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第7話 雷鳴と風刃


蒼天の下、魔法学校の広大な演習場は、今日という日を迎えるにふさわしい凛とした空気に包まれていた。澄み切った青空のなか、遠くに見える七帝の塔が悠然とそびえ立ち、その影が演習場を薄く覆っている。


シノ=グリモワールは、その中央に立っていた。銀色の髪が風に軽やかに揺れ、蒼い瞳は静かに燃えている。周囲の期待の視線にも負けず、彼は己の力と技術を信じていた。今日、彼が戦うのは、雷属性の若き貴族、ヴァルト=グランゼリオだ。彼はシノの幼馴染フレアとは対照的に、常にプライド高く振る舞い、その実力はシノより一歩劣るものの、決して侮れない強敵であった。


「準備はいいか、風の申し子よ?」ヴァルトの声が鋭く響く。


「俺はいつでも来いって言ってる。」シノは冷静に答えた。彼の内心は静かに燃えていた。師匠ジル=アルヴァレストの厳しい教えを胸に、己の風の刃を研ぎ澄ませてきた日々を思い返しながら。


「それならば、行くぞ!」ヴァルトが雷の魔力をまとい、力強く踏み出した。


空気が震え、雷の稲妻が彼の周囲を煌めく。ヴァルトの魔力は豪放で、その一撃は雷鳴のような轟きをもって襲いかかる。だが、シノは臆することなく風圧跳躍で間合いを詰め、刃のように鋭い風を繰り出す。


「風は流体だ。自在に操り、形を変える。速さと鋭さを併せ持つ、俺の刃だ。」シノの動きは滑らかでありながらも、雷の猛攻をかわし続けた。


ヴァルトは焦りを感じていた。幼い頃から貴族として育ち、プライドは高い。しかし、シノの風の操作技術は、彼の単純な雷撃よりも一枚上手に感じられたのだ。彼は己の力不足を痛感しながらも、口元に笑みを浮かべて戦い続ける。


「くそ……まだまだ実力が足りねえ!」ヴァルトは声を荒げる。


激しい雷光と風の刃がぶつかり合うたびに、演習場の空気はビリビリと震えた。観客席のフレアは、息を飲みながらもシノを見守っている。彼女の瞳には、幼馴染への尊敬とほんの少しの不安が交錯していた。


一方、ミアはリリィの傍らで治療の準備を整えつつ、遠くの戦いに意識を向けている。リリィの心はシノへの淡い憧れで満たされていたが、まだその想いを素直に表現できないでいた。


そしてレイは、戦いを見つめながら、兄としての複雑な感情に苛まれていた。シノの成長を認めつつも、自分の妹のためにできることは何かと自問していた。


ヴァルトの攻撃は熾烈を極めたが、シノは冷静に師匠ジルの教えを思い出す。「風は単なる流れではない。空間そのものを捻じ曲げ、敵の攻撃を無力化するのだ。」


シノは風圧跳躍を駆使して雷撃をかわし、反撃の刃を振るった。その刃はヴァルトの防御をわずかに割き、戦いの均衡を揺るがせる。


だが、ヴァルトもまた強者への羨望と自己嫌悪の狭間で揺れていた。自分よりも弱いと思っていたシノの実力が日に日に伸びていくことに焦燥を感じながらも、負けるわけにはいかないという強い決意が彼を突き動かしていたのだ。


やがて、激しい戦いの末、ヴァルトは地面に膝をつき、息を荒くしながらもシノの目を真っ直ぐに見つめた。


「……認める。お前の風は確かに強い。」


シノは静かに頷き、互いに敬意を払った。


「俺も、もっと強くなる。いつか、必ず。」


二人の視線は互いの未来を映し出し、演習場に静かな余韻を残した。


この戦いは、シノの風がさらなる高みへと昇るための、そしてヴァルトが自身の弱さと向き合うための通過点に過ぎなかった。


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