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脱出の代償

ソシアの口付けにより意識を取り戻したアレス。

だがその一方で部屋に押し入ってくる大量の兵士を抑えていたジョージは限界を迎えようとしていた。


「アレス君!ジョージ君が……」

「わかってる。俺に任せろ!」


解放されたアレスはすぐさま周囲の様子を確認し、ジョージが危機を迎えていることを把握する。

そしてそれを知った直後、勢いよく駆け出したのだ。


「ちょっとそれ借りるよ」

「っ!アレスさん!」

「秘伝叢雲・一閃!!」


ジョージが盾で必死に兵士を足止めする中、アレスは高速でその兵士の前に姿を現すと兵士の手首に手刀を浴びせ持っていた剣を奪い取ったのだ。

さらにそのまま流れるように剣を振るい、押し寄せていた兵士たちの鎧の隙間を縫うようにバラバラにしてしまったのだ。


「あ、ありがとうございますアレスさん。もう限界でした……」

「お礼を言うのは俺の方だ。ジョージもありがとう。それと……ディーネも、ありがとう!」

「そんな、私は何も……」

「すみませんアレスさん!目を覚ましたばかりで申し訳ないですが確認しておきたいことがあるんです」

「ああ、それは俺も同じだが……先にやることがありそうだ」

「え?」


疲れ切った表情でアレスの意識が戻ったことを喜ぶジョージ。

しかし一方ディーネはアレスにお礼を言われても険しい表情を崩さなかった。

なんとかアレスと合流を果たしたソシアとジョージ。

人魚になってしまっていたアリアの件の含めていろいろと聞きたいことがあるようだったが、何かを感じ取ったアレスは事実確認よりも優先しなければいけないことがあるといったのだ。



「くっ!!はぁ……はぁ……」

「どうした?問題なくあちきに勝てるのではなかったのか?」


城の入り口付近で戦闘を繰り広げていたティナだったが、徐々にエリギュラに押されるようになっていき気が付くと城の中にまで後退していた。

城全体が海に沈みそうになりティナは周囲の海ごと城を氷で包むことでそれを阻止した。

しかしその結果ガス欠に陥り一気に戦況が悪化してしまっていたのだ。


「はぁ……はぁ……勝てるわよ。そう焦らなくてもそのうち氷漬けにしてみせるから」

「それは無理な話じゃ。先の技で体力を使い果たしたのであろう?もう貴様に勝ちの目はないわ!!」

「くそっ……」

「しゃがめティナーーー!!」

「えっ!?うわぁ!!」

「なんだと!?……ぐぁああ!!」


激しく息が乱れてしまっているティナ。

そんなティナの余裕のなさにエリギュラは先程の鬱憤を晴らすように大振りの一撃をティナに叩き込もうとする。

槍を構え、ティナの腹に風穴を開けるべく踏み込むエリギュラ。

しかしその直前にティナの背後からアレスの叫び声が響き渡り、その声に反応ししゃがんだティナの頭上をアレスの斬撃が通過したのだった。


「ふぅ、ギリギリ間に合ったな」

「何をするんだアレス!!あと少しで私の首が飛んでいたんだぞ!?」

「だからちゃんとしゃがめって声かけただろうが」

「それもギリギリだったじゃないか!私の反応が遅れていたらどうするつもりだったんだ」

「声さえ届いてれば俺はお前の指示なら意図が分からなくてもすぐ従うぞ。お前だってちゃんと俺の指示を聞いてくれたじゃないか」

「まあ、それはそうだが……次からはもう少し余裕をもって指示をくれないか」

「おう。気を付けるわ」

「あと……ありがとう。君のおかげで助かった」

「こちらこそ。助けに来てくれて嬉しいよ」

「貴様ら……よくもこの世界を滅茶苦茶にしてくれたなぁ」


アレスの飛ばした斬撃で間一髪エリギュラの攻撃から逃れられたティナ。

少しして隣にやってきたアレスにティナは多少不満を漏らしながらも感謝の意を伝えたのだった。

そしてティナにアレスも自分を助けに来てくれたことに感謝を返す。

そんな2人に斬撃を喰らい胴が両断されかけたエリギュラは体を再生させながら恨みのこもった目で睨みつけたのだ。


「やっぱり奴は人間じゃないんだな」

「ああ。あいつもここの兵士も全員この絵の世界で創り出された人形だ」

「アレスさん!ティナさん!」

「2人とも!無事にアレスを助け出せたんだな!」

「なんとか!それとアリアさんを含めた行方不明になってた学園の生徒も!少し予想外なこともありましたが……」

「予想外なこと?」

「それは後で話すとして、ひとまず世界から出る方法を確保しておきたいです!可能ならこの世界を創り出したとされる夢創の筆という特異的魔道具を探したく!」

「ほう?それがなんなのか知らないけど……たぶんどこにあるか知ってるぞ」

「えっ!ほんとう!?」

「ああ。お前だろ、その魔道具を持ってるのは」

「っ!」


遅れてアレスに追いついてきたソシアとジョージ、それにディーネ。

ひとまずこの絵の世界から出るための手段を確保すべく、夢創の筆のありかを求めることとなった。

しかし特異的魔道具を探していると聞いたアレスはそれに心当たりがあるといい、その場で真っ直ぐと指をさしたのだ。

アレスが指をさした先に居たのは再生を終え再び槍を構えるエリギュラだった。


「ほう?なぜあちきがそれを持っていると?」

「初めに戦った時にお前が傀儡だって気付いたのと同時だよ。強力な魔力が重なって感じられた。それがその夢創の筆ってやつなのかまでは分からんが、今の話を聞いて特異的魔道具を持っていそうなことは予想が付くわけよ」

「流石よのう。確かにあちきは持っておる、この……夢創の筆をな」

「っ!」


アレスに夢創の筆を隠して持っていると指摘されたエリギュラは、言い逃れなど一切することなくむしろ懐から夢創の筆を取り出してみせたのだ。

夜の闇を思わせる漆黒の胴軸に、夜空の星々の輝きのような金の模様が施された美しい見た目。

そして何よりも通常の魔道具では考えられない量の魔力がそのペンからは溢れ出していた。


「んでジョージ。あれをどうすればこの世界から出られるんだ?単純に破壊すればいいなら楽だが」

「いえ、そんな簡単な話ではなくて……」

「なんだ?随分歯切れが悪いが」

「この世界から出るには、この絵を描いた人物にあの筆で出口を描いてもらわないといけないらしいんです」

「それで、その絵を描いたのは……ディーネって名前の方みたいなの」

「はっ、ディーネってお前……ッ!!??てめぇざけんなぁ!!」

「ぐふっ……ちぃ、油断を突けたと思うたのだがのう」


エミルダから話を聞いているソシアとジョージはこの世界から出ることが容易なことではないと知っており、躊躇うように外に出る方法をアレスに話し始めた。

ソシアが口にしたこの絵を描いた人物の名前は他でもないアレスを助けたディーネと同じ名。

ディーネという名前を聞いて思わず背後に居たソシアたちの方を振り向いたアレスだったが、その一瞬の隙を付いてエリギュラがアレスに猛烈な突きを放ったのだ。

アレスは完全に不意を突かれながらも左下方向からの斬り上げにより槍の軌道をずらし被弾を避ける。


「あっぶねぇ。死ぬかと思った。でも代わりにこいつは貰っておいたぜ」

「勇者ともあろうものが随分と手癖が悪いの」

「アレス!夢創の筆を奪ったのか!」


命を危機を覚えるほど油断。

しかしそんな隙を突かれたにもかかわらずアレスはエリギュラの攻撃をいなすだけでなく接近した一瞬の間に夢創の筆を奪ってみせたのだ。


「ディーネ!本当に……お前がこの絵の世界を描いたのか?」

「……。はい」

「そうか!ならこれはお前に託す!これで元の世界に戻るための出口を作ってくれ」

「残念だがのう、それは無理な話なんじゃ」

「なんだと?」


夢創の筆を奪い取ったアレスは、この世界を創ったというディーネに出口を作ってもらうため筆をわつぉうとする。

しかし筆を渡す直前、エリギュラが出口を作ることは不可能とアレスに淡々と告げたのだ。


「おい、どいうことだ。今更はったりは通用しねえぞ」

「はったりなどではない。確かにこの世界を生み出したのは彼女じゃ。だがな、その筆を使用するには1つ大きな条件があるのじゃ」

「条件……?」

「その筆が生み出せるのは持ち手が心の底から強く願った物だけ。故にこの世界からの出口はディーネには創り出せんのじゃ」

「だから何故だと聞いているんだ!!一緒に過ごした時間は短いが、ディーネが優しい心を持ってるのは分かってる。自分の望んだ世界でも他人のためにそれを終わらせることだってディーネなら……」

「それが、自分の命と引き換えだとしてもか?」

「なにっ!?」

「ッ!!」


ディーネがこの世界の出口を創るために夢創の筆を使えない理由。


「この世界から出れば、ディーネは確実に死んでしまうんじゃ」

「なん、だと……」


エリギュラは表情も変えずに静かにその真実を告げたのだった。

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