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紅き月光に照らされた血戦

前回のあらすじ:ヴァンパイアの圧倒的な身体能力と魔力に追い詰められていくアレス。上空から攻撃を続けるカブラバに手も足も出なかったアレスは一発逆転を狙うべく、プライドが高いカブラバを挑発し渾身の一撃を叩き込んだのだった

街の中心部で繰り広げられる激闘にパニックになる住民たちの声が遠く聴こえる中、アレスとカブラバの戦いは新たな段階へと進もうとしていた。

戦場となった通りは無数に降り注いだ血の雨によりすでにボロボロ。

そんな地面に膝をついていたカブラバは、アレスから受けた顔面の傷を再生させると落ち着いた様子で立ち上がった。


「ふふふ……ありがとう。今の一撃のおかげで頭に上った血も引いたわ。これで冷静にあなたをぶち殺せる」

(なんちゅう反応速度だよ。あの距離から致命傷を避けるなんて……でも、避けるってことは斬られちゃまずいんだろう?お前は不死身でも何でもない)

「それで、冷静になってやることが空にこそこそ逃げて安全圏から攻撃か?」

「本当にむかつくわね、お前。その方があなたが嫌がりそうだからそうしてあげたいけど……それじゃ私の溜飲が下がりそうもないもの。この手で直接八つ裂きにしてあげるわ」


冷静さを取り戻したものの、カブラバは先程のアレスの侮辱により怒りが頂点に達していた。

アレスを殺すことだけを想像し不気味な笑顔を浮かべるカブラバは右手を天に掲げると、今までの非じゃない量の血液を放出し始めたのだ。


「なんだ!?」

「せっかくだもの。本気を出してあなたを叩きのめしてあげるわ」


カブラバの右手から放出された血は霧のようになると、もの凄い勢いで周囲に拡散し始めた。

カブラバを中心に紅い霧が広がっていく。

それはアレスを飲み込んだだけでは止まる気配も見せず、瞬く間にヘルステラの街全体を包んでしまったのだ。

紅い霧が発生し広がっていく様子をみた住民たちはパニックが大きくなり街中が混乱状態に陥ってしまった。

そんな中アレスはこの霧の正体を警戒し咄嗟に息を止めていた。


(まずい……まさか毒か!?)

「安心しなさい。さっきお前は私の手で直接八つ裂きにしてあげるって言ったでしょう?これは人間が吸い込んでも害はないわ」

「……。本当みたいだな。それじゃあ、この霧は一体何なんだ」

「簡単よ。莫大な魔力を消耗する代わりに私はこの霧の中にいる限り戦闘能力が大幅に上昇される……」

「っ!」


魔力によって生み出された霧の空間はアレスたちに害を及ぼすものではなかった。

しかし濃い霧に包まれたこの街はカブラバが最も戦闘能力を発揮できる空間へと変化していたのだ。

深い霧の影響で周囲はうす暗くなり、外から差し込む月の光は赤く見える。

そう、赤い月の下に現れ霧が深い夜の闇を好むというヴァンパイアの伝説と全く同じ状況だったのだ。


「さあ……殺戮ショーの始まりよ」

(さっきより格段に速いっ!)

「くっ!?」


直後、カブラバはさらに赤が深まった瞳をぎらつかせながら猛スピードでアレスに突進してきたのだ。

さらに先程までとは比べ物にならない速度で剣を生成し、一瞬でアレスに斬りかかる。


「パワーも!スピードも!能力の精度も格段にアップしてるわ!!お前に勝ち目は万に一つもありえない!!」


カブラバの圧倒的な攻撃にアレスはたまらず後方へバックステップ。

しかしその動きをしっかりと捉えていたカブラバは真っ赤に染まった鋭い爪でアレスの腹を裂く。


「近接戦闘がお望みじゃなかったのかしら!?離れればあなたが不利になるだけよ!!」


腹部を薄く斬られながらも距離を取るアレスにカブラバは剣を鞭のように変形させ追撃を加える。


「それと、おまけでこれもあげるわ!!」

「っ!また血の雨……」

「戦闘中によそ見はダメじゃない!!」


そして新たな攻撃に警戒を高めるアレスにカブラバはこれ見よがしに上空へ小さな血の粒を無数に放った。

それは先程王国軍の兵士を全滅させた血の雨の攻撃。

意識を一瞬上空の血の塊に向けてしまったアレスにカブラバは再び急接近しアレスの頬を深く裂いたのだ。

そうしてアレスが後方へ吹き飛んだところに直前に上空へ放っていた血の塊を操り小規模の血の雨を降らせた。


「がっ……ごほごほっ……」

「今のでもう体はズタズタでしょう?」

「はぁ……はぁ……」

「あなたはもう十分頑張ったわ。人間にしてはよくやったじゃない。もう諦めて大人しく私に殺されなさ……っ!?」

「はぁ……はぁ……もう終わりか?まだ俺は動けるぜ?」


吹き飛ばしたところにブラッディ・レインの追撃が決まったことで、カブラバは完全に自身の勝利を確信していた。

人間にしてはヴァンパイアである自分によく対抗したと賞賛の言葉を投げかけながらアレスへの止めを刺そうと歩み寄る。

しかし直後アレスは全身から血を流しながらも力強く立ち上がったのだ。


(なに?なぜ今のを喰らって動けるの?もう全身穴だらけのはず……)

「もうそろそろしつこいわよ!ブラッディ・レイン!!」


ヴァンパイアでもないただの人間であるアレスがまだ自分に立ち向かってくることに軽い恐怖を覚えたカブラバは勝負を決めるべく再びブラッディ・レインを放つ。

しかしアレスは動じることなく、全身にかすり傷を負いながらも致命傷となる血粒を剣で叩き斬ったのだ。


(バカな……まさかブラッディ・レインを防いだ!?さっきまで逃げ惑うことしかできなかったあいつが!?)

「くっ……そんなボロボロの体で何ができる!!」

「はぁ!!」

「なにっ!?」


大量の王国軍の兵士をも葬った攻撃をアレスに凌がれたことでカブラバの表情に焦りの色がにじみ始めていた。

今度は確実に息の根を止めようと大剣を振りアレスに斬りかかる。

しかし……


(ああ……攻撃はどんどん速くなるし、全身が傷だらけだし……なのになんでだろうな)

(こいつ……まさか……!?)

「全然負ける気がしねえや」

(戦いの中で成長してるのか!?)

「ぐぁあああああ!!き、貴様……」


嵐のような連撃に曝される中、アレスの思考は驚くほどはっきりとしていた。

今までは剣聖のスキルの素のスペックでほとんどの相手を上回り、純粋な実力差で圧倒されることがなかったアレス。

しかし今回初めて圧倒的格上とも言えるヴァンパイアとの戦闘を経験し、アレスは己の剣術がより高みに至るためのきっかけを掴んでいたのだ。

限界を超えたカブラバの斬撃の嵐を完璧に捌ききり、一瞬の隙を付きカブラバの右腕を切断したのだった。


「もう終わりにしよう」

「貴様……貴様、貴様、貴様ぁああ!!」


カブラバは斬り落とされた腕を素早く拾うと断面を押し付け合い結合させてしまったのだ。

しかしヴァンパイアの再生能力も無限ではない。

弾丸として多くの血を放ち、この街を覆う霧を維持し、ここまでのアレスとの戦闘で体力を消耗していたカブラバは激しく息を切らしていた。

そんなカブラバに全身に傷を負いながらも覚醒状態にあったアレスは落ち着いた様子だった。


「お前のせいで多くの人が犠牲になったんだ。その罪をちゃんと贖ってくれ」

「ふざけるな……私は、高貴で誇り高いヴァンパイアだぞ!それなのに……貴様らのような下等生物を何匹殺した程度で罪になるわけないだろう!!」

「……どうやら分かり合うことは出来ないらしいな。残念だ……さようなら」

「……ふ、ふふっ……ええ、本当に残念。さようならだわ……お前がな」

「っ!?」

「死ねぇえええ!!」

「くっ!」


アレスが剣を構えてカブラバに斬りかかろうとしたその時、なんとアレスの背後から気を失っていたはずのモレラが奇襲を仕掛けてきたのだ。

その気配に直前で気が付いたアレスは横っ飛びでモレラの不意打ちを回避する。


「隙ありだわぁああ!!」

「ぐぁあああ!!」


しかしモレラの攻撃をかわしたことで大きな隙を作ってしまったアレスに、カブラバは再生しきっていなかった腕の傷から勢いよく血を噴射させ攻撃をしたのだ。

直前で反応したアレスだったが高速の血のビームを完璧に受けることが出来ず、脇腹を深く抉られてしまったのだった。

感動で涙を流すのも案外疲れますね。アニメドラマゲームなどなど、感動しやすい私は毎日へとへとです

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