秘めた恋心
昼下がりの教室。
黒板から小さく奏でられる音、
先生の話す声が静かな教室に響く。
時折吹く風がカーテンを揺らし、
僕らを優しく包む。
斜め前の君を見る。
船を漕ぎながら、それでも手は動かしおり、眠気に負けじと戦っている姿は
なんとも微笑ましい。
先生の話す声は子守唄のように聞こえているのだろうか。
風はゆりかごのようなのかもしれない。
後で「寝そうになっていたでしょ」なんて言えば
「そんなことないよ」と強気で返してくるはず。
そして「じゃあ、ノート見せてよ。」と僕が言うと、
「いじわる。」と返ってくる。
今まで何回かしたことのあるやりとり。
見られていることが恥ずかしいのだろう。
気持ちはわかる。
でも安心してほしい。
クラスの3分の1は君と同じようなことになっていたし、僕も同じだ。
このクラスになって最初は隣の席だった君。
音楽の趣味が同じってわかってから、よく話すようになった。
それから新曲が出るたびに感想を言い合ったり、発掘してきたアーティストを紹介しあったりした。
僕がおすすめしたアーティストを聴いて、
「いいね、私も好き」と言ってくれたことが何より嬉しかった。
人懐っこい笑顔の君を見ていると僕も元気を貰えた。
そしていつしか君のことばかりを考えるようになっていた。
学校に来れば君に会える。
毎日学校に来るのが楽しみになっていた。
それでも永遠に思えるこの瞬間もいつか終わりを迎える。
このままいけば卒業してそれぞれ別の道を歩んでいき、友達としてたまに会ったりする関係になるのだろう。
もしくは疎遠になってしまってお互い知らない時間を過ごして思い出として記憶に残るか。
本当は君の隣を歩いていたいし、もっと君ののことを知りたい。
もしも今、この先もずっと一緒に隣でいてほしいなんて言ったら、君はどんな顔するのだろうか。
驚いた顔、嬉しそうな顔、それとも。
怖くて言えない。
ある日の古典の授業で先生が言っていた和歌が、僕のことのようだと思った。
この先、その和歌を見るたび僕は君を思い出すだろう。
それと同時に思い出にならなければいいのにと、思う。
かくとだに
えやは伊吹の
さしも草
さしも知らじな
燃ゆる思ひを
今はまだ知られないままでいい。
君の背を眺めながら、想いを馳せる。