目覚めのキス
「な、なんですか今の衝撃!?」
城の入り口でティナがエリギュラを相手にしている一方、城の中ではソシアたちは順調にアレスがいる部屋に向かっていたのだ。
「今の振動はエリギュラさんがこのお城を海に沈めようとしたものだと思います」
「このお城を海に!?もしかしてアレス君が捕まったのもそのせいだったのかも。そうじゃなきゃアレス君が簡単に負けるはずないし」
「先程もの凄い冷気を感じましたので、ティナさんが何とかしてくれたのかもしれません。今の内に早くアレスさんたちの元に行かないと」
「あそこです!あそこの部屋の中にアレスさんたちが居ます!」
途中から兵士たちに追われなくなったソシアたちは多少回り道をしたものの無事にアレスが居るという部屋の前に辿り着いたのだった。
しかしその部屋の前にはすでに大量の兵士たちがソシアたちの侵入を阻もうと待ち構えていたのだ。
「兵士があんなに……」
「途中で追手が居なくなったのはここに先回りしていたからのようですね」
「あの部屋は入り口が1つしかないからここを突破するしかないんです……」
「しかも扉を鉄板で覆って扉が使えないようにされちゃってる」
「いえ、あれはアレスさんが扉を斬っちゃったので応急処置で鉄板を置いてるだけです」
「そうなんですか?でもどのみちあの鉄板も突破しないとだよね……よし!」
部屋の入り口の前には大量の兵士。
さらにアレスによって切り刻まれた扉の代わりに頑丈そうな鉄板が扉があった部分にあてがわれていたのだ。
長居していれば都合が悪いのは自分たちの方。
そのことを分かっているソシアはこの状況を打破するために再び腰から下げているポーチから球を取り出したのだ。
「火力の調整が出来ないし着火の手間もあるから使いにくいと思ってたけどこういう時には便利かも」
「ソシアさん、それは……」
「2人とも、衝撃に備えててね!」
曲がり角から部屋の様子を窺っていたソシアは呼吸を整えると、勢いよく兵士たちの前に姿を現したのだ。
そして兵士たちとの距離を保ったまま思い切り振りかぶり持っていた球を部屋の入り口付近めがけ投げつけた。
「侵入者が居たぞ……なんだ!?」
「ゴホゴホッ……煙幕?いや、それにしては様子が……」
「あなた達に恨みはないけど……ごめんね?」
ソシアの姿を発見した兵士たちは迎撃態勢に移ろうとするも、それよりも早くソシアが投げた球が炸裂し黄色味を帯びた煙幕が巻き起こる。
その煙は視界を遮るには薄かったが、不意打ちだったことも相まって兵士たちの間に軽い動揺が起こった。
だがそんな兵士たちの隙を付き、ソシアは火炎魔法を放ちすぐさま曲がり角の向こうへ飛び込んだのだ。
ドゴォオオオン!!
「ぐぁああああ!!」
「ぎゃああああ!!」
ソシアが曲がり角に飛び込んだのとほぼ同時、煙幕に火炎魔法が触れ大爆発が起こったのだ。
その爆発で兵士たちは全員吹き飛び、部屋の入口の鉄板も大きく凹んでしまう。
「す、すごい……」
「見かけほど大きな爆発じゃないよ。まあでもそのおかげで鉄板を貫けずに部屋の中が無事だったわけだから結果オーライだね」
「ですがあの爆発で壁に固定していた鉄板が外れ掛かっています!3人で協力すれば外せるかも!」
なんとか兵士たちを突破することに成功したソシアたちは、爆発で外れ掛かった鉄板を協力してどかすことにしたのだ。
幸い鉄板は見掛けよりも薄く留め具がほとんど破損していたため3人の力でも十分にどかすことが出来たのだ。
大きな鉄板が音を立てて倒れ、薄暗い部屋に明かりが差し込む。
「嘘ッ!!」
「そんな!アレスさん……」
そしてその部屋の中に踏み入ったソシアとジョージの前に、水の塊の中に力なく浮かべられたアレスの姿があったのだ。
「アレス君!!!」
「落ち着いてくださいソシアさん!あの水は魔力を吸い出すのが目的で死んでしまったりはしませんから」
「他にも行方不明になっていた学園の生徒たちの姿が……ッ!?ソシアさんあれ!!」
「なにジョージ君……っ!?アリアさん!?」
完全に水に沈んだアレスの姿に取り乱しかけるソシア。
そんなソシアを落ち着かせようとするディーネだが、その時ジョージが人魚となったアリアの姿を発見したのだ。
「え?なんで……アリアさんが人魚?」
「まさかアリアさんの正体は人魚で人間に化けて学園に来ていた……いやいやいや!!そんなまさか!!」
「……」
「見ろ!!部屋の入り口が破られてるぞ!!」
「しまった!もう増援が!」
この世界を創り出した元凶が人魚だと聞かされていたソシアとジョージは人魚の姿となったアリアを見て動揺を隠せなかった。
しかしそんなことをしている間に他の兵士たちが部屋の防御が突破されていることを発見し駆けつけて来てしまったのだ。
「と、とにかくまずはアレスさんを助け出さなければ!」
「でもどうすればいいの!?この床と天井から繋がってる管を斬ればいいのかな!?」
「いえ、これは魔力を送る役目と水を固定する役目しかないのでこれを斬ってもアレスさんは目を覚まさないと思います」
「そんな。じゃあどうしたら……」
「急げ!!侵入者共は中に居るぞ!!」
「くっ!もう時間が……僕が兵士たちを足止めするのでソシアさんはなんとかアレスさんを!」
「ジョージ君!!」
「インパクトシールド!!」
「ぐわぁああああ!!」
部屋に押し寄せてくる大量の兵士の足音が迫りくる中、ジョージは盾を構え入り口で兵士たちの足止めを試みたのだ。
入口は兵士の数に対して狭く一時的な時間稼ぎにはなる。
シk氏数が多すぎるためすぐに突破されてしまうことは誰の目から見ても明白だった。
(どうしよう。どうすればアレス君を助けられるの!?)
ソシアは静かに水の中で漂うアレスの前で必死で考えを巡らせるソシア。
水の塊は大きく手を伸ばした程度ではアレスを引っ張り出すことは叶わない。
(無駄かもしれないけどまずは管を斬ってみる?でも私じゃあの丈夫そうな管はどうしようもない!どうすれば……どうすれば……っ!!)
ジョージの時間稼ぎも限界が近づく中、ソシアはエミルダから聞かされていた人魚のとある情報を思い出したのだ。
陸へ連れてこられた人魚。
その人魚が好きだったものが、目を覚まさないアレスと重なったのだ。
「一か八かだけど……やるしかない!」
「っ!?ソシアさん何を!?」
その直後、腹をくくったソシアは大きく息を吸い込むとなんとアレスが閉じ込められている水の塊にダイブしたのだ。
その水の中は冷たく外から見えていた以上に暗く感じられた。
水圧も通常では考えられないほどで、押しつぶされそうな圧迫感の中ソシアは必死にアレスに手を伸ばしたのだ。
(お願いアレス君……目を覚まして……)
「!!」
そしてアレスの元に辿り着いたソシアは、心の中で強く祈りを捧げながらアレスに口付けをしたのだ。
空気が漏れないようアレスの首に腕を回し、アレスが意識を取り戻すとこを願いながら蓄えた空気を一気にアレスに送り込む。
……目を覚まさない愛する人に、真実の口づけを交わす。
それはおとぎ話でも王子とお姫様の間でよく見られる展開で、それに憧れる少女も多い。
そう、おとぎ話が大好きだったあの人魚も例外ではないのだ。
「ふっ!!」
その直後、なんとソシアの口付けによりアレスが勢いよくその目を見開いたのだ。
そしてそれと同時に空中に浮かんでいた水は突如その形をとどめておけなくなり音を立てて破裂する。
「ありがとうソシア!おかげで助かったよ!」
「ごほごほっ……アレス君!」
意識を取り戻したアレスは大きく水を吐き出しながらも力強く自身の脚で立ち上がった。
そんなアレスの元気そうな姿にソシアの顔にも笑顔が戻る。
(そっか……アレスさんは勇者だけど、その運命の相手は私じゃなかったんだ……)
そんな2人の様子を、少し離れたところからディーネは静かに眺めていた。
その表情にはこれ以上ない程の寂しさがにじみ出ており、ただ肩を落としていた。




