桃園の誓い
桜の満開の下、そして満月の下で、三人の男が杯を交わしていました。
「貴様ら!彼女との卑猥極まりないアーチを撮影した写真で俺の携帯の画像フォルダを満杯にするという野望は何処へ行った!」
そしてその内の黒髪の男(以後黒髪)が、夜空に虚しく咆哮しました。
「んなくだらない野望、お前の母親の子宮の中にしかないわ」
金髪の男(以後金髪)がヘラヘラと笑みを浮かべながら言い捨てました。
「お前ら、喧嘩などするな。我々の目的を忘れるでない」
二人の喧嘩腰会な会話を遮るように、茶髪の男(以下茶髪)が言いました。
「我々がここに来たのは、泣き劉備三兄弟の桃園の誓いを我らが引き継ぐ事であろう」
そして眠そうに、茶髪はこう付け足しました。
何を隠そう茶髪の言う通り、この三人は『現代版桃園の誓い』を果たすためにここへ集まってきたのです。この三人は大学で出会い、泣き、後悔し、嫉妬し、怠惰しあった仲なのです。
『そんな仲など不要である』と三人は思いつつも、彼らは腐りすぎて腐敗臭しか漂っていない腐れ縁というよりも臭いの帯と言う方が正しい帯で繋がっているために、互いから離れようとしてもその臭いでまた集まってしまうのです。形容するならば、ゴミに群がるハエです。
そんな彼らが『こんな中途半端な縁で良いのか』と疑問に思い始めたがために、急遽四月の寒空の下でこの桃園の誓いは開かれたのです。
しかし急遽は急遽、突然の予定に三人の会話はあまり弾まず、むしろ気まずい状態に追い込まれていってしまいました。
それだけは避けようと、黒髪は焦りを隠しつつも話を繋ぐ事に必死です。
「いいか、貴様ら。この花見は『桃園の誓い』だ。『桃園の~』とはなんとも卑猥極まりないとは思わんか」
それを聞いた金髪は、またもヘラヘラと気味の悪い笑みを浮かべながら言います。
「お前の頭の中は卑猥な知識しか詰まってないのか?これだから童貞は困る」
それを聞いた黒髪は黙っていません。
「な、なにおう!前半は合ってるとして後半はどういうことだ!貴様は俺が母の子宮から出てきた瞬間から俺のことを監視してきたとでも言うのか!」
「じゃあ童貞ではないと?」
「勿論!」
そうかそうか、と金髪はヘラヘラと言いながら酒を呑みます。
ほぼ30分ほど沈黙が続いた後、
「今日何時まで居る気だ?明日の朝まででも俺は構わんが」
茶髪が、二時四〇分と表示されている携帯の待ち受け画面を見せながら言いました。
「よし、今日は解散」
黒髪が早々と諦めたように言うと、三人はバラバラに暗闇へ消えていきました。