表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

空に散る花

作者: 深森翠緑

「熱いな」

「そりゃ、わきたてだからなー。えーと、源泉かけ流しって言うんだっけか」


 明かりのない夜、人気のない浜辺。

 砂浜の一角に湯けむりが立ち込めている。


「いいのか、こんなところにこんなもの出して」

「いーの、いーの。一時のことだし、どうせ誰も見てないって。そういや、人間たちはこういう熱泉のことを地獄って呼ぶらしいよ」

「だからって本物を地上に引いてくるやつがいるか。大丈夫なのか」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。それより、何吞む?」

「酒まで持ってきたのか」

「湯につかって酒を吞みながら空を眺めるのが、風流らしいよ」

「そうなのか? ……妙なことを考えるものだな、人間というのは」

「ほんと、面白いよなー。で、とっときのがあるんだ、一緒に呑もうぜ」

「まったく……まあ折角だ、もらおう」


 波の音にまぎれて、酒器に注がれる音が二度。

 湯けむりにぼんやりと、なにものかの影が二つ揺れる。


「んじゃ、かんぱーい」

「乾杯。……って何にだ?」

「そーだなー、愚かしくも愛おしい人間の営みに、ってのは?」


 波の音がやたら大きくざわめく。


「このあたりも随分変わったな」

「変わらないこともあるよなー」

「介入はできない、見守るだけだ」

「分かってるよ、だからこうして高みの見物に来たんだろー」


 うなりを上げて上空を横切っていくものたち。


「始まったか」

「始まったな」


 離れたところで爆発音。


「本当に変わらないな、こればっかりは」

「だよなー。……もう一杯やるか」


 続けざまに、爆発音。


「……いつ見ても美しくはあるな」

「きらきら光ってきれいだよなー」

「何にせよ、命の散り際は輝きを増すものだからな」

「まるで花びらを散らしたみたいだなー」

「一つとして同じ色のものはないからな」

「天の花園ってこんな感じ?」

「比べ物になるわけないだろうが」

「それもそっか」


 爆発音が響いた方角の空が明らむ。

 警報音が鳴り響く。


「空一面にのぼっていくのは、まるで星だな」

「人間たちも、お星さまになるって言うみたいだしなー」

「きらめき落ちていくのは、まるで花火だな」

「花火かー。はかない命のたとえに使われるからぴったりだなー」

「どのくらいの数が来るんだろうな」

「前より多いんじゃないかなー、ほら、人間の数も増えたし」


 やがて警報音が途絶えた。

 喧騒が波の音とともに伝わってくる。


「……あっという間だったな」

「終わっちゃったか、なんかちょっと寂しいかな」

「また見られるだろうさ。哀しいことだが」

「ほーんと飽きずに繰り返すよなー、なんでだろー」

「さあな。じゃ、そろそろ行くか」

「えー、もう?」

「取りこぼさないようにしないとな。見当違いの方向に飛んでった魂が意外とあっただろ」

「そーだったっけ?」

「見てなかったのか」

「見てたよ、見てたけど、あんまりきれいだったからさー、行き先とか気にしてなくって」

「……酒、没収」

「それだけは勘弁してよー、ちゃんとやるからさー」

「だったら、ここ片付けて行くぞ」

「はーい」


 音もなく、湯けむりも影も消える。

 波の音だけが残った。

笑ってしみじみできるショートストーリーを目指したはず、なのですが……。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ