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ダンジョン・コア

「おい、どこへ行くつもりだ?」


ステラの竜眼により南東の方角に異変が起きていることを知ったアレス。

その異変の確認に行こうとおもむろに立ち上がると、その様子を見ていたシルヴィアが声をかけた。


「話は聞いていたでしょう?今からその嫌な気配ってやつを調べに行くんですよ」

「あまり自由に動かれては困るな。ここで大人しくしていろ。その異変とやらが貴様に何の関係があるんだ?」


腰から外していた剣を身に着けストレッチをするアレスに、シルヴィアは警戒心をあらわにした。

理由がどうであれレウスの森の周辺で人間を自由にするわけにはいかない。

エルフの血を継ぐジゼルとこの森で暮らすステラの2人の事情によりこの場所で待つことを譲歩していただけであり、やはり根本的にアレスを信用していない様子であった。


「大丈夫だって。その異変が大したものじゃなかったらすぐに戻ってくる」

「その異変を口実にこの森の周辺を調べるつもりじゃないだろうな」

「そんなことしませんって……それなら誰か監視でついてきますか?」

「異変が貴様の仕込みでそうやってエルフを攫う可能性がある」


アレスは人命にかかわるような異変ではまずいと様子を見に行きたかったのだが、シルヴィアの疑いがなかなか晴れない。

アレスが自分たちを貶める可能性をあげアレスが自由に行動することを止めようとする。


「だからそんなこと……まあいいや。それならステラと一緒に行くよ。それならいいだろ?」

「私も行っていいの!?アレスにいにと一緒に行く!」

「待て!それなら今度はステラを……」

「俺が攫う訳がないよな。そもそもステラちゃんをここに連れてきたのは俺だから」

「……っ!だがステラはずいぶん貴様に懐いている。口裏を合わせて何か動くんじゃ……」

「帰ったら何があったか正直にエルフの皆さんに話せるよな?ステラちゃん」

「うん!嘘はついちゃダメだってお母さんと約束したもん!」


アレスはそんなシルヴィアにステラと行動を共にすることで自由行動の許可を得ることにしたのだ。

彼女ならアレスが攫う心配もなく、この森に棲む一員として彼女たちからの信頼もある。


「……。では最後に、なぜ関係もないことに首を突っ込むのだ?」

「愚問ですね。そうじゃなきゃ俺はステラちゃんをここに命がけで連れてきたりしてませんよ」

「……はぁ。わかった。だが事が片付いたら寄り道をせず帰ってくること。この森に関することは些細な情報であっても話さないこと。その2つを誓え」


最後にシルヴィアは何故関係ない事件に首を突っ込むのかと純粋な疑問混じりに問いかけた。

そんな彼女にアレスは当然と言ったような表情で自分がそういう人間だからと答えたのだ。


「ではアレス様、私がお送りします」

「いやいいよ。全員でここを離れるのはまた皆さんに不審がられるだろうし。それに……」

「はいはーい!私がアレスにいにと一緒に飛んでいく!」

「……ほんとに大丈夫なんだよな?」


そうしてステラが感じ取った異変の調査に向かうことにしたアレスは、ここへ来た時のようにその現場に送り届けると言ってきたロイの提案を断った。

それはエルフたちの監視下から全員でいなくなるのはまずいと判断したのが半分。

もう半分はステラが自分を抱えて飛んでいく気満々だったからだった。

不安そうな表情を浮かべるアレスに対し、ステラは自慢げに羽を動かし満面の笑みをみせていた。



シャムザロール内北方のとある森――


……ここへはほんの軽い調査のつもりでやってきたはずだった。

きっかけは商人が騎士団に森の奥が何やら騒がしいと通報してきたこと。

ダンジョンも周囲に存在せず、特に危険な魔物もいないはずの地域ということで比較的楽な任務だったはず……なのに……


「キリキリキリキリ……」

(なんで……なんでこんなことになってんだ!?)


鎧を身に纏い、地面に跪くシャムザロールの若き騎士の男の前に立ちはだかるのは禍々しい光を纏った巨大なムカデ型魔物。

さらに彼の傍には十数名の騎士たちが倒れており、その周囲を他の虫型魔物が取り囲むまさに危機的状況にあったのだ。


(イビルムカデ……こんなに大きい個体は初めてだ……いやそれより、奴が巻き付いてるあの結晶。なんて魔素だ……)


シャムザロールの騎士を全滅させたムカデ型魔物、イビルムカデは紫色の怪しく光る結晶石に、まるで守るかのように巻き付いていた。

事実その結晶石に吸い寄せられるように集まっていた他の虫型魔物たちは警戒音を鳴らすイビルムカデに気圧され近づくことができないでいた。

イビルムカデも騎士たちにこれ以上の追撃を加えることなく時が満ちるのを待ちわびているようだった。


「誰か……動けるやつはいないか?」

「隊……長……」

「申し訳ありません……体が痺れて、這って動くことすら……」

(くそっ。イビルムカデの痺霧吐……通常よりも強力でずっと広範囲だった……俺も膝立ちで耐えるのがやっとだ……)


ここは一般の商人も通るような危険度の小さい森の中。

そのため異変があると通報を受けて駆け付けた若き騎士が率いるこの軍も大した事件ではないと考えこの森にやってきたのだが、そのせいで集まって来ていた虫型魔物の争いに巻き込まれ戦闘不能に陥ってしまったのだ。

イビルムカデが吐き出した麻痺性の毒粉を吸い込んでしまい隊長以外の騎士は立ち上がることすらできず、その隊長自身も剣を握っていられないほど体がしびれてしまった。


「キリリリ!!」

「なん、だ……あいつ、さっきから……」

「俺たちを殺すでもなく、あの石に巻き付いて動かない……」

(いや違う……あいつも、他の魔物もあの石が目的で集まって来てたんだ。そしてあの結晶が放つ異常な魔素……剣ばっか振ってきた馬鹿な俺でもわかる……まさかあれは……)


体が痺れ、この場の勝者と思われるイビルムカデがこの後どんな行動を起こすのか見守ることしかできない騎士たち。

しかし痺霧吐の影響が少なかった彼らの隊長はイビルムカデが巻きついていた結晶が異常な魔素を発生させていることから本能的にあることに気が付いていたのだ。


(新しいダンジョンが誕生しようとしている!)


それは平和だったはずのこの森がこの結晶を核としてダンジョンを形成しようとしているという事実。

ダンジョンとは通常に比べ魔素濃度が高く人体に有害なエリアの総称。

そのダンジョンの発生方法は詳しくは判明していないが、どのダンジョンにもその中心に一際魔素濃度の高い空間が存在することから何らかの理由で魔素が凝縮され周囲に影響を及ぼした場合にダンジョンが誕生するというのが通説であった。


その考えから、今騎士たちの目の前にある異常な魔素を放つ結晶はダンジョン形成の条件を満たしていると言って差し支えない代物であった。

魔物は魔素濃度の濃い場所で発生し、これまた魔素濃度が濃い場所を好む傾向がある。

なのであのイビルムカデが他の魔物を押しのけ結晶石を……ダンジョンの核となる魔石に取り付きダンジョンの主になろうとしていたのだ。


「……早く、国に報告しなければ……新しいダンジョンが、生まれようとしている……なのに、くそ!足が動かない……」

(このままじゃ確実に全員死ぬ……殺される!こんな……こんな何もできないまま死を待つことしかできないなんて……)

「キリリリ!!」

「くそぉおおお!!」

ドォォオオオン!!!

「ッ!?」

「な、なんだ!?」


イビルムカデに見下ろされ、逃げることすら叶わないこの状況に彼はこぶしを握り締める。

しかしそんな絶体絶命の状況の中、突如上空から超速で飛来した物体が勢いよく地面に突き刺さったのだ。

轟音と共に土煙をあげるその物体に魔物たちも意識を向ける。


「何が降って来たんだ……」

「まさか、新たな魔物か!?」

「おぉ~……いでぇ……」

「大丈夫アレスにいに!?」

「だからゆっくり飛べって言ったのに……控えめに言って死にかけたぞ……」

「おい……まさか人か……?」


土煙が森の風に吹かれて散り始め、そこにいた誰もが飛来した謎の物体の正体に注目を集める。

そこにいたのは落下の衝撃で地面に倒れる仮面の男と、その男を心配そうに見つめる竜の羽と尻尾を持った女。


「はぁ……はぁ……まじでいてぇ……というかステラちゃんは無事なのか?」

「うん。私は鱗が頑丈だから平気」

「……ならいいわ。んでもって来た甲斐はあったみたいだな。凄い魔素濃度に魔物の数だ。あの距離からよく視えたな。凄いぞステラちゃん」

「えへへ」

「なんだあいつら。だが今は……おい君たち!ここから早く離れなさい!こいつは危険だ!どうか国にこの危機を……」

「……ふっ」

シュッ……


急に空から落ちてきた2人の正体など全くつかめない騎士たち。

しかし新たなダンジョンが出現したことを国に知らせるべく隊長はすぐにアレスにここから離れるように叫んだ……。

しかしその瞬間、仮面の下でニヤリと口角を上げたアレスは一瞬のうちに騎士たちの視界から消えてしまったのだ。


「え……消え……」

「我が刃、地を裂け……覇刃羅義!!」


ステラを除いた誰もがアレスを完全に見失ってしまう。

アレスが姿を消したことに騎士団の隊長は何が起きたのか理解できずに大きく目を見開く……その時、騎士たちの背後でアレスの声が響き渡ったのだ。

そして騎士たちが振り返るよりも早く、鈍い衝撃が地の底から突き上げイビルムカデの体表を紫光がはじけ飛ぶ。


「ギィィィィ……ッ!」

「え!?」

「なんだぁ!?」


近くに居た騎士たちだけじゃない。

イビルムカデ本人ですらアレスに斬られたことに全く気付けず、巻きついていた結晶石ごと何層にも重なる斬撃で斬り刻まれてしまったのだ。


「お前は……一体何者だ……」

「あんたらシャムザロールの騎士団だろう?俺たちについていろいろ話されると厄介なんで、このまま他の虫共に口封じして貰うのが1番なんだが……」

「ッ!?」

「……っ。つまり……余計な詮索はせず上にも報告するなと?」

「話しが早くて助かるね」

「……、……イビルムカデの件自体は隠さず報告する。だが君たちに関することは伏せると約束しよう」

「いいね。じゃあ残りも片付けよう」


ステラの姿を見られてしまっているのでこのことを報告されると都合が悪い。

そう考えたアレスは自分たちのことは誰にも話さないと隊長の男に約束させたのだ。

部下を犠牲にはできないと隊長はアレスの要求をすぐに受け入れる。

それを聞いたアレスは周囲に残っていた魔物たちを殲滅するべく再び剣を構えたのだった。

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