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殺しの里からの刺客

「失血で力尽きるだぁ?何勘違いしてんだい?アンタらは今すぐアタシに殺されるんだよぉ!!」


盗賊団ゲビアを引き付け戦いに臨んだアレスとティナ。

無謀にも突撃していった下っ端が一瞬で吹き飛ばされたことで盗賊団の面々は一時慎重に間合いを計っていたが、盗賊団の女幹部エスケラの怒号により戦いの火蓋は切って落とされた。

エスケラは両手で鎖鎌を取り出すとそれを目にもとまらぬ速さで振り回す。


(速度と軌道が一定じゃねえ……が)

ガガキンッ!!

「対処可能だ」

「何っ!?アタシの鎖鎌が!?」

(時間はかけられない。まとめて無力化する!)

「フリージング・ブレス!!」


エスケラが放った鎖鎌が縦横無尽に駆けまわりアレスたちを襲う。

高速で振り回される鎖鎌は先端の速度が音速にも匹敵しその動きはティナの動体視力をはるかに凌駕する。

だがその高速の鎖鎌の軌道をも正確に読みぬいたアレスは、その鎖鎌の速度や軌道がわずかに変化していたことを見抜き正確に撃ち落としてしまったのだ。

それにより攻守が交代する。

時間をかけ過ぎれば失血死してしまうことを危惧し、ティナは広範囲に冷気を飛ばし盗賊団ゲビアを一網打尽にしようと試みた。


「なかなかの氷結攻撃だ!だが相手が悪かったな!!」

ドガァアアアン!!!

「っ!?」


しかしティナの氷結攻撃を前に、ダミアンはにやりと笑うと眩暈がするほどの赤色に染まった大剣を振り回す。

直後、ダミアンが振るったその大剣はティナの氷の息吹を一瞬で押し返すほどの大爆発を引き起こす。


「ひゃぁお!!隙ありだぜ……ぐべばァ!?」

ガキィイイン!

「ちッ!!大人しく死んどけってんだよ」

「……っ!?アレス……」

「隙なんてあるかよ。舐めんな」


突如眼前に迫った大爆発に思考が停止してしまうティナ。

だが2人が爆発に飲まれる寸前、アレスが慣れた手つきで爆炎を2つに切り裂く。

さらに追撃として炎を突っ切って現れた男を蹴り飛ばし、エスケラが放った再三の鎖鎌をも的確に叩き落としてしまった。


「すまないアレス……」

「気ぃ抜くなよティナ。油断してると一瞬で死ぬぞ」

「ああ。わかっ……」

「ほら、こんな風にね♪」


一瞬の出来事に後れを取ってしまったティナ。

そんなティナが気を取り直し盗賊団ゲビアの面々に剣を構えたのだが、その時突如背後に先程アレスの背を斬りつけた黒衣の剣士が音もなく現れたのだ。


「え……?」


何の予兆もなく現れた男にティナは一切反応すらできず無防備な背中を晒してしまう。


「おらぁ!!」

「おわぁああ!?危なーい!」

「隙はねえって言っただろうがこの野郎!二度目はねえぞ!!」

「ほんと君、ムカつくくらい優秀だね」

「なっ……いつの間に……」


思考すら追いつかないティナに黒衣の剣士の冷たい斬撃が振り下ろされる。

だがその一撃さえもアレスは予期していたように弾き飛ばしてしまったのだ。


「てめえは間違いなく俺の方に来ると思ったよ。俺を殺し切りたいって欲が丸見えだ」

「へぇ、君面白いこと言うね。僕は”能面”って呼ばれるくらいには感情のない顔をしてるつもりだったんだけどなぁ」

「能面……まさかあの剣士、沼気の里の殺し屋か?」

「なるほど。そういうことかい……」


アレスに攻撃を防がれた男はカウンターの攻撃に焦るような言葉を発しつつも一切表情を変えず後方へ回避する。

そうしてアレスたちから距離をとった男は自らのことを”能面”だと名乗った。

その名を聞いた盗賊団ゲビアの面々はその男の正体に答えを得た様子であった。


「能面……聞いたことねえな」

(全く、反応できなかった……アレスをサポートするつもりで残ったのにむしろ助けられてばかりで……)

「アレス。すまな……」

ビチャ……

「ッ!?」


自身に攻撃が迫っていたことなど一切感じ取ることが出来なかったティナは己の未熟さを痛感させられる。

直前にもアレスに守られてばかりで、アレスを助けるつもりが逆に負担になってしまっていると焦りばかりが蓄積する。

そんなティナが庇われてばかりなことを謝ろうとアレスに言葉をかけようとしたその時、ティナは自身の足元に信じられない量の血だまりが出来ていることに気が付いたのだ。


「あ、アレス……」

「別に、気にするな」


先程能面と名乗った男から受けた傷はティナの想像よりもずっと深く、その多すぎる出血量にティナはパニックに陥りかける。

そんなアレスの顔に視線を向けるとその顔色は信じられないほど青白くもはや死人と見間違うほどであった。


「どうやら。俺たちの全滅より貴様の失血死の方が早く訪れそうだな」

「それは困るなぁ。地味な失血死なんてつまらない。どうせなら僕に派手に殺されてくれない?」

「だから……舐めんなって言ってんだろうが。ここからでもてめえらを全滅させることなんて容易いことだ」

(このままじゃ……アレスが死んでしまう。私が……私が何とかしなければ!)


能面が姿を現したことで、アレスとティナは再び前後を敵に挟まれることとなる。

限界が迫りながらも闘志が一切衰えないアレスに対し、ティナは自分がもっと頑張らなくてはならないと焦りの色を強めていった。




「君……こんな森の中で何をしていたの?誰か一緒に居たりしない?」


ティナが自らの無力さを痛感し刀を強く握りしめていた頃、ジョージは竜人族の少女の捜索をしていた冒険者”星の舞”に捕まっていた。

ジョージの咄嗟の起点によりソシアはステラを抱え近くの草むらに隠れることに成功したが、星の舞のメンバーが近くにいるこの状況で逃げることが出来ずにいた。


(まずい……完全に疑われている。もしも僕らがステラさんと一緒にいることがバレたら確実にステラさんは連れていかれてしまう!)

「は、はい。実はさっきまで友人と一緒だったんですが急に盗賊団ゲビアに襲われてしまいはぐれてしまったんです」

「盗賊団ゲビアに?なんで襲われたの?彼らが求めるものでも持っていたの?」


ジョージは何とか平静を装いこの場を切り抜けようとしたが、星の舞のリーダーであるレベッカは厳しい表情のままジョージに質問を続けた。

レベッカのその態度にジョージは自身に向けられている疑惑が確信に近いことを感じていた。


(なぜだ?この人の反応は疑惑というより確信に近い……誤魔化しきれないかもしれない)

「ねえ、どうなの?」

(ステラさんを隠し通せないならいっそのこと竜人族が危険な存在ではないことを説明するか?いや、絶対にダメだ!僕らはアレスさんに聞いたから何の疑いもなくあの話を信じられたけどこの状況で僕が言っても信じてもらえるはずが無い……)

「……レベッカ。ちょっと代わってぇ?」

「ヌーレイ、頼んだ」

「君、ちょっと失礼するね?」


確信に近い疑惑の目を向けられジョージは動揺を隠しきれなかった。

そんなジョージの反応を見てレベッカの後ろに控えていたヌーレイが前へと歩み出る。

ゆっくりとジョージに近づいてきたヌーレイはおもむろに右手を伸ばすとジョージの首元にそっと手を当てたのだ。


「えっ、何を……」

「いくつか質問させてもらうね?あっ、でも君は答えなくても大丈夫だから。君、この近くで竜人族の子供を見てない?」

(これは……まずい!!)

「次の質問ね?さっきまでその子と一緒に居た?」

(嘘を見破るスキル!?このままじゃ……)

「じゃあその子……この近くにいる?」

「ソシアさん!!逃げてくださ……がはッ!!」

「ビンゴ……」

「ジョージ君!!!くッ!!」

「いたわレベッカ」


ジョージの首に手を当てたヌーレイはジョージが質問に答えずとも質問を続けた。

それはつまりジョージが嘘をつくか否か以前に黙秘をしたとしても意味がないということを示していた。

ステラの居場所を掴まれると悟ったジョージはソシアに逃げるよう声を上げる。

だがそれを遮るように背後に回り込んでいたダイヤが即座にジョージを取り押さえたのだ。

その光景を目の当たりにしたソシアは決死の思いで茂みを飛び出す。


「止まりなさい!!さもなくば怪我をする羽目になるわ」

(追いつかれる!!)

「このっ……来ないでぇ!!」

「ふっ!」

「ッ!!きゃああ!!」


ステラを抱えて飛び出したソシアの動きは即座にレベッカに捕捉される。

木の幹を蹴って飛び回り、枝を利用して距離を詰めるレベッカ。

そんなレベッカにソシアは焦って煙幕玉を投げつけたのだが、レベッカはその煙幕玉をつま先から脛に添わせるように軌道を変え後方に受け流してしまったのだ。

そうしてソシアとの距離を完全に潰したレベッカはソシアの肩を蹴り抜き逃走を阻止したのだ。


「ソシアさ……ぐっ!!」

「抵抗しないで。無意味に怪我をしたくないでしょう?」

「あ、ああ……嫌!!」

「逃げて……ステラ……ちゃん」

「あれが竜人族……見た目は人間と随分違うけど精神はただの子供みたいだね」

「……」

「レベッカ?どうしたの?」


レベッカに蹴り飛ばされ太い木の幹に叩きつけられたソシア。

その衝撃で投げ飛ばされたステラは迫りくる追手の恐怖と自分を逃がそうとしてくれたソシアがやられてしまったことに対する悲しみから涙を浮かべ小さく震えていた。


「いえ、あの子もしかして……」

「おっ?いたぜ竜人族のガキだァ!!」

「っ!?」

「何こいつ等!!」

「女ぁ!!死にたくなければその竜人族のガキを置いてどこかに消えなぁ!!」


ジョージとソシアを無力化しステラをステラを眼前に捉えたレベッカ。

だがその時茂みの奥からステラを狙う盗賊団ゲビアの別動隊の男たちが姿を現したのだ。


「あの格好……恐らく盗賊団ゲビアのメンバーだ!」

「狙いは竜人族の少女!?でもどうして……」

「理由なんてどうでもいい。ヌーレイ、戦闘用意!」

「お前らよっぽど死にたいらしいなぁ!!野郎ども、やっちまえぇ!!」


ステラをみすみす渡すわけにはいかないとレベッカとヌーレイは戦闘態勢に入る。

それをみた盗賊団ゲビアのメンバーたちは殺気立ちながらレベッカたちに襲い掛かったのだった。

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