警察が有能すぎるデスゲーム
薄暗い部屋で一人の少年が目を覚ましました。
「う、ん……ここは?」
部屋の広さは学校の教室くらいでしょうか。
とはいえ、黒板も机もないコンクリート張りの空間が学校のはずもなし。
室内で目を引くものと言えば、少年と同じように朦朧とした様子で周囲を伺う十数人の男女の姿と、あとは壁面上部に設置された大型モニターくらいのものですが。
「何だ、何があったんだ?」
時間が経って少しばかり思考が明瞭になってはきましたが、ここがどこなのか、そして何故自分がこんな場所にいるのかはまるで思い出せません。残念ながら、スマホや通信機器の類もまるで見当たらず。まだ詳しい話を聞けるほどの信頼関係を築けてはいませんが、漏れ聞こえる独り言からするに、周囲の人々も事情は似たり寄ったりのようでした。
誘拐?
人身売買?
そもそも、ここは日本国内なのか?
考えれば考えるほどに悪い想像ばかりが浮かびます。
脱出しようにも唯一のドアは外側から厳重に施錠されているようで、同じく閉じ込められた人々が引っ張ったり蹴飛ばしたりしても到底開きそうにありません。
室内には水も食料も見当たらず。
この事態が何者によって引き起こされたのかは不明なれど、まさかこのまま全員が飢え死にさせられてしまうのでは……なんて予想は外れました。それが本当に幸か不幸かは分かりませんが。
『……クク』
突然、前触れもなくモニターの電源がつきました。
誰かがスイッチを押したようには見えませんでしたし、恐らくは室外から遠隔で操作できる仕組みがあるのでしょう。いえ、それより注目すべきはモニターに映し出された怪人物の姿。
『皆様、ようこそいらっしゃいませ。これよりゲームの説明を始めさせて頂きます』
モニターの人物は体型を隠す分厚いローブに加え、奇妙な仮面で顔を隠しておりました。またボイスチェンジャーを使用しているのか、外見や声から年齢や性別を推測するのは困難。
この人物が誘拐犯なのだろうか?
だとしたら、いったい何のために?
その疑問の答えは即座に判明しましたが、果たしてそれを喜ぶべきや否や。
『このゲームのチップは皆様ご自身の命そのもの。最後まで勝ち残れば生命の保障のみならず生涯何ひとつ不自由しない莫大な報酬をお約束しましょう。もっとも、残念ながら誰一人として生き残れない可能性もございますが、クク』
この仮面の怪人が事件の首謀者なのか、もしくはこの人物を操る更なる上位者がいるのかまでは分かりませんが、目的は攫ってきた人々に命懸けのゲームをやらせること。そうして極限の選択を強いられた人々が時に手を取り合って協力し、時に疑心暗鬼に陥って裏切り合う様を見物する愉楽こそが目的なのでしょう。
なんたる狂気。
なんたる残酷。
無論、説明を受けた人々が素直に従うはずもなくモニターの人物に向けて非難の声を上げてはいますが、この状況で生殺与奪の権を握っているのはあちら側。ここまで大それた犯罪に手を染める人間が、まさか今から情に絆されて言うことを聞くはずもありません。
結局は万が一の生還の可能性に賭けて、狂気の殺し合いに身を投じるしかないのだろうか。人々がそんな絶望的な覚悟に至る……その直前のことでした。
『クク、さあ第一のゲームは……騒がしいな。な、なんだ何者だ貴様ら!?』
これまで余裕を崩さなかった仮面の人物が、いきなり態度を変えて酷く狼狽えています。直後、連続して響く銃声やガラスが割れるような破砕音。加えて先程の人物とは別の声や足音も聞こえてきました。
仮面の人物は懐から取り出した拳銃を乱入してきた男達に向けるも、疾風の如き速さで間合いを詰められ、繰り出されたのは強烈無比なる大外刈り。背中をしたたかに打って身動きできなくなったところで、手錠をかけられ拘束されてしまいました。
『何者か、だぁ? お巡りさんだよ、馬鹿野郎!』
『建物の封鎖完了。一人も逃がすな!』
突入してきたのは、なんと警察。
それも一人二人ならず、最低でも十数人はいるようです。ただモニター越しに声を聞くことしかできなかった人々も、これで途端に希望を取り戻しました。
『警察だと!? 馬鹿な、現場の独断か? 貴様ら如き下っ端の刑事など、あの御方がその気になれば簡単に始末でき……』
『馬鹿はテメェだ! あの御方ってのはテメェらの飼い主のカス山財閥の会長だろ? あのジジイなら、今頃取調室でギュウギュウに締め上げられてるよ馬鹿野郎!』
『あちこちの施設に寄付してる慈善家の裏の顔がイカれた殺人ギャンブルの胴元たぁな。小遣いを渡して手懐けてた政治家やらマスコミ関係、それから賭けに参加してたクソ金持ち共も別動隊がしょっぴいてるからよ。グループ企業の株価はまだ噂の現段階でも軒並み紙クズ同然、倒産待ったなしってところだな。親分の悪事に関わってなかった普通のリーマン連中はちと可哀想だがな』
『そ、そんな……そんなことが……!?』
どうやら政財界に多大な影響力があったらしい大物がこの事件の黒幕だったようですが、攫われた人々と関係ないところで既に事態は九割方終わっていた模様。あまりの急展開にまだ思考と感情が追いつかず、モニター越しに成り行きをぽかんと眺めることしかできていませんが。
『よし、連れて行け! 全部自白するまで自殺なんかさせるんじゃねぇぞ!』
『組織ぐるみでの誘拐、殺人、違法賭博、その他諸々がこれまで全部合わせて千余件……ま、証拠はあらかた揃ってることですし、あいつらの弁護をさせられる弁護士が気の毒でなりませんわ。死刑か無期か、なんにせよシャバの景色はこれで見納めでしょうよ』
攫われた人々は相当に危ないところだったようです。
今となっては確認のしようもありませんが。この分だとゲームに勝ちさえすれば生還や報酬を約束するという言葉にも怪しいものがありました。
『おっ、これがマイクかな? あー、あー、聞こえますか?』
『我々は警視庁の捜査員です。ご安心ください。皆さんを無事に家までお届けします』
その言葉を聞いて、ようやく助かった実感が湧いてきたのでしょう。あわやデスゲームに参加させられるところだった人々は、大きな歓声を上げました。




