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海へ沈む

「アリアが……人魚になってる……?」


行方不明となったアリアを探すためにエリギュラの居城の中を調べていたアレス。

その城の一室でついにアリアを発見したアレスだったのだが、そこに居たアリアは魚の下半身を持つ人魚そのものの見た目をしていたのだった。


(なんでアリアが人魚なんかに!?この水の中に居ると人魚になるのか?いや、他の皆は誰も人魚になんてなってない。ということはまさか……アリアは本当は人魚だったのか?)

「……いや、とにかくアリアを助け出すのが先だ。どういう訳かわからんが人魚なら溺死の心配はないと思うけど……」

「案ずる必要はないぞ。その女以外の人間どもも死んではおらぬわ」

「っ!?」


人魚の姿となっていたアリアを前にアレスは動揺を隠しきれなかった。

そのせいでアレスはこの部屋にエリギュラがやってきたことに気が付けなかったのだ。


「エリギュラ様……いや、エリギュラ。俺を騙してたんだな」

「もはや隠しても意味はない。そうじゃ。あちきはここにやってきた人間どもを捕らえていたのじゃよ」

「っ!?まさか俺が海の中に落ちた時に俺を食おうとしてた魔物も!?」

「勘がいいの。その通り。あれはあちきの駒として、落ちてきた人間を捕らえる役目を任せていたのじゃ」


窓のないこの部屋の唯一の出入り口を塞ぐように立つエリギュラは事の真相をアレスに明かしたのだ。

それを聞いたアレスは静かに臨戦態勢へと移る。


「アリアを……アリア達を水の中に浮かべて何をするつもりだ」

「簡単なことじゃ。この世界を維持するための魔力を奴らから拝借しておるのじゃ。故に殺したりはせぬ。お主も安心してあちきに捉えられると良いぞ」

(魔力を奪うだけ?ならアリアが人魚の姿になってるのは、本当にアリアが元から人魚だったってことか……?)

「さあ、お喋りはこの辺りにしておこうかの。余計なことをせずにあの子の勇者として振舞って居ればこのようなことにはならなかったというのに」

「勇者として振舞う?何を言ってるのかわからんが、まさかお前……本当に俺を捕らえられると思ってるのか?」


エリギュラはそう話しながら何もない空中から突如透き通るように美しい青の三股の槍を取り出したのだ。

その槍の柄は激しい海流のうねりを思わせるようなねじれたデザインとなっている。

そんな芸術品のような豪華な槍を持ち出したエリギュラは静かにその槍先をアレスに向けたのだ。

だがそんなエリギュラにアレスは不敵な笑みを浮かべてみせる。


「無論じゃ!!」


次の瞬間、エリギュラは猛烈な突進をみせる。

そしてその勢いを利用してアレスの顔面目掛け鋭い突きを放ったのだ。

槍を回転させドリルのように抉る一撃。


「おっと!殺さず魔力を拝借するんじゃなかったのか……よっ!!」

「ぐっ!?」


だがアレスはそんな槍の一撃を髪の毛をかすめるほどギリギリで躱し、そのまま前に出ると猛烈な前蹴りをエリギュラの腹をめがけお見舞いしたのだ。

突進の勢いも相まって、アレスの蹴りを喰らったエリギュラはくの字に折れ曲がり後方へ吹き飛んでいく。


「触れて初めて気づいたぜ。相当な魔力を纏ってるから人間かと思ったけど……」

「っ!!」

「てめぇも生きちゃすらいねぇんだろう!?」


後方に吹き飛ばされた勢いのまま地面を転がるエリギュラ。

地面をすべり何とか止まったエリギュラだったのだが、顔をあげるとすでに剣を振りかぶったアレスが眼前へと迫っていたのだ。

そしてその直後、落雷のような袈裟斬りがエリギュラに振り下ろされる。


「離れんか痴れ者がっ!」

「よっと!やっぱりな。腕を斬られても血も出ねえし痛みすらないようだ」


そのアレスの一撃によってエリギュラは左腕を綺麗に切り落とされた。

だが腕を斬り落とされたにもかかわらず、エリギュラは一切痛みを感じるようなそぶりも見せず短く持った槍でアレスにカウンターの一撃を放ったのだ。

冷静にその攻撃を見極めたアレスは後方へ飛びその一撃を回避する。

腕を斬り落とされたはずのエリギュラだが、なんとその斬られた断面からは1滴の血も流れていなかった。

アレスは先程の蹴りの感覚からエリギュラもこの絵の中で生み出された人形であることを見抜いていた。


「わかったろ。お前じゃ逆立ちしても俺には勝てねえ」

「ふっ……ははは!!やはりそうか!!莫大な魔力を割り振って生み出したドラゴンが簡単に討たれるわけよのう!」

「やっぱりあのドラゴンもお前の差し金か。あれで俺を始末したかったようだが生憎だったな」

「いいや、別にあのドラゴンには貴様の始末を望んどったわけではない。むしろ貴様がドラゴンを倒し、本物の勇者となってくれることを願っておったのじゃ」

「本物の勇者?さっきから思ってたが、お前は一体何を望んでるんだ?」

「無論。あの子の幸せじゃよ」

ゴゴゴゴゴォオオオ!!

「っ!?な、なんだ!?」


圧倒的な力の差を見せつけられたエリギュラだが、その表情には余裕の笑みを浮かべていた。

そんなエリギュラに本当の目的を聞き出そうとしたアレスだったが、その時突如城全体を尋常ではない振動が襲ったのだ。


「あちきは貴様には勝てんといったな。確かにその通りじゃ……陸上ではな」

「何を……なんだ!?」


まるで天地がひっくり返るような揺れ。

その直後、なんとアレスの視界の先にとんでもない物が飛び込んできたのだ。

それは城の中に大量に押し寄せてきた水。

なんと城中を沈めてしまうほどのとんでもない量の水が突然流れ込んできたのだ。


「クソ!!それはまずい……がぼぼっ!!」


計り知れない量の水の波に、アレスは何の抵抗も出来ずに押し流されてしまった。

部屋に流れ込んだ水は一瞬にしてアレスとエリギュラが居た部屋を満たしてしまう。


(なんで……なんでこんな量の水が……)

「なぜこんなにも水が押し寄せて来たのか不思議か?」

(こいつ!!水の中でも喋って……)

「もともとこの城は海の底に建っていたんじゃよ。今の振動は城全体が海へと沈んでいった衝撃。……どうじゃ?水中ではむしろ貴様に勝ち目がないであろう?」

(くそ……まずい、息が……続かねぇ……)

「がぼっ……」


エリギュラが言った通り、城全体がゆっくりと海の底に沈んでいた。

元からそう設計されていたのか、城が水の中に沈むと城の中にあった空気は速やかに城の外に放出されてしまったのだ。

水の中でアレスが出来ることはないもない。

部屋に水が流れ込んで間もなく、アレスは呼吸をすることが出来ずに溺れてしまったのだった……

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