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青い海に飛び込んで

「アリアが戻ってきてない!?」


それは門限間近。

すでに寮に戻っていて部屋で休もうとしていたアレスの元に突如として舞い込んできた報せだった。


「そうなの!アリアさん、教室を出て行ったっきり誰もその姿を見てないらしいの!」

「あいつが規則を破るなんて絶対にありえないだろ!間違いなく何かトラブルに巻き込まれてるに違いない。早く探しに行こう!」

「だめだ。もうすぐ門限、君たちは寮を出てはいけない」


真面目で規則を破ったことなど1度もないアリアが門限が迫っても寮に戻ってきていないと聞き、アレスは危機感を募らせアリアを探しに行こうとした。

だがそれを寮の管理人であるエップルにとめられてしまった。


「なんでですか!?絶対に何か良くないことに巻き込まれてるんですよ!人目につかないところで怪我や病気で倒れてるとか、誰かに攫われたとか!」

「私も、アリアさんが心配です!」

「君たちが行っても被害が拡大するかもしれない。君たちにこのことを話したのは彼女の行き先に心当たりがないかと思って聞いたに過ぎない」

「それじゃあアリアは……」

「無論、これからすぐに教師の皆様に報告し捜索をして貰う。だから君たちは大人しく部屋で就寝するように」

「……」


アレスとソシアは過去に不可抗力とはいえ寮の門限を破っている。

特にアレスは先日も破っており、エップルは2人に無断でアリアを探しに行かないように強く釘を刺したのだった。

そんなエップルの言葉を聞いて、アレスは固く握りこぶしを作っていた。


「アレス君、どうするの?」

「どうするって……先生方がアリアを探してくれるってんなら、俺たちは大人しくしてるよ。ただ……明日になっても見つからなければ、どんな手段を使ってでもアリアを探してみせる」


すでに問題を何度か犯していたアレスはアリアの捜索を先生たちに任せ寮で大人しく待っていることにしたのだ。

それでも明日になれば何をしてでもアリアを探すという決意をあらわにし、静かに自身の部屋に戻っていった。



そして翌日。

日が出る前のあたりが薄暗い時間。

アリアの安否を気にしたソシアは早起きをして校舎へと向かっていた。


「あっ!アレス君!」


ソシアがアリアを探そうと校舎にやってきたところ、ちょうど前から浮かない表情のアレスがこちらに向かって来ていたのだ。


「ソシアか。アリアがどうなったか聞いてるか?」

「ううん。私は何も。その感じだとアレス君もなにもわからないんだね」

「ああ。さっき職員室に行って先生方に聞いてみたがまだ捜索中で手がかりすらつかめていないそうなんだ」

「そっか……アリアさん、どこ行っちゃったんだろう……」

「ソシア。俺は今からアリアを探しに行くぞ。あいつをみつけるまで寮にも戻らねえから」

「待ってアレス君!」

「なんだ。止めても無駄だぞ」

「ううん。1人で探すより2人の方が効率がいいでしょ?私もアリアさんを探すよ!」

「ああ。絶対に見つけるぞ」


昨晩からアリアの捜索をしていた教師陣だったが、朝になってもその手がかりすらつかめなかったのだ。

そのことにしびれを切らしたアレスは自らもアリアの行方を捜索すると決断していた。

そんなアレスの考えに同意したソシアと2人でアリアの行方を探るべく行動を始めたのだった。



「あぁ?クラスメイトが行方不明?まさか転移系のスキルを持つ俺を疑ってるってのか?あぁ!?」

「失礼なことを言っているのは承知です。でも本当に何の手掛かりもないんです。俺には虱潰しにあらゆる可能性を消していくことしかできませんから……どうか協力をお願いできませんか」

「……。はぁ、そもそも俺のスキルはそんな便利なもんじゃねえ。ただ何か気になることがあればてめえに伝えてやるよ」

「っ!ありがとうございます!」


2つある入口は厳重な警備が敷かれており、不審な人物の出入りは確認されていない。

ハズヴァルド学園を囲う高い塀には特殊な結界が施されているため外部から転移系のスキルを使用して侵入するのは困難であり、少なくとも痕跡が残る以上アリアが消えたのは学園の敷地内だとアレスたちは考えていた。


「くっそだめだ。アリアの目撃情報どころか手がかりすらねえ!」

「クラスの皆やティナさんにも話をしてアリアさんを探してもらってるけど、それでも全然見つからない……」

「ただ学園の敷地内に居るはずなんだ。きっと何か見落としてるはずだ……」


人気のない場所の捜索や他学年の生徒への聞き込みなど、アレスたちは出来る限りの手は尽くした。

しかしそれでも1‐7を出てすぐのアリアを見かけたという程度しか情報を得られず、その行方は全く絞り込めていなかった。


「もう一度人が普段立ち入らないような場所を探しに行こう。旧校舎の周辺や図書室の奥の方……大倉庫の裏辺りも怪しい」

「わかった。絶対に見つけよう!」


アレスとソシアは再び別れ、普段人がなかなか立ち入らないような場所の捜索を行うことにしたのだった。

時間はどんどんと流れていくのに、アリアの行方に関する手掛かりは何一つ見つからない。

そんな状況に焦り始めていたアレスだったが、そんなアレスが図書室の前に着たところで妙な人だかりを発見したのだ。


「どうしたんですか!?」

「ああ、実は午前中から図書室の中で何人か行方不明になってるらしいんだ」

「なんですって!?」

「ほんと借りに行くって言った奴らが全然戻ってこなくて、今先生が中を捜索して……っておい!」

(図書室で行方不明!?くそ、完全に見落としてた!!)


集まっていた人から図書室で何が起きているのかを聞いたアレスは躊躇なく図書室の中へ足を踏み入れたのだった。

午前中にアレスがやってきたときには図書室はいつもと変わりなく、騒ぎが起きていなかったため軽く見回っただけでスルーしてしまっていたのだ。


「ダメですね。行方不明になった生徒は誰も発見できません」

「おかしいですね。本当にこの中で行方不明になったんでしょうか?」


図書室の中を何人かの教師たちが徘徊するなか、アレスは教師たちにバレないよう気配を殺して図書室の中を探し回った。

一見すると普段と変わりない図書室。

アレスは些細な異変も見落とさないよう細心の注意を払いながら図書室の中を駆けまわった……その時だった。


「おや、ここは今生徒は立ち入り禁止のはずだが……」

「っ!?」


薄暗い本棚の間をアレスが歩いていると、アレスは当然背後から謎の男に話しかけられたのだ。

突如真後ろに現れた男に声に驚いたアレスは一瞬で前方へ飛ぶと男から距離を取り剣を抜いた。


(嘘だろ!?気配が全くしなかった!?)

「誰だてめえ!この学園の制服じゃねえ。教師にしたって見慣れない顔だな……まさかてめえがアリアを!!」

「アリア……が誰かは知らないけれど、君が探しているのは今ここを騒がしている生徒の行方不明事件の犯人だろう?残念ながら僕に人を攫う趣味はないよ」

(こいつ……妙な雰囲気で嘘を言ってるのかどうかもわかんねえ。本当に何者だ……)

「だけど、今しがたそこで重要そうな目撃証言を手に入れたよ」

「目撃証言だ?ここは立ち入り禁止っててめえが言ったんだぞ。誰が証言したんだ」

「ここにたくさんいるだろう?僕は彼らの聲が聞こえるんだよ」

「?」

「それで彼らが言うのは、先日やってきた新入りがここの生徒を何人か自分の世界に取り込んだって話だ」

「新入り?自分の世界?……よくわかんねえが、ここの職員が犯人ってことか!?」

「いいや、本だよ。さざ波の音が美しい少女が彼女に魅せられた人間を誘ったようなんだ」

「……ちょっと、もう少し俺にもわかりやすく話してくれませんかね……?」

ザザァ~ンー……

「っ!?」

「……どうかしたかい?」


突然現れた謎の男の独特な雰囲気に戸惑うアレスだったが、その時静まり返った奥の本棚からかすかに奇妙な音がしたのをアレスは感じ取ったのだ。

完全に理解できたわけではないが、目の前の男は犯人が本だといい、何かの美しい音色に魅入られた人間を攫っていると話した。

アレスはそれが今聞こえたあの音だと直感で理解したのだ。


「くっ!!こっちから聞こえたはず!」

「こらこら。図書室の中では走ってはいけないよ」

ザザァ~ンー……

(どこだ……どこから聞こえる……)

ザザァ~ンー……

「こいつだ!!」


謎の男の制止を振り切りアレスは奇妙な音の出所を突き止めるべく猛スピードで走り始めたのだ。

いつこの音が鳴りやむかもしれない。

そんな焦ってしまいそうな状況の中、アレスは驚異的な集中力で一瞬でその本を探し当てたのだ。


(これが……この中にアリアが居るのか?あまりにも信じられない話だが……)


アレスはあの男の話がにわかには信じられないと言った様子で本を開いた。

その本は独特なタッチで描かれた画集。

初めのページでは拙さが見て取れるが次第にその画力は上達し本の半分に差し掛かるころには味のある雰囲気も合わさって思わず感心してしまう出来だった。


「っ!!これは……」


そして次々とページをめくっていたアレスだったが、とあるページに差し掛かったところでページをめくる手を止めたのだった。

そこに描かれていたのは今までの絵とは比べ物にならないほど色鮮やかで美しい海の景色だった。

海を見たことのないアレスにとって、その絵はアリアを探さなければいけないというアレスの焦りさえも一瞬忘れさせてしまうほどのインパクトを有していた。

深海へと続いているような深い青に、アレスは吸い込まれそうな感覚を味わう。

青い……青い、青い……海に……


ザザァ~ンー……


「はっ!!??」


その直後、アレスの身に信じられないことが起こったのだ。

圧倒的な絵を前に、その絵の中に入り込んでしまうそうな感覚を覚えていたアレス。

しかし次にアレスが瞬きをして目を開けると、なんとアレスの体は宙に投げ出されていたのだ。

薄暗い図書室とは打って変わり、上も下も感動するような青が広がっている。


「なんでこんな……うぉ!!??」


その直後、アレスの体は重力に引かれ青い海へと落下していったのだ。

空を飛べないアレスにその落下に抗う術はなかった。


ドボォォオオオン!!


アレスが水面に落下すると、大きな音と共に大量の水しぶきが天高く舞い上がった。

アレスは自分の身に何が起きているのかを全く理解することが出来なかった。

右も左も、下を向いても終わりの見えない深い青が続く。

アレスは生まれて初めて見た海にその身を飲み込まれてしまったのだ。

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