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庶民の私がなぜか王子様に告白されました。身に覚えは、……多分ないはず

掲載日:2026/09/20

 学園に入学して、早くも二ヶ月が経った。


 ある日、私の机の上に一通の手紙が置かれていた。


 『学校の花園にあるベンチでお待ちしています』


 それだけだった。


 名前も書いておらず人気のない場所に呼び出すなんて、タイマンか、と私は疑った。


 しかし、いざ戦闘モードで肩を回しながら花園へ向かうと、そこで足を止めた。


「待っていたよ、エマ」


「……殿下」


 私を待っていたのは、この国の第一王子、ルシアン様だった。私と同い年で、同じ学園に通っている。ただし、クラスは違う。


 私は庶民。王都から離れた宿屋の娘だ。王子様と接点など、あるはずない。


「座って、エマ。今日は君に大切な話があるんだ」


「……私の名前、ご存じなんですね」


 この時点ですでにおかしい。庶民の娘の名前なんて、第一王子が本来知るはずがない。


「エマ、結婚を前提に付き合ってほしい。いいよね」


「??」


 よくねぇよ。結婚って意味分かってますよね?


「君が戸惑うのは分かる。でもね、僕は君に恋をしたんだ。だから、お願い」


 恋? 私は絶世の美少女ではない。王子様なら、晩餐会などで綺麗な令嬢を腐るほど見ているはずだ。


 それなのに、どうして私なんだろう。


「あの、いくつか質問をしてもいいですか?」


 ルシアン様は、嫌な顔一つせずに頷いた。


「もちろん、できる限り答えるよ」


 その態度だけを見るなら、とても誠実な人に思えた。だからこそ、余計に分からなかった。


 思い切って尋ねてみた。


「私のどこに恋したんですか?」


 すると、ルシアン様は少しだけ考えるように視線を上げた。


「はっきりとしていて、献身的で家族思いで、笑うと可愛いところ」


「……」


 私は言葉を失った。ずいぶんと具体的だ。まるで、昔から私を知っているみたいな言い方だった。


「あの……私たち、会うの初めてですよね?」


 ルシアン様は、慌てたように声を上げた。


「違うよ!」


 ……やっぱりか。


 私は思わず身を乗り出した。


「では、いつです?」


「それは、ヒ・ミ・ツ」


「……一番重要な情報が聞けないですか」


「君があのときのことを思い出したら、すべてを話すよ」


 なんだろう。この人は私を困らせる天才なのだろうか。好きになった理由は具体的なのに、一番大事な部分だけ教えてくれない。


 これでは納得できない。


 私は小さく息を吐いて、別の問題を尋ねることにした。


「申し訳ございませんが、私は庶民なので身の丈に合いません」


「大丈夫だよ」


「……何がですか?」


 嫌な予感がした。


 ルシアン様は、まるで何でもないことのように微笑んだ。


「僕、そのために国内の結婚制度変えたから」


「え!?」


 思わず声が裏返った。


 結婚制度を変えた?


 私と結婚するために?


 この人、本当に王子様なんだ。


 そして、王子様だからこそできてしまうことを、私のために平然とやっている。


 いや、待って。


 私はまだ、この人と付き合うとも言ってない。


 それどころか、好きになった理由すら聞き終えてない。


 なのに、どうして結婚制度まで変わっているのだろう。


「………この場ではお返事できません。失礼します」


 これ以上ここにいたら、頭がおかしくなりそうだった。


 私は立ち上がり、深く頭を下げた。


「いい返事を待ってるよ、エマ」


「……」


 私はその場を離れながら、胸の中で小さく呟いた。


 ……怖い。


☆ ☆


 こうして、謎の殿下の発言により、私の学園生活が一変した。


 私は学園の図書館でゆっくりと本を見ていた。すると、満面の笑みでルシアン様が近づいてきた。


「エマ、やっぱり図書館にいたね。君の大好きな『バトルマニア』シリーズでも読んでるの?」


「なんでそれをご存じなんですか……」


 私は思わず本を閉じた。


 どうして知っているんだ。誰にも話した覚えはないのに。


「調べたもん。君のこと」


「調べた?」


 悪びれる様子もなく、ルシアン様は笑っていた。


「エマが好きそうな本、ピックアップしたよ。読んでみてね」


「あ、ありがとうございます……」


 差し出された本を受け取ると、内容は確かに私が好きそうなものばかりだった。


 ……それが余計に怖い。


 周囲の生徒たちも、当然ながら気づいている。


「殿下が庶民の娘とお話してるわよ!?」


「殿下とお友達なんて羨ましい……」


 私は苦笑いをした。


 友だち。そうなのだろうか。


 いや、私は殿下に告白されて、それを保留にしているだけだ。


 なのに、どうしてこんなに自然に私の隣にいるのだろう。


 ……無理だ。


 このままでは、私の平和な学園生活が本当に終わってしまった。


 こんなこと、親にも友だちにも相談できない。


 王子様に告白されたなんて話をして、信じてもらえるとも思えない。


 でも、一人で考えていると、もっとモヤモヤしてくる。


 私は大きく息を吐いた。


 ここは私からきちんと言わなければならない。


 私は意を決して、ルシアン様を見た。


「殿下」


「なに?」


「私は平和で普通の日常が送りたいです。なので、私に干渉しないでください。来ないでください」


「そ、そんな……」


 ルシアン様の顔から、みるみる笑顔が消えていく。


 まるで捨てられた子犬のような顔になった。


 思わず叫んだ。


「泣きそうな顔しないでください!!」


 ……どうして私が悪いことしたみたいになっているのだろう。


☆ ☆


 ルシアン様を突き放してから数日後。


「すみません、エマさん」


 放課後、教室を出ようとした私に声をかけてきたのは、見覚えのある少年だった。


「僕は第二王子のレイモンドと申します。」


 第二王子。私は思わず姿勢を正した。


 王子様が二人とも、私に何の用があるというのだろう。


「どのような……ご要件で」


「兄のことです。兄がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」


「あ……そのようなことでしたか」


 なるほど。


 どうやら、兄のルシアン様が私に迷惑をかけていることを知っているらしい。


「兄は貴女が初恋で、女性の接し方がまるでなっていません」


「……初恋」


 私が初恋って……。


「兄は優しく一途な人です。……まあ、信じられないほど距離感がバグっていますが、適当にあしらって対応してください」


「……」


 第二王子が、私に第一王子への対応方法を教えている。


 私はなんだかおかしくなって、少しだけ笑ってしまった。


「……意外ですね」


「何がでしょう?」


「王子様が、そんなふうに兄君を扱っているなんて」


「私も適当にあしらっていますので、問題ありません」


「……意見が合いそうですね、レイ様」


 レイ様は小さく笑った。


「僕もそう思います。

 お困りのことがあれば、相談ください。兄の好物や、些細なことでも構いません」


「早速ですみませんが……殿下は大丈夫ですか? 干渉するなと言ったときにかなり落ち込んでいましたので」


「大丈夫ですよ。はっきり貴女が「来るな」と言ったおかげで大人しくなっただけです」


「……私、殿下と出会ったきっかけが思い出せません。レイ様、ご存じですか」


「いえ、私もそこまでは。でも、貴女への愛は本物です。少しずつでいいので兄を理解してやってください」


「……はあ」


「失礼します、エマさん」


「……」


 ルシアン様を遠ざけるのは簡単であるが、私のモヤモヤの解消にはならない。ここは私からルシアン様を訪ねてみるか……。


 翌日、昼休み。ルシアン様がいるクラスへ向かった。


「エマ、どうしたんだい!?」


「……殿下、よければ一緒にお食事でも」


「する!!!」


「では、なるべく人目につかない場所で」


「うん!!」


 庶民の私と王子が二人きり、何もないはずがない。わけあるか!!!

 ただ、食堂だと目立ちすぎるから避けただけ。二人きりになれる場所なんて限られるし、私が気軽に声をかけるのもどうかと思ったのだ。


 私とルシアン様は学園の屋上へ向かった。


 私は手作りのサンドイッチをルシアン様へ渡した。


「サンドイッチを作りました。殿下のお口に合うか分かりませんが……」


 ルシアン様は嬉しそうに目を輝かせていた。


「いただきます!」


 サンドイッチを食べると笑みを見せてくれた。


「美味しい……。エマが作ってくれたサンドイッチって考えるだけでも美味しいよ」


「……そ、それは嬉しいです」


「こうして君からお誘いとは珍しいね。どうかしたの?」


「殿下は私をご存じですが、私は殿下を知りません」


「どんなこと知りたい?」


「ご趣味はなんですか……」


「僕は乗馬と読書」


「乗馬……私も乗ってみたいです」


「いいよ。初めてかな」


「ええ、馬をかっこよく乗りこなすのが夢なんです」


「いいよ、僕が教えてあげる」


「ありがとうございます」


 放課後、学園の外れにある厩舎で待ち合わせた。


「……よろしくお願いします、殿下」


 ルシアン様は、意外なほど丁寧に教えてくれた。


 手綱の握り方、姿勢、重心などを穏やかな声で説明してくれる。


「怖がらなくていいよ。馬は正直だから、騎手の気持ちが伝わるんだ」


「はい……」


 初めて鞍に跨がったときは、少し緊張した。


 けれど、馬がゆっくりと歩き出すと、頬を撫でる風が気持ちよかった。

 ルシアン様も馬に乗り、私の馬に並走しながら、ときどきアドバイスをくれた。


「膝をもう少し締めて。そう、その調子」


「……楽しいですね」


 思わず本音がこぼれた。


 隣から、ルシアン様の小さな笑い声が聞こえる。


「でしょう? 僕も、こうしてエマと並んで走れるのは楽しいよ」


 何度か往復しているうちに、私の動きも自然になっていった。


 馬のリズムに体を預けていると、自然と肩の力が抜けていった。


 いつも距離を置いて見ていた相手が、今はただの指導者として隣にいて、一緒に笑っている。


 休憩の時間になり、木陰で水を飲みながら、私はちらりと隣を見た。


 ルシアン様は汗を少し浮かべているものの、表情はどこか晴れやかだった。


 国民の前で見せる完璧な王子の顔でもない。私室で見せる、執着の混じった顔でもない。


 ただ、純粋に乗馬を楽しんでいる顔だった。


「……あれ?」


 私は心の中で小さく呟いた。


 怖いと思っていた相手と、こうして普通に並んでいる。


 権力を振りかざすわけでも、無理に距離を詰めてくるわけでもない。ただ、乗馬を教えてくれているだけだ。


 意外と、ルシアン様といるのも悪くない。


 そんな考えが浮かんだ瞬間、自分でも少し驚いた。


 恋愛感情と呼べるほどではない。


 ただ、以前のように、何もかも疑ってかかる必要はないのかもしれない。


「殿下。もう少し、乗ってもいいですか?」


「もちろんだよ。今日は時間があるから、好きなだけ」


 ルシアン様の声は穏やかだった。


 私は小さく頷き、再び馬に跨がる。


 このまま、もう少しだけ、この時間を続けてもいいのかもしれない。


 そんなことを思いながら、私は手綱を握り直した。


 しばらく馬を走らせていると、ルシアン様の様子がおかしいことに気づいた。


 先ほどの穏やかだった顔から、少しずつ血の気が引いていた。


「殿下……顔色が……」


「そうかな? ごめん、そろそろ乗馬やめるね」


 そのとき、兄の帰りを待っていたレイ様が慌てて駆け寄ってきた。


「兄さん、大丈夫ですか!」


「えへへ、これくらい平気」


「……全く。エマさん、どうか兄のこのような姿はご内密に。

 兄さん、肩につかまって。保健室へ行こう」


「うん……」


 レイ様が手を伸ばしたが、私は反射的にルシアン様の体を支えた。


「いえ、私が運びます」


「え?」


 そのまま、ルシアン様を抱き上げる。


 いわゆるお姫様抱っこである。思っていたよりも軽く、しっかりと支えられた。 


 腕の中のルシアン様は、なぜか顔を真っ赤にしていた。


「どうしよう、ますますエマのこと好きになっちゃうよ」


 己の体を心配してほしい……。


「静かにしてください。行きますよ」


 ルシアン様は素直に返事をした。


「はい……」


 いつもなら、何かしら私を困らせるようなことを言うのに、今は大人しい。やはり、相当具合が悪いのだろう。


「レイ様、すみませんが馬を厩舎に戻しておいてください」


「任せてください。あとで保健室へ薬を持っていきます」


「ありがとうございます」


 私はルシアン様を抱えて保健室へ向かった。


 保健室でルシアン様をベッドに寝かせた。


「……殿下」


 なんか、これ以前にもあったような……。


「殿下、こちらは水です。お飲みください」


「ありがとう、エマ。君がいてくれて、少し楽になったよ」


「まだ顔色が悪いですよ。無理をなさらないでください」


「うん。エマが心配してくれるなら、ちゃんと休むよ」


 私は呆れながら、ルシアン様の顔を見つめた。


 儚げな瞳。どこか頼りない笑顔。


 そこで、ふと記憶の奥に眠っていた景色が浮かんだ。


 五年前、実家の宿に、体調を崩した男の子が泊まったことがある。


 あのときも、こんな目をしていた。


 私は思わず、ルシアン様の顔をじっと見つめた。


「あの……もしかして、五年前に私の実家の宿にお越しになりましたか」


 ルシアン様は、静かに微笑んだ。


「……覚えていたんだね、エマ」


「では、私が看病した男の子って」


「僕だよ」


「まさか……。なぜ、あのような場所に」


「あの頃、僕は身分を隠して見聞を広めるために国中を回っていたんだ。その旅の途中で倒れてしまってね」


「それで、私の家に……」


 ルシアン様は、懐かしそうに目を細めた。


「『私の家は宿屋だからお休みできます。早く休ませてあげてください』ってね」


「……よく覚えていましたね」


「宿についたときも、君はずっと僕のそばにいてくれた。本当に嬉しかったよ」


「……当然のことをしたまでです」


 あのとき、目の前で苦しそうにしている男の子を放っておけなかっただけだ。相手が王族だと知っていたわけでもないし、特別なことをしたつもりもなかった。


「僕にとっては当然ではないんだよ」


「……」


 その言葉を聞いて、私は何も言えなくなった。


 私にとっては、ただの親切だった。


 けれど、ルシアン様にとっては、五年経った今でも覚えているほどの出来事だった。


「エマ、二度目だね。ありがとう」


 私は小さく首を振った。


「いえ……」


☆ ☆


 一ヶ月後。

 ダンスパーティーの会場には、華やかな音楽が流れ、色とりどりの照明が灯っていた。


 貴族の子女たちが優雅にステップを踏む中、私は壁際で目立たないように立っていた。


 宿屋の娘なので体力には自信がある。けれど、正式なダンスなどほとんど経験がない。足の運び方すらおぼつかず、「苦手」を通り越して「無理」に近かった。


「エマ」


 後ろから声をかけられ、振り返る。


 そこには、いつもの礼服姿のルシアン様が立っていた。


 国民の前では完璧に振る舞う第一王子が、静かに手を差し伸べてくる。


「僕がリードするから、ついてきて」


「殿下、私、ダンスは全然ダメですよ。足を踏んじゃいます」


「いいよ。踏まれても痛くないから」


 冗談めかしているけれど、その目は真剣だった。


 断ろうとした私に、ルシアン様はもう一度、穏やかに言う。


「怖がらなくていい。乗馬のときみたいに、僕についてくれば大丈夫」


 乗馬のときのことを思い出し、私は一瞬だけ口をつぐんだ。


 あのときも、意外と悪くなかった。


 最近は以前ほどルシアン様を警戒しなくなった。そんな状態で改めて誘われると、完全に突っぱねる気にもなれない。


「……一曲だけですよ」


「約束する」


 差し出された手を取る。


 ルシアン様の指は華奢で、少し冷たかった。それでも、握る力は意外としっかりしている。


 音楽が流れ始め、ルシアン様がゆっくりとステップを踏む。


 私は何度も足元を見下ろした。右か左か分からなくなり、危うくルシアン様の足を踏みそうになる。


「上を向いて。僕の動きだけ見て」


「無理を言わないでください……きゃっ」


 軽く引き寄せられ、体勢を整えられる。


 ルシアン様は強引に引っ張るでも、放っておくでもなく、私の動きに合わせて丁寧にリードしてくれた。


「そう、その調子。力まないで」


「殿下こそ、無理していませんか? お体は……」


「大丈夫。エマと踊れるなら、少しくらい平気だよ」


 さらりとそんなことを言うので、私は返す言葉に困ってしまう。


 やがて曲に合わせて回り始めると、周囲からちらちらと視線が飛んできた。


 第一王子が、庶民の娘を相手に丁寧にダンスを教えている。


 そんな光景が珍しいのは分かるけれど、見られる側としては気恥ずかしい。耳まで熱くなった。


 それでも、ルシアン様の動きについていくうちに、足の運びは少しずつ滑らかになっていった。


 曲が終わる頃には、最初ほどぎこちなくはなくなっている。


「……なんとか、乗り切れました」


 息を整えながら呟くと、ルシアン様が小さく笑った。


「僕がついているからね。次の曲も――」


「一曲だけって言いましたよね」


「そっか。残念」


 ルシアン様は名残惜しそうにしながらも、私の手を離した。


 その瞬間、絡んでいた指先が、ほんの一瞬だけ名残惜しそうに触れ合った。


 私は、それをすぐには振りほどかなかった。


 こうして踊りきれたことが、胸のどこかに残っていた。


 ルシアン様と一緒にいる時間が、また少しだけ、悪くないものに感じられた。


「殿下、あとで花園のベンチへお越しください」


 ルシアン様の表情が、目に見えて変わった。


「!?」


「あのときのお返事をいたします」


「わ、分かったよ」


 さっきまで余裕のある笑顔を浮かべていたのに、今は明らかに落ち着きを失っていた。


 ……そんなに驚くことだろうか。


 私はこれ以上の返事の保留をやめたかった。


 ダンスパーティーが終わると、ルシアン様は花園のベンチへ来た。


 私は立ち上がって、さっそく本題を言った。


「お付き合いするかどうかは、まだ決められません」


「そっか……」


「……ですが、私とお友だちになってください。殿下が私を大切に思ってくださっていたことは、十分伝わりましたので」


「それって、まだ僕にチャンスあるよね」


「……あなた次第ですけど」


「やった!!!!」


 ルシアン様は、両手を上げて喜んだ。


 第一王子が、花園のベンチで友だちになれることを喜んでいる。


 ……そんなに嬉しいものだろうか。


「では、これから友だちとして、よろしくお願いしますねルシアン様」


「うん! よろしく、エマ!」


 差し出された手を握る。


 もう、最初の頃のように逃げたくなるほどの圧はなかった。


 ただ、目の前の人が嬉しそうに笑っている。


 私はその笑顔を見て、ほんの少しだけ頬を緩めた。

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