後編
落ち込むど田舎出身の真瀬清麓くんと互いに自己紹介して、斯く斯く然々、私が思うに、と注釈を入れて説明してやった。
「そ、そんな……おれが田舎者だから……?」
崩れ落ちた清麓くんは戦慄いている。
そこまでショックを受けんでも。
「終わりだ……田舎者だって言いふらされておれの婚活は終わりなんだあああ……!」
ほろほろと男泣きする清麓くんがあんまりにも哀れだったので、慰めてやることにした。鬱陶しいし。
「いや、まだ悲嘆に暮れるのは早いかもしれないぞ」
「ふえ?」
「位の高い人間はそれに比例して体面を気にすることの多い生き物だ。
さっきの姫君が君の外見にだけ引かれて声をかけてきたのなら吹聴する可能性は低い。
なぜなら君が田舎者だと吹聴する、それすなわち自分は見目麗しい外見にしか興味がなく、まんまと中身野猿の君に引っかかりましたと言って回るようなもの。つまり私は顔の良い人間にコロッと騙される面食いチョロ女で~す、と喧伝するのと同義だからだ」
「今ひとのこと野猿って言いました?」
「失礼、君はどちらかといえば野生の妖魔か。猿に失礼だったな」
「なんでさらにひどくしたんですか?」
清麓くんは涙目だが私はさらに続ける。
「愚痴るにしても、身内や、よほど仲の良い友人に限られるだろう。他人に恥を晒したくないだろうし」
「おれに声をかけたことが恥になるんですか???」
「強かな姫なら自分と同じ目に合わせるべく、嫌いな相手に君をけしかけるくらいするもな」
「おれの扱いが害獣かなにかなんですが……」
そんなわけで、と私は清麓君の肩を叩いた。
「君のもとにはさっきの姫さんが嫌ってるか陥れたい相手とかが声をかけてきてくれるかもしれないぞ。
つまりお嫁さんをゲットできる可能性はまだ残されているわけだ。がんばりたまえ」
「えっ、あ、ありがとうございます……?」
清麓君へのアドバイスを終えた私はクールに去ることにした。はあ、木登りは別の場所でやるかあ。
「じゃあ私はこれで」
がんばれよ、と背中で語ってかっこよく退場しようとした私の肩を清麓くんが叩く……というか、掴まれた。
がしって。がしって。力強く掴まれた。
やだ逃げたい。めちゃくちゃ面倒事の予感がする。
「助言ありがとうございます」
「いえそんなそれほどでもおほほほ……」
うおおおおお! 一歩も前に進めねええええ!
佇まいと体躯と話から分かっちゃいたけど力が強ぇぇこの田舎者!
「おれの婚活にぜひ協力してください。あなたのような冷静で博識な肩がいてくだれば百人力……いえ、千人力です」
「おほほほほそんなアテクシなんてぜんぜんそれほどのことはございませんのことよ」
「もしくは責任取っておれの婚約者になってください」
「よーし、張り切って清麓くんに協力しちゃうぞー! お嫁さん探しがんばろー!」
「おー!」
責任転嫁とか八つ当たりとかイクナイ! と叫びたかったが、追い詰められているらしい清麓くんの眼がコワすぎたので、仕方なく協力することにした。
果たして清麓くんはお嫁さんを見つけられるのか?! がんばれ、明日の私!
なーんて遠い眼をしながら自分を鼓舞した私は、けっきょく清麓くんと、清麓くんの求めた理想のお嫁さんを縁結びすることは叶わなかった。
だって清麓くんの理想のお嫁さん像がどこの完璧超人じゃい、って項目ばっかりだったし。
自分の藩に嫁入りしてくれるのは当然で、料理が上手で、裁縫も上手で、掃除も上手、馬に乗れて、弓もできて、武術の心得もあって? 清麓くんの狩りに付き合えるくらいの体力、腕力があって、精神力ももちろん強くて? どっかの物語の登場人物の話とかしてらっしゃる?
いやさすがに無理だろ、とぶつくさ文句を言いながらお嫁さん候補を探してはやっぱり無理か……と項垂れた清麓くんが項目を削っていき、最後に残ったのは『清麓くんの藩に嫁入りしてくれる人』のみになってしまった。
うん、仕方ないネ!
まあドと超のつく田舎に嫁入りしてくれるだけいんじゃないかな、うん。
例えそれが末っ子だからって甘やかされて育ったものだから、家事全般まったくできない私だったとしても。はい、弓は当然引けません。馬術は練習中です。
その代わり教養はそこそこあるから許容範囲でしょう、うん。
「おかえり、清麓くん」
「あらせ~、ただいま~。伽羅鳥が獲れたから焼き鳥にしよー!」
「やったー! お皿とタレ用意するねー!」
「頼んだ!」
厨番が仕込んでおいてくれたタレとお皿を用意しているうちに、清麓くんが捌いた伽羅鳥を七輪で焼いてくれる。
清麓くんのお嫁になってから何度も見ている光景だけれど、未だに楽しいし、この時間が好きだ。
私に美味しいものを食べさせようと、じっと火の加減をみている清麓くんの横顔が好きだ。
うん、田舎暮らしも悪くない。木登りも好きなだけできるし。
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