一つ埋めなければならない。
この船は海・空を移動出来るため2つ陸用の移動手段も含めると3つもスロットを消費している。
だが、後悔はない。
公共の乗り物は行く場所の難易度・距離に合わせて金額が跳ね上がる。
個人の持ち物ならその必要は無い、だから乗り物持ちはクエストではなく運搬などで経験値を稼ぐ。
だが、そんなのは二の次だ。
『ありがとー、助かったーー』
『またの御利用をー!』
近場の街の船着き場に乗せていたプレイヤーを降ろす。
そう、これだ。
こうやって他のプレイヤーとコミュニケーションが取れる、それだけで充分なんだ。
最低限の運賃は貰ってるが、そんなの他から比べれば雀の涙に過ぎない。
・・・そう言えば、あいつらは元気かな?
同時期に始めた他の3人のプレイヤーの存在を思い出す。
3人とも独自のギルドを立てており、何度か誘いを受けた。
しかし、今はこの運搬プレイが気に入っている。
依頼としてなら受けるが、メンバー入りはしない。
さてと、今日は少し休むか。
拠点も兼ねているオクトパス号(船の名前)の碇を下ろし、ログアウトを選択・・・あれ?
《メッセージが入っています》
何だ? 調整を行うから矯正ログアウト勧告か?
《貴方は幾つもの冒険を潜り抜け、偉業を成し遂げました》
《最上級の4人のプレイヤーには、緊急クエストを依頼します》
《緊急クエスト:異界の危機》
《称号:異界からの来訪者》
???? 異界って・・・裏ダンジョンとかそういうのか?
《依頼を受注しますか》
《YES》 《NO》
・・・・まぁ、断る理由はないしな。
《依頼を受注しますか》
ヒア《YES》 《NO》
《ステータスの確認を行います》
確認? 何で? 条件とかあるの?
《NAME:ジョッシュ》
《MAIN JOB:大将軍》
《SUB JOB:大神官》
《RACE:HUMAN》
《GENDER:MALE》
何か、嫌な感じだな。
《SPECIAL ITEM》
《オクトパス8号》
《グレイタンク13世》
《巨神の鎧》
《巨神の兜》
《巨神の手甲》
《巨神の脚甲》
《巨神のマント》
《聖者の外套》
《守護者の指輪》
《狩人の首飾り》
《片手剣:閻魔》
《片手剣:氷鬼》
《両手槍:海神》
《両手斧:覇王の戦斧》
《両手弓:ウィンダスト》
《両手爪:紫電》
《片手杖:ホーリーロッド》
《両手剣:魔神の牙》
《投擲剣:餓竜》
・・・・おい?、何か操作が受け付けないんですけど!?
《SPECIAL SKILL》
《全隊指揮》
《近衛兵団》
《万夫不当》
《SKILL》
《重量半減》
《海戦の覇者》
《空戦の覇者》
《陸戦の覇者》
《瞑想》
《武芸百般》
《聖者の祈り》
《薬草達人》
《巨神の加護》
《運搬王》
《SPECIFIC SKILL》
《秘めたる思い》
《異界の知識》
《永続金運》
《不変形相》
《それでは良き旅を・・・》
ちょっとまっ―――
その瞬間、地球上から4人の男女が消失した。
眼が覚めたら船の上だった、アレー?
これからどうなるやら・・・
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