呪いを纏う麗しのオートマタ
前回のあらすじ:サンドスネークの牙を採取するためにメーヴァレア遺跡にやってきたアレスたち。そこは探索が進み比較的安全なダンジョン……だったはずが、アレスたちは罠にかかり窮地に陥ってしまう。さらにそこに謎の老人が現れたのだった。
メーヴァレア遺跡、地下通路。
アレスと突如現れたトレジャーハンターのモーリスは2つの光源魔法に照らされながら対峙した。
(くそ、間合いを詰めたいがマグナ達を背にしてちゃ動きが取りにくい。それに……)
(赤髪の彼、平静を装っているようだが表情が硬い。どうやら何か問題を抱えているようですな)
アレスはこの老人が現れる直前に遺跡の罠にかかったアリアを庇い毒を喰らっている。
敵にそのことを悟られないように努めてはいたものの、経験でアレスを遥かに勝るモーリスは僅かな仕草から異変を見抜いていたのだった。
(彼は早くこの戦闘を終わらせたいと考えているでしょう。ならば……)
「じっくりと楽しみましょうか!ファイアフェスティバル!!」
(やはり魔法使い!!すべて叩き落とす!!)
「うぉりゃぁあああ!!」
「きゃあ!!」
「な、なんてでたらめな炎魔法だよ!?」
アレスが短期決戦を望んでいると察したモーリスは先手を取ると、無数の炎魔法を放ちアレスの足止めを図ったのだ。
1発1発の威力こそ大したことはないがその手数はとんでもないもの。
狭い通路で回避しようがないアレスにはそれらをほぼ全て斬り落とすしか選択肢が残されていなかったのだ。
「アレス君!」
「くっそ!お前ら、いったん下がるぞ!!」
「っ!わ、わかった!皆行こう!」
「そ、そうだよな。これじゃ俺たちただの足手纏いだもんな」
想像を絶する数の炎魔法を捌きながら、アレスは背後に居たアリア達に遠くへ逃げるよう指示をした。
老人との力量の差を一瞬で悟った3人はアレスの指示に大人しくしたがい通路を進む。
(できれば俺ももっと広いところで戦いたいんだが、それをこいつが許してくれるか……)
「うわっ!?」
「きゃ!?」
「マグナさん!メアリーさん!?」
「どうした!?何があった!?」
「アレスさん!マグナさんとメアリーさんが消えちゃいました!」
「なにぃ!?」
アレスが3人の逃げる時間を稼ごうと粘っていたその時、突如背後から3人の叫び声が聞こえたのだ。
モーリスの射線から逃れるべく、3人はすぐ近くにあった曲がり角を曲がろうとした。
しかし先行していたマグナとメアリーに少し遅れてアリアが角を曲がると、そこに居るはずのマグナとメアリーの姿が跡形もなく消えてしまっていたのだ。
「転移魔法陣か!?くそ、どうなってんだ……だがここで考えても仕方ねえ!お前だけでも先に逃げろ!」
「わ、わかりました!」
(ふむ、仲間の悲鳴を聞いた時でさえ魔法を捌く剣技は衰えなかった。やはり彼は相当の使い手だ……)
この状況で消えた2人をすぐに捜索することは出来ない。
アレスは断腸の思いで2人の安否確認を後回しにすると、アリアに逃げるよう指示を出した。
(よし、そろそろ俺もいいかな……)
「それじゃ悪いけど、俺もそろそろ逃げさせてもらうぜ!」
「ふむ、それは困りますな。あなたをただで逃がすと私は安心して探索が出来ない」
アリアの足音が聞こえなくなったことを確認したアレスは凄まじいバックステップを踏み、そのまま自身もモーリスから逃げ出したのだ。
それを見たモーリスはアレスに回復される可能性を重く見てすぐに追跡をする。
「おや、鬼ごっこは終わりですか?」
「あんたと戦うにはぴったりな場所があったもんでね。自分の運のなさを恨むんだな」
そうしてアレスがたどり着いたのは大きな柱が並ぶ遺跡の中の広い部屋だったのだ。
モーリスが自分を追ってきたことを確認したアレスはすぐに柱の陰に身を隠す。
(飛翔・鷹の目!!)
「むっ!?」
「こっちが本命だ、飛翔・鷹の目!!」
(なんだ?私を狙っていない?)
柱の陰に身を隠したアレスは隣の柱に斬撃を飛ばす。
それによりモーリスの意識を一瞬奪い、反対方向から飛び出し再び斬撃を飛ばしたのだ。
すぐにアレスの動きに対応しようとしたモーリスだが、アレスの視線が微妙に自分に向いていないことに気が付く。
自身への敵意がこもっていない攻撃に反応が遅れたモーリス。
アレスの斬撃はモーリスの右後方に浮いていた光源魔法を切断したのだ。
「ほう、これは……」
(暗闇で狙いを定めずに俺は捉えられない!かといって明かりを出すのも間に合わん。チェックメイトだ!)
光源魔法が消え完全な暗闇となった状態でアレスは音もなくモーリスに斬りかかる。
この暗闇の中でアレスの動きをモーリスが捉えることは不可能……だとアレスは思い込んでしまっていた。
「アイシクル・ランス!」
「っ!?」
完全な暗闇の中、モーリスはいとも簡単にアレスがいる方向と距離を把握し生成した氷の槍で攻撃を仕掛けてきたのだ。
アレスはとっさにその氷の槍を斬り落とす。
「この程度の小細工では私は倒せない。はっ!!」
ボォオオン!!
「ごはっ!?」
想定外の反撃に一瞬動きが硬直するアレス。
モーリスはその隙を見逃さず流れるように掌底をアレスの腹に叩き込む。
ただの打撃かに思われたその一撃は、アレスの腹に触れると同時に小規模な爆発を起こしたのだ。
「ごほっ、がっ……」
「光源魔法を失えば周囲を把握する手段がなくなるとでも?魔力感知の魔法は意外と簡単なのですよ」
モーリスは地面に倒れ込むアレスにそう話しかけながら再び光源魔法を使用した。
眩い光が周囲を満たすと、先程モーリスが掌底を放った右手の手袋が煙を出しながら内側から爆ぜたように穴が開いていた。
(なるほど。手袋の内側にあらかじめ魔方陣を描いておいたのか。やられた……)
「ごほごほっ……だが、まだ致命傷には程遠いぜ」
「やせ我慢はいけませんよ?今のは相当こたえたはずです」
(とはいえ、先程のアイシクル・ランスが一瞬遅れていたらやられていたのはこちらだったかもしれませんね。これは遊んでいる余裕はなさそうです)
「君との戦いはなかなか楽しかったですが、そろそろお開きとさせていただきましょうか」
「ざけんなよ。こっちはようやく体が温まってきたところだっての」
「いいえ、もう終わりです」
「っ!!なに……がぁっ!!??」
終始圧倒しているように見えたモーリスだったが、アレスの底知れぬ可能性に彼の直感が警鐘を鳴らす。
爆破のダメージから立ち直ったアレスが再び剣を構えたその時だった。
モーリスが大きく目を見開いたその瞬間、なんとアレスは叩きつけられるように地面に這いつくばったのだ。
「がっ……な、なんだ、これ……」
「誇るがいい少年。サシの勝負で私にスキルを使わせたのですから」
(全身が……鉛のように重い!!それどころか……そのまま潰れそうだ、これは……重力!?)
重力が何十倍にも強くなったように感じられる重さに、アレスは地面から全く離れられなくなってしまった。
このまま放置されるだけでも潰れて死んでしまいそうな状態だったが、モーリスに油断はなく巨大な氷の槍を生成してアレスにとどめを刺そうとする。
「さらばだ、少年」
「ぐっ……ぐぐ……ぐぁあああああ!!」
「なにっ!?」
氷の槍が放たれ、体を貫かれそうになったその瞬間。
火事場のバカ力を発揮したアレスは剣を握りしめていた右手を強引に振り抜き自身の周囲の床に斬撃を這わせた。
荷重の増したアレスの重みで切断された床は一瞬のうちに階下へと落下する。
(しまった、まさかあんな力が残されていたとは)
「うぉおおお!!」
(っ!?まさか……逃げ出した?)
間一髪で氷の槍を回避したアレスは階下に落ちたのとほぼ同時に全速力で走り出す。
(サーチ……。ふむ、隠れて奇襲を狙うわけでもなさそうだ)
奇襲を警戒してモーリスが魔力感知を行っているうちにアレスはモーリスからもの凄いスピードで遠ざかる。
(くそっ!悔しいが感情に任せて死んだら元も子もねえ!ここは一旦体勢を立て直す!)
こうしてアレスは一瞬のうちにモーリスの魔力感知の範囲から脱すると、そのまま暗い通路を駆け抜けたのだった。
アレスがモーリスとの死闘を繰り広げていた最中。
アレスの指示で逃げ出した直後に姿を消していたマグナは、姿を消した場所から少し離れた通路を1人で歩いていたのだ。
「お~い……誰か、いないのかぁ?」
マグナは持っていた松明に火をともし恐怖と戦いながら誰かと合流すべく歩みを進めていた。
(くそ、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ。メアリーと一緒に曲がり角を曲がったら急に足元が光って、気が付いたら1人になっちまってた……てか、メアリーはどこいったんだよ)
「お~い。メアリー?いないのかぁ?」
「いるわよ」
「ぎょえぇえええ!?」
「うるさいわよバカ!!」
マグナがゆっくりゆっくりと薄暗い通路を進んでいたその時、突然背後からメアリーがマグナの呼びかけに応じたのだ。
急に背後から声が聞こえたことに驚いたマグナは情けない声で悲鳴をあげる。
「びっ、びび、びっくりしたぁ!!なんでお前松明もつけずに歩いてたんだよ!」
「遠くからあんたの明かりを見つけて敵だったらいけないと思って消して近づいたんでしょうが」
「じゃあ背後まで忍び寄ってくる必要ねぇだろ!!」
「うるさいわねあんたもっと静かにしなさいよ!!」
「おめぇもだろ!!でけぇ声が反響していつもよりうるさいんだよ!」
「あんた……」
「なんだよ」
「反響なんて言葉知ってたのね」
「ぶっ飛ばすぞ!!」
背後から急に話しかけられ死ぬほど驚いたのは事実だが、先程まで1人で心細かったマグナは目に見えて元気になっていた。
そうしていつもと同じように激しい言い合いをしていた2人だったのだが、その時メアリーが何か不審な音が近づいてきていたことに気が付いたのだった。
「ねえマグナ。何か聞こえない?」
「あ!?お前はスキルで耳がいいんだから俺に聞こえるわけないだろ」
「いや、そんな小さな音じゃなくて。変なガシャガシャした音と、女の人の声みたいなの聞こえない?」
「ん?なになに?」
ガシャ……ギギ……
「……サマ……ゴ……シュジ……」
「おお、確かに何か聞こえるな」
メアリーが気づいた不審な音に、マグナも耳を澄ませ確かに通路の奥から聞こえてくることに気が付いたのだ。
その音は暗闇の向こうから聞こえてきており、その音はだんだんと大きくなっていく。
「お、おい……これまずいんじゃないか?」
「ええ、そうね。私も同じ感想だわ」
ガチャ……ガシャガシャ……
「ゴシュ……ゴシュジ……サマ……」
「「ひぃいい!?」」
「ゴシュジンサマ ドコデスカ? オカエリナサ オカエ リリリリリリリリリ」
「「ひゃあああああああ!!」」
闇の奥から現れたのは壊れかけの機械のような音を軋ませながら歩く女性の姿をしたナニかだったのだ。
かつては美しい見た目だったことが所々うかがえるようなソレだったのだが、闇を纏うソレは今ではこの世の不吉の全てを孕んでいる様な不気味さを感じさせるのみだった。
「ゴシュジ ワタシ ハイジョ ハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョ」
「に、ににに、逃げろぉ!!」
「言われなくても逃げるわよ!!」
闇を纏ったソレはマグナ達を発見すると、さらに狂気を増し2人に襲い掛かってきたのだ。
恐怖に我を忘れかけていた2人だったがただならぬ殺意を感じ同時にソレから逃げ出した。
掴まったら間違いなく命はない。
2人は道も分からない状況でとにかく必死に走り続けたのだった。
「はぁ……はぁ……あぶねえ。マジで死にかけた……」
モーリスから逃走することに成功したアレスは暗闇の中で壁に寄りかかりながら座り込んでいた。
先程食らった掌底と火炎魔法の合わせ技が効いていたうえに、強力な重力スキルによりかなりのダメージを負ってしまっていたのだ。
(あいつはたぶん俺たちを探し出して殺すだろう。アリアたちがあいつに見つかる前に俺が何としてでも奴を無力化しなければ……)
アレスは呼吸を整えながらモーリスを上回る策を必死に考えていた。
今の自分のコンディションではまともにやり合えば負ける可能性が高い。
特にほぼノーモーションのモーリスの重力スキルはとても強力であれを封じなければ敗色濃厚だった。
(あのスキルの弱点は何だ?必ず穴はあるはずだ。……、そういえばあいつ……)
「アレスさん!」
「うわちょっ!?アリア!?」
モーリスの重力スキルを打破する策を考えるのに夢中になっていたアレスは、光源魔法を使用していたアリアの接近にも気が付かず驚きの声を上げてしまったのだ。
「すみません!まさか気が付いていないなんて思わなくて!」
「いや、大丈夫。ちょっと考え事をしてたのと……さっきの毒で頭ん中がガンガン痛むだけで」
「だ、大丈夫じゃないじゃないですか!それに怪我もひどいですし、今すぐに回復しますね!」
「……よし、思いついた」
「え、何を思いついたんですか?」
「アリア!あのジジイに一泡吹かせたいんだ!協力してくれ!」
「え、えっと……はい!」
アリアがアレスに回復魔法を施そうと近寄ってきたその時、アレスはアリアの隣に浮いていた光源魔法を見つめ良い策を思いついたのだった。
不敵な笑みを浮かべるアレスはアリアに協力を願い出る。
いきなりのことで事情が分からないアリアは流されるまま首を縦に振ったのだ。
いつもメガネをかけてるキャラがメガネをとったのを「私こっちの方が好みかも」って言ったらその友人はメガネ大好き派だったらしくてかなり怒られてしまった。メガネ過激派怖い……




