父親がドアマットヒロインだったお話
突然だが、わたしの父は十年ほど前に急逝している。
なんかちょっと体調悪い→ちょっとやばそうだから病院に連れてって→処置室で意識不明からの急逝。その間半日。素早すぎる。何人かの家族が間に合ったのが奇跡的なくらいのスピード感だった。
多分本人も予想外だったと思う。前日仕込んだ母の風呂吹き大根を楽しみに、とりあえずで病院へ向かったくらいだから。
前々からぽっくり死にたい!と宣言していたが、実行力ありすぎだ。
お盆になり、そんな父の話をしているとき、ふと思った。
うちの父の人生、ちょっとなんかなろう系で見た気がする。
父の母、わたしにとっての祖母は、くそBBAだった。
それはもう、毒でしかなかった。後にも先にも、あそこまでテンプレな人には会ったことがない。嫁いびり孫いびりもお手の物な人だった。なんなら夫である祖父のこともいびっていた。
お嬢様育ちの祖母は、議員であったが学歴が低い祖父を見下していた。
祖母自身が高学歴だったわけではない。だが、「自分の夫」として足りないと思っていたようだ。悪役令嬢か。
悪役令嬢な祖母は三人の男子を産んだものの、長男の伯父だけを可愛がって、夫も他の息子も大切にしない人だった。
次男を幼い頃に亡くしているのに、その子の菩提を弔っているところも見たことがない(祖母が拝んでいたのは不動明王様だけだ)。
なかなかに筋の通った人だと思うが、まぁ毒が強すぎて身内にいてほしくない。
そんな祖母の産んだ末っ子の父は、それはもう放置されて育った。
中耳炎を放置され、病院にも連れて行ってもらえないまま、片方の聴力を失ったり。
勉強机もなく、果物が入っていた木箱の上で勉強したり。
まじかよ、おばあちゃん。すげぇな。さすがに我が子にその仕打ちはないって。
兄である伯父との仲はそこそこ良好だったように思うが、祖母はヒステリックになると物を投げたり刃物を持ち出したりするヤバめなタイプだったので、表立って庇うことは無理だったのだろう。
祖父母の夫婦喧嘩では刃物が飛ぶのだと教えられた時の嘘だろ感は、今でも忘れられない。
そんな風に育った父は、驚くほど高スペックだ。
運動会のリレーでは最下位からぶっちぎりで一位になるほど足が速かったり(小中の後輩であった母は、学生時代の父を恨んでいたそうだ。あいつが出てくると全部負けると)。
塾にもいかず、自力ストレートで国立大に入学できるような学力もあったり(五しか並んでない通知表、初めて見たよ)。
字も綺麗で、絵もうまかった。顔も整っている方だったと思う。
書いてて思うけど、父、属性盛りすぎだよ。この属性で実母に虐げられてるって、なろう主人公かよ。
ドアマットヒロイン枠だった父は、本人曰く医者になりたかったそうだが、前述した通り聴力に問題があってなれなかったらしい。
しかしめげない父。入った会社で特許をいくつも取るほどの能力を見せる。完全になろうじゃん。チート系じゃん。
話は少しそれるが、うちの母もお嬢様だった。
医者の一人娘といういかにもなお嬢様だった母は、お見合いで父と会った。医者とばかりお見合いしていた母だったが、祖母が持ち込んだ風変わりなお見合い相手を、まさかその日に父親が気に入るとは思っていなかったらしい。
見合いの当日、本人より同席した父親が気に入るとか、どういうストーリー構成ですか。
翌日お茶会があるから早く寝たいのに、日付が変わっても娘のお見合い相手を離さない父親に衝撃を受けたと言っていた母は、そのまま父と結婚した。
病院を継がせる相手が欲しかったはずの母方の祖父は、けれど職業関係なく父を溺愛した。「よか息子」って呼んでいるの、何度聞いたことか。
母方の祖母も、クセの強い夫が可愛がる娘婿を可愛がった。好物ばかり作って、めっちゃ甘やかしてた。
なんだかんだで母も父とめちゃくちゃ仲が良かった。単身赴任中、毎日夜中電話するくらいには仲が良かった。
うーん、なんというなろう。見たことあるよ。婚家で溺愛されるドアマットヒロイン。
愛にあふれた婚約者に出会って幸せになるんだよね。うんうん知ってる。読んだことある。なんなら書いた覚えもある。
ドアマットな父は、実家から離れたら幸せになった。なんというテンプレ。
早くに亡くなってしまったけれど、まぁ幸せだったと思いたい。会社で出世もしてたし、夫婦仲もよかったし、晩年は孫膝に乗せてデレデレしてたし。
そんななろう系父は、今頃異世界転生でもしてるかもしれない。
残念ながら、わたしはこの高スペックを一切引き継がなかった一般庶民です。the平凡。




