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第15話「水の城での休息」


アクアロス――七帝の一角、水帝アクア=リュミエールの居城。


静かに水が流れる白い回廊を、シノ=グリモワールは一人歩いていた。天井から差し込む光は水晶の柱に反射し、壁に揺らめく模様を描いている。


「……すごいな。何日いても飽きない」

そう呟いたとき、後ろから足音が響いた。


「散歩? それともまた修行でも?」

声の主はフレア=アストレアバーンだった。赤い髪を緩く結び、軽装のまま歩いてくる。


「気持ちを落ち着けたくて。ここの空気、澄んでるし」

シノが言うと、フレアは彼の隣に並び、静かに歩き始めた。


「……わたしも同じ気持ち。アクアの分身が現れてから、何かが大きく動き出してる感じがする」


「うん。でも、焦っても仕方ないよな。今は、力を蓄えるときだ」


ふたりは言葉を交わさぬまま、ゆっくりと歩き続けた。


 



---


 


食堂では、ミア=フォレストが大量の料理を目の前に歓喜の表情を浮かべていた。自然属性の彼女にとって、淡い香草と湧き水で作られた料理は極上のご馳走だった。


「うわぁっ……! これ全部食べていいんですか、セリナさん!?」


「構いません。ですが、節度は守ってください」

少し厳しめの声で返したのは、アクアの秘書・セリナ=グレイフォードだった。


「はーい! でも、これほんと美味しすぎて止まりません〜〜!」


「……ふふ、まあ、喜んでいただけて何よりです」


一方、レイ=ブルームは窓辺の席で黙々とスープを飲んでいた。その眼差しは遠くを見つめていたが、時折、何かに気づいたように周囲を見回す。


「……妹のこと、気になるの?」

ミアがふいに聞いた。


レイは少し間を置き、口を開いた。


「ああ……ミナの容体がどうなってるか。魔法治療で一時的には回復してるが……」


「うん。でも、あの子の魔力の乱れは自然属性でなら、穏やかにできる。私、もう少し頑張ってみるから」


ミアの言葉に、レイの表情がわずかに柔らいだ。


「ありがとう。……助かってる」


 



---


 


水帝アクア=リュミエールは、玉座の間ではなく、居室の片隅で床に寝転がっていた。足をぷらぷらとさせ、ぼんやりと天井を見つめている。


「ふわぁ〜……今日も平和……セリナ、なんかお菓子ない?」


「ありません。第一、まだ午前中です」

淡々とした口調で返すセリナに、アクアはうーんと唸る。


「それじゃあ、シノくんたちに何かお仕事でもお願いしようかな」


「……おもてなしの意味がわかっていらっしゃいますか?」


「でも、こういう時にちょっと試練とか出すの、七帝っぽくない?」


「そんなの、他の帝の真似事にすぎません。アクア様にはアクア様の務めがあるでしょう」


「……うぅ、セリナってば、ほんと厳しいんだから〜〜」


ため息をつくセリナだったが、どこか柔らかい微笑みを浮かべていた。


 



---


 


その日の午後――


「みんな、ちょっといいかな?」

食後の休憩を終えた頃、アクアがシノたちのもとに現れた。


「ちょっとだけ、お城の外を案内するね。実は、裏手に小さな湖があるの」


「湖?」

ミアが目を輝かせた。


「うん。私、魔術で湖にちょっとした庭園を作ったの。ほら、たまには戦いじゃなくて、綺麗な景色で癒されるのも大事じゃない?」


「……それは、七帝が言うセリフか?」

レイが思わず突っ込みを入れたが、アクアは気にした様子もなく笑った。


城の裏手に出ると、静かな湖と、水上に浮かぶように広がる草原のような魔術庭園が広がっていた。透明な水、揺れる睡蓮、風に舞う光粒――まるで夢の中の風景だった。


「すごい……」

シノが思わず声を漏らす。


アクアは少し照れくさそうに言った。


「この場所、実はね……あんまり人に見せたことないの。だけど、あなたたちならって、思ったんだ」


「光も風も、水の魔力に包まれてる……」

ミアが目を細めた。


「俺はこういうの、苦手だけど……でも、悪くない」

レイの言葉に、皆が笑った。


その時――風が静かに揺れた。


シノはその気配に目を細めた。遠く、木陰の下に、誰かの気配を感じる。


だが、それはほんの一瞬で、風に紛れて消えた。


「……なんでもない」


その一言を残し、シノは再び水面を見つめた。静かで、美しく、どこか儚い光景だった。


 



---


 


その夜、客室の一つで、シノは剣を手に座っていた。


「……ジーク=フリートの強さ、あれは本物だった」


風の魔力を掌に集める。だが、それはまだ、ジークのような圧倒的な“完成度”には至らない。


「もっと……もっと高みへ」


呟くシノの背後から、フレアがそっと入ってきた。


「眠れないの?」


「少し、考え事」


「……わたしも。なんだか、色んなことがありすぎて、頭が追いつかない」


「それでも、進むしかないんだよな」


二人は並んで座り、静かに夜が更けていくのを見つめていた。


遠く、水面が月の光を反射し、揺れていた。


 



---


 


そして翌朝。セリナが淡々と告げた。


「次の帝から、正式に接触の申し出がありました。炎帝――カイ=アシュラ様よりです」


シノたちは顔を見合わせる。


「炎帝……」

フレアが小さくつぶやいた。


アクアは、無邪気な声で続ける。


「ついに次の帝のお城かぁ。ちょっとワクワクするよね!」


だが、皆の心の奥には、薄く鋭い予感があった。


静かな時間は、終わろうとしていた。


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