空に散る花
「熱いな」
「そりゃ、わきたてだからなー。えーと、源泉かけ流しって言うんだっけか」
明かりのない夜、人気のない浜辺。
砂浜の一角に湯けむりが立ち込めている。
「いいのか、こんなところにこんなもの出して」
「いーの、いーの。一時のことだし、どうせ誰も見てないって。そういや、人間たちはこういう熱泉のことを地獄って呼ぶらしいよ」
「だからって本物を地上に引いてくるやつがいるか。大丈夫なのか」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。それより、何吞む?」
「酒まで持ってきたのか」
「湯につかって酒を吞みながら空を眺めるのが、風流らしいよ」
「そうなのか? ……妙なことを考えるものだな、人間というのは」
「ほんと、面白いよなー。で、とっときのがあるんだ、一緒に呑もうぜ」
「まったく……まあ折角だ、もらおう」
波の音にまぎれて、酒器に注がれる音が二度。
湯けむりにぼんやりと、なにものかの影が二つ揺れる。
「んじゃ、かんぱーい」
「乾杯。……って何にだ?」
「そーだなー、愚かしくも愛おしい人間の営みに、ってのは?」
波の音がやたら大きくざわめく。
「このあたりも随分変わったな」
「変わらないこともあるよなー」
「介入はできない、見守るだけだ」
「分かってるよ、だからこうして高みの見物に来たんだろー」
うなりを上げて上空を横切っていくものたち。
「始まったか」
「始まったな」
離れたところで爆発音。
「本当に変わらないな、こればっかりは」
「だよなー。……もう一杯やるか」
続けざまに、爆発音。
「……いつ見ても美しくはあるな」
「きらきら光ってきれいだよなー」
「何にせよ、命の散り際は輝きを増すものだからな」
「まるで花びらを散らしたみたいだなー」
「一つとして同じ色のものはないからな」
「天の花園ってこんな感じ?」
「比べ物になるわけないだろうが」
「それもそっか」
爆発音が響いた方角の空が明らむ。
警報音が鳴り響く。
「空一面にのぼっていくのは、まるで星だな」
「人間たちも、お星さまになるって言うみたいだしなー」
「きらめき落ちていくのは、まるで花火だな」
「花火かー。はかない命のたとえに使われるからぴったりだなー」
「どのくらいの数が来るんだろうな」
「前より多いんじゃないかなー、ほら、人間の数も増えたし」
やがて警報音が途絶えた。
喧騒が波の音とともに伝わってくる。
「……あっという間だったな」
「終わっちゃったか、なんかちょっと寂しいかな」
「また見られるだろうさ。哀しいことだが」
「ほーんと飽きずに繰り返すよなー、なんでだろー」
「さあな。じゃ、そろそろ行くか」
「えー、もう?」
「取りこぼさないようにしないとな。見当違いの方向に飛んでった魂が意外とあっただろ」
「そーだったっけ?」
「見てなかったのか」
「見てたよ、見てたけど、あんまりきれいだったからさー、行き先とか気にしてなくって」
「……酒、没収」
「それだけは勘弁してよー、ちゃんとやるからさー」
「だったら、ここ片付けて行くぞ」
「はーい」
音もなく、湯けむりも影も消える。
波の音だけが残った。
笑ってしみじみできるショートストーリーを目指したはず、なのですが……。
お読みいただきありがとうございました。