冒険者パーティー”星の舞”
前回のあらすじ:モーリスと一時共闘したアレスは何とか呪いのメイド人形の撃破に成功する。全員無事に戦いを乗り切れたアレスたちはようやく地上に戻ることが出来たのだった
穏やかな雰囲気が漂う朝のハズヴァルド学園寮。
やる気に満ち溢れた生徒がちらほらと寮を出て学園に向かう姿が見られ始める中、アレスは寮から少し離れた広場で日課の素振りを行っていた。
「……9998、……9999、……10000。ふぅ……」
モルネ教会にいたころたくさんの弟妹たちの食事の準備や衣類の洗濯をするために夜明けよりもずっと早くに起きていたアレスはハズヴァルド学園に来てからも同じような時間に起床し、毎日1万回の素振りを行っていたのだ。
今日の分の素振りを終えたアレスはタオルで汗を拭うと浮かない表情で右手を数度握ったり開いたりを繰り返した。
「俺って……ちょっと弱くね?」
しばらく考え込んだ後、アレスはボソッとそんなことを呟いたのだ。
というのもハズヴァルド学園に来てからというもの、アレスはあの英雄ラーミア様と同じ剣聖のスキルを持ちながらいろいろな相手に苦戦させられ過ぎじゃないかと悩んでいたのだ。
白銀妖狐が暴れた時にはティナが囚われていたとはいえ終始押され気味で、地獄穴の戦いでは鬼蜘蛛の突然変異体相手に勝てなかっただけでなくスキルの使い過ぎでまともに動けなかった。
そしてメーヴァレア遺跡では呪いのメイド人形に自分1人では勝つことが出来なかったうえにトレジャーハンターのモーリス相手には敗北を喫していたのだ。
(もしもこれがラーミア様ならこんな無様な結果にはなってないはずだ。俺が……ラーミア様と同じスキルを持ちながらその力を十分に引き出せていないんだ)
剣聖のスキルを授かったばかりの頃のアレスは剣聖のスキルがあれば大国相手にだって1人で渡りえ会えるとさえ思っていた。
しかし今の自分の力ではせいぜい国のトップの戦士1人と渡り合えるかどうかの力しかない。
普通のスキルならそれでも十分と考えられるかもしれないが、尊敬するあの大英雄ラーミア様と同じスキルを持ちながらこの程度の力しか出せていないという情けない自分にアレスは自信を失いかけていた。
(今日の素振りも以前よりキレが悪い気がした……ここ数日ずっとこんな感じだ)
アレスはこの現状に落ち込みながら、素振りでかいた汗を流すために寮に戻り大浴場へと向かった。
シャワーで汗を綺麗に洗い落とし、部屋へ戻り学園へ行く準備をして共同エリアとなっている休憩スペースへと足を運ぶ。
そしていつも通り寮を出る時間になるまで今朝の新聞を読んでいたのだが、そこでアレスは気になる記事を発見したのだった。
『魔物出没情報。ベイク地方南東地域にてパープルホーンの大量発生を確認。近隣住人は不要不急の外出を控えること』
「これは……」
それは普段はあまり魔物の出現しない居住地域の近くで魔物が出没したということを報せる記事。
今回ベイク地方に現れたパープルホーンという魔物はその名の通り紫色の大きな角が特徴の四足獣型の魔物であり、ヘラのような見た目の大きな角を用い獲物に群れで突撃するという危険な習性を持つ。
そしてそのパープルホーンなのだが、その角が以前アレスが入学初日に問題を起こした罰として課せられた課題の採集素材となっていたのだ。
(ラッキー。ダンジョン内の出現じゃないから3人以上のパーティーで行かなくても問題なし)
ダンジョンに指定されていない地域でのパープルホーンの出現情報に幸運と感じたアレスは、気分転換もかねて早速今日の午後からベイク地方に向かいパープルホーンの角の回収をすることにしたのだった。
「あい兄ちゃん。ここまでいいかい?」
「ここまで乗せていただきありがとうございました」
そしてその日の午後。
授業を終えたアレスはすぐに学園を出て、目的地が同じ方向だった馬車に乗せてもらいベイク地方の近くにやって来ていた。
「だが兄ちゃん。気を付けろよ。最近この辺りでパープルホーンの群れが出たって話だ」
「お気遣いありがとうございます。気を付けて行ってきます」
アレスはここまで送ってくれた馬車の持ち主に感謝を述べ、そのままパープルホーンの目撃情報が多発している地域へと向かったのだ。
自分と一緒に追加課題を課せられていたソシアも誘ったアレスだったのだが、都合が合わないということで今回は1人でやってきていた。
(さーてと。まずは近くの村にでも行って情報収集かな。今日は外泊届も出してきてるからいいけど、明日のうちには学園に帰らないといけなきゃだし、早く出会えると良いんだが)
パープルホーンがの目撃情報があったのはもう少し先の地域。
アレスはその付近にある村を目指そうと、最短ルートとなる森の中を1時間ほど歩いていった。
「平和過ぎる~。のどか過ぎて眠くなってきちまうぜ……」
「きゃああああ!!」
「って言ったそばからなんだ!?」
何事もなく小動物の鳴き声だけが聞こえる平和な森の中を歩いていたアレスが大きな欠伸をしたその時、突如森の奥から女性の叫び声が聞こえたのだった。
その声を聞いたアレスは即座に駆け出し警戒態勢に入る。
「ぐぉおおおおおお!!」
「くっ!こいつら、数が多すぎる!」
「ダメだ!完全に囲まれちゃった!」
「あれは……馬車が魔物に襲われてる!?」
木々の間からかすかに見えたのは馬車が大量の魔物に囲まれていた光景。
馬車の中には一般人と思われる人が4名ほど、馬車の外には魔物と戦闘をしている女性が3人。
そして馬車を襲っていた魔物は2mはありそうな筋肉質で巨大な体に緑色の肌。
しゃくれた顎に大きな牙が2本を持つ、ジェネラルオークだったのだ。
(あれは……オーク!?だがちょっとデカいような……ジョージがいないと魔物の種類がわからんな)
「くそ、このままじゃ……」
「っ!リーダー!!」
「しまった!くそ、離せ!!」
「グォオオオ……」
「嫌!!やめろ、離してくれ!!」
大量のジェネラルオーク相手に勇敢に戦っていた女性たちだったのだが、ジェネラルオークは1匹でも手強い魔物な上に数で大きく上回られている。
体力がつきかけていたリーダー格と思われる赤髪の女性がオークに捕まってしまい、今まさに襲われる寸前となってしまっていた。
(よし、ギリギリ間に合った!!月影秘伝・叢雲一閃!!)
「グォオオオ!!??」
「な、なんだ!?」
赤髪の女性の顔が絶望に染まりかけたその瞬間、目にもとまらぬ速さで馬車に群がっていたオークが切り刻まれていったのだ。
重症を負ったオークたちは怯みながらも突如現れたアレスの姿を見て威嚇をする。
「神速・韋駄天!!」
「グォオオオ!!」
そんなオークたちにアレスは眉一つ動かさず、さらに素早い動きでオークたちにとどめを刺していったのだ。
アレスのスピードに全く追いつけないオークたちは成す術もなく骸と化していった。
「ふぅ、皆さん。大丈夫でしたか?」
「あ、ああ……なんとか……」
「あれ?皆さんどうしましたか。そんな驚いたような顔をして?」
「なっ!驚くに決まっているだろう!?なんだ今の動きは!」
「そ、そうだよ!相手はあのジェネラルオークだよ!?」
「それをこんな……信じられません!」
彼女たちの危機を救ったアレスだったのだが、助けられた女性たちはアレスのあまりに人並外れた動きに驚きを隠せないようだった。
それを理解していない様子のアレスに3人は今のがどれほどすごいことだったのかと詰め寄り口々に説明する。
しかしそれでもアレスは彼女たちの言葉を素直に受け止めることが出来ず先程の動きに全く納得がいっていなかったのだ。
(褒めてもらえるのは嬉しいですけど……それじゃダメなんです。俺は……俺はこの程度で満足していちゃ)
「お兄ちゃん!助けてくれてありがとー!」
「ああ、本当に!なんとお礼を言っていいのやら」
「……ん?ああ、いえ。気にしないでください。たまたま通りかかっただけなので」
「はっ!そうだった。すまない、あまりの出来事に驚きすぎたせいでお礼を言うのが遅れてしまった。危ないところを助けてくれて本当にありがとう」
馬車の中に居た村人たちも無事だったらしく、お礼を言っていないことを忘れていた彼女たちも含めアレスに命を助けてもらった感謝を述べた。
「そんな大げさなことじゃないですよ。目の前に魔物に襲われてる人がいたら助けるのが当たり前のことですよ」
「それを当たり前と言い切ってしまえることがもう凄いことだ。私は冒険者パーティー『星の舞』、リーダーのレベッカだ。本当にありがとう」
(この人たち……冒険者パーティーだったのか!)
アレスが助けた馬車を守っていた3人の女性たち、それは冒険者ギルドに所属する冒険者パーティーだったのだ。
「君その制服、ハズヴァルド学園の生徒でしょ!?あ、私は魔術師のヌーレイ!」
「まだ学生の身でありながら……とんでもないな。私は支援術師のダイヤだ」
「俺はアレスです」
アレスが目指す冒険者の先輩を偶然助けたアレス。
その後事情を話したアレスは彼女たちが向かっていた近隣の村、ドーレ村へと向かうことになったのだ。
「そうか。君は冒険者を目指していたのか。それなら恥ずかしいな、君が初めて出会った冒険者パーティーがオークジェネラルに敗北していた私たちだなんて」
「アレス君も知らないでしょ?星の舞なんてパーティー」
「ごめんなさい……ちょっと、知りませんでした……」
「申し訳なさそうにする必要はない。私たちのパーティーは大して有名でもないんだからな」
馬車の護衛をしていた星の舞のメンバーと一緒に護衛をする形で、アレスは馬車に付き添いながら話を聞いていた。
冒険者ギルド内のパーティーの等級は星の数で分けられており、ノンスター(新人)、シングルスター、ダブルスター、トリプルスター、クアドラスター、フルスターとなっている。
そして彼女たちの星の舞は冒険者ギルドに所属する”ダブルスター”の称号を持つパーティーなのだ。
「ダブルスターの称号を授かって私たちは少し浮かれていた様だ。もっと精進しなければな」
「そういえばアレスさんは目的地が同じだと言っていたが、何をしに行くんだ?」
「そうですね。学園の課題でパープルホーンの角が必要で、そいつらを狩りに……」
「パープルホーン!?正気か君!?」
「1人でパープルホーンの群れを狩りに行くなんて無謀だ!」
「大丈夫ですよ。危険なことはするつもりは……ん?」
「どうした?」
アレスたちの馬車が目的地であるドーレ村に近づいてきたその時、アレスは森の奥から何かが接近してくる気配を感じ取ったのだ。
初めはその異変に気付かなかった3人だったが、しばらくして聞こえてきた物音に同じく警戒を始めた。
「キキィイイ!!」
「キキィイイ!!」
「あれは、ゴブリン!」
(……っ?いや、おかしいぞ)
馬車を止め、周囲を警戒するアレスと星の舞のメンバー。
するとそこに慌てた様子のゴブリンの群れが現れたのだ。
「数はまあまあだがたかがゴブリン。俺が一瞬で……」
「いや、アレス君。ここは私たちに任せて欲しい」
「え?」
「その通りだ。この馬車の護衛は私たちの任務なのだ。ゴブリン退治まで君に任せてしまっては”星の舞”の名が泣くというものだ」
「そうそう!アレス君は馬車の傍で守ってててよ!」
「……」
「この”炎脚のレベッカ”。ゴブリン程度に遅れを取るなどありえない!」
そういうと、レベッカたちは勢いよくゴブリンの群れに向かっていったのだ。
炎脚のレベッカ、そう呼ばれる彼女はダブルスターの冒険者パーティーのリーダーの名に恥じない身のこなしでゴブリンたちを圧倒していった。
レベッカ専用の脚鎧が彼女のスキルにより真っ赤な炎を纏い、まるで舞を踊るような華麗な動きでゴブリンを蹴り飛ばす。
魔術師のヌーレイと支援術師のダイヤはそんなレベッカを援護し、何の苦も無く馬車を守り切ってしまったのだ。
(さすがだな。相手がもっと強力な魔物でも楽勝だな。だけど問題はそこじゃない)
アレスはそんな彼女たちの戦いに感心しながらも周囲への警戒を強めていった。
先程のゴブリンたちの様子だが、馬車を見つけて襲い掛かってきたようには見えなかった。
まるでもっと強力な魔物から逃げまどっているように見えて、アレスはその何者かの襲来を警戒していたのだ。
「よし、これですべてだな。ゴブリン程度じゃ自慢にはならないだろうが、これで少しは私たちの実力を分かってもらえただろうか」
「来る」
「えっ?」
「ブォオオオオオオ!!!」
「っ!?なに!?」
「まさかパープルホーン!?」
「いや違う……こいつは……ジャイアントパープルホーンだ!!」
ゴブリンを殲滅し一息ついた星の舞のメンバーだったのだが、そのすぐ直後に地鳴りのような音共に気がなぎ倒され巨大な魔物が出現したのだ。
それはパープルホーンのようだが、その体躯は普通のパープルホーンとは比べ物にならないほど大きく狂暴性がけた違いだった。
パープルホーンの突然変異体と呼ばれるジャイアントパープルホーンであり、それを見た彼女たちの表情は一気に青ざめていったのだ。
「うそ……なんでジャイアントパープルホーンなんて……」
「ダメだ……こんなの、私たちだけで勝てるわけがない……」
「っ!!アレス君!馬車を連れて早く逃げて!私たちが出来る限り時間を稼ぐから……」
「うーん、普通のパープルホーンとちょっと違うけど課題クリアになるかな」
「な、なにを呑気なことを言ってるんだ!早く逃げないとこのまま全滅……」
「ブォオオオン!!」
「金剛一閃斬!!!」
「ブゥオオ!?」
「なっ!?」
自分たちの力をはるかに超える魔物に絶望するヌーレイとダイヤ。
そんな中レベッカは自分たちの命と引き換えにアレスたちをここから逃がそうと決意したのだが、そんな魔物をアレスは表情一つ変えることなく一刀両断してしまったのだ。
「ダメだな。こんなんじゃラーミア様に申し訳なさすぎる」
「な、なな……なんてことだ!?」
「どうなっているんだ君は!?」
「ま、まさか、こんなにあっさり!?」
魔物を簡単に倒したものの、今の一撃に納得していないアレス。
そんなアレスと対照的に3人はアレスの桁違いの戦闘能力に開いた口がふさがらなかった。
フルスターってもしかしてダサいか?




