第3話 雷光と柔風
セレフィア魔導学園の初夏。木々の緑が鮮やかさを増し、空には夏の兆しが漂い始めていた。校舎の間を抜ける風は、まだ涼しく心地よい。
シノは朝の演習場で、集中して風の魔法の訓練をしていた。掌に集めた風の刃は、以前よりも鋭くなりつつある。しかし、魔力量の差は歴然で、誰もが簡単に出せる範囲を、シノはなんとか操作でカバーしている状態だった。
「シノ、まだ頑張ってるのね」
背後から声がした。振り返ると、フレアがゆっくり歩いてきた。彼女の赤い髪は日差しを浴びて艶やかに輝いている。幼い頃のボーイッシュさは影を潜め、品のある美しさが増していた。
「フレア、朝からなんだ?」
「そろそろ授業が始まるわよ。あんた、ずっと練習してるけど体調は大丈夫?」
「問題ない。むしろ調子は上がってきた」
フレアは微笑んだが、その目には少しだけ心配が混じっていた。
「今日は新しい生徒が紹介されるって聞いたわ。特に雷属性の子は、かなりの実力者らしいの」
「雷か……」
シノは短く呟き、再び掌の風を感じた。
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校内の大講堂。生徒たちが集まる中、一人の青年が壇上に上がった。
「皆さん、こちらはヴァルト=グランゼリオ。雷属性の名門貴族出身、強力な魔力と技術を持つ者です」
壇上に現れたヴァルトは、長身で引き締まった体躯を持ち、黒に近い濃紺の短髪が特徴的だった。鋭い金色の瞳は自信とプライドに満ち溢れている。
「俺の実力、存分に見せてやる」
彼の声には威圧感があった。周囲の生徒たちは少し身構え、興味と警戒を混ぜた視線を向ける。
ヴァルトの登場によって、学園の空気は一変した。彼のプライドの高さと圧倒的な魔力量は、多くの生徒に威圧感を与えたが、同時に強い興味も引きつけた。
授業が終わると、ヴァルトは早速シノに近づいた。
「おい、銀髪。あんた、風属性だな?魔力量が少ないらしいじゃねぇか。俺に一度勝ってみせろ」
彼の言葉は侮蔑に満ちていた。シノの顔に、微かな怒りが走る。
「魔力量が少なくても、俺には魔力操作がある。量だけで強さは決まらない」
「ふん、言い訳はいい。試合場で見せてみろ」
二人はそのまま演習場へ向かうことになった。
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演習場は広大で、周囲に観客席が設けられていた。多くの生徒が集まり、この試合に注目している。
ヴァルトは雷の魔力を掌に集め、青白い稲妻を走らせる。
「俺の雷は、直撃すれば一撃だ」
シノは風の魔力を指先に集中させ、静かに構えた。
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戦いが始まる。
ヴァルトの雷撃が高速で飛んでくるが、シノは巧みな魔力操作で風を操り、雷撃の軌道をずらし、受け流す。
「なるほど……魔力操作か」
ヴァルトの表情が少し驚きに変わる。
シノは一瞬の隙をついて、圧縮した風の刃を放つ。
「これが俺の風の力だ!」
風の刃は稲妻の中を突き抜け、ヴァルトの防御を掻い潜った。
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ヴァルトは一瞬たじろいだが、すぐに怒りを爆発させ、雷を全身に纏って突進した。
シノは冷静に風を巻き上げ、防御壁を形成する。
観客たちは息をのんで見守った。
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戦いの末、シノの巧みな魔力操作と柔軟な動きに、ヴァルトは追い詰められた。
試合はシノの勝利に終わり、周囲はどよめいた。
ヴァルトは悔しげに顔を歪めながらも、どこか尊敬の念も抱いた。
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試合後、自然属性の少女ミア=セリスがシノに近づく。
「あなたの風の魔法、とても美しかったです。魔力操作があんなにできるなんて……すごいですね」
ミアの優しい笑顔に、シノは少し戸惑いながらも感謝を述べた。
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フレアは少し離れたところから二人の様子を見つめていた。
(あの子、ヴァルトと比べてあんまり変わってないのに、やっぱり魔力操作でここまでやるなんて……)
心の中でそう呟きながらも、彼女はシノを強く応援していた。