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黒祟の影

「悪いソシア、待たせちまった。それじゃあ行こうか」


アリアの元に向かう前に一度部屋に戻りシャワーと着替えを済ませてきたアレスは、再び寮のエントランスホールで待っていたソシアの元に戻ってきた。

だがそこにはソシアだけでなくヴィオラの姿もあったのだ。


「あれ、ヴィオラ様。本当に一緒に来るんですか?」

「なによ。私が居たら迷惑かしら?」

「いや、本気だとは思ってなかったからちょっと意外だなって思っただけですよ。んじゃあ行こうか」

(アレス君とヴィオラ様……いつからこんなに仲良くなったんだろう?この前まで凄く敵視されてるって聞いたけど。それにさっきの主人と奴隷っていうのも……はッ!?まさか……)

『おい、さっきの態度はなんだ?』

『うっ、ごめんなさい。みんなにこんな関係を知られるわけには……』

『俺はバレたって構わないんだぜ?とにかく、主人に逆らった奴隷を躾けてやらないとな』

『ああっ!お許しくださいご主人様~♡』

(主人と奴隷って2人はこういう関係なんじゃ///!!……いや、それはないか)


ソシアは以前教室にやって来た時とあまりに違いすぎる彼女の雰囲気と先程ヴィオラが口にした主人と奴隷という言葉から2人が本当にそのような関係ではないかと想像してみた。

だがヴィオラのプライドの高さやアレスがそのようなことをするような人物でないこと。

何よりそもそもこれまでの2人のやり取りがとても主人と奴隷のようには見えないことからソシアはすぐにそんな妄想をやめたのだった。


こうして3人は改めてティーガーデンにいるというアリアの元に向かうことにしたのだ。


「そうそう、言い忘れていたけどレオンハルト副会長から伝言を預かっていましたわ。あなたに会ったら伝えて欲しいと」

「レオンハルト様からですか?」

「先日は迷惑をかけてすまなかった。私は本来君に助けてもらう資格すらなかった。だが助けられた以上己を見つめ直し真面目に生徒会副会長の職務に取り組むことにするよ、とのことです」

「……えっと、それどういう意味です?」

「私に聞かれても困ります。つまり今までは生徒会副会長の仕事を真面目にこなしていなかったのですかと問い詰めたらはぐらかされてしまいましたわ」

「ふーん……まあでも、感謝されてるっぽいからまあ良しとするか」


その道中、アレスはヴィオラが預かっていたレオンハルトの伝言を聞くことになった。

アレスたちは知らないが、レオンハルトは思いのほか野心家でアレスを利用しヴィオラの生徒会長の座を脅かそうとしていた。

だがその策が巡り巡って自分の命を脅かすこととなり、それをアレスに助けられたことで生徒会副会長として真面目に働いて行こうと考え直していたのだ。


「みて!ヴィオラ様が平民なんかと歩いてるわ!」

「しかもあの男は不正をしてヴィオラ様から学園1位の地位を奪った奴じゃないの!」


そんなアレスには伝わらないレオンハルトの伝言を聞いたりしていると、アレスはヴィオラと行動を共にしていたおかげで他の生徒達からの注目を集めてしまうことになったのだ。

それはヴィオラを妄信する女子生徒たちのもの。

ヴィオラが以前アレスの不正を疑った話が広まりアレスの評判を貶めていたのだ。


「すごいねぇ。ちょっと外を歩くだけでこれだけお前のファンがいるよ。おかげで目立っちまって仕方ねえ」

「私は認めてないのに勝手にファンクラブが出来上がってしまうほどですからね。まあ悪い気はしてなかったけれど……今は少々不愉快ね」

「っ!おいヴィオラ」

「あなた達、わざわざ聞こえるように話してるならいい性格してるわね」

「ヴィオラ様!?」


わざわざ聞こえるような距離と声の大きさで話していた彼女たちに、ヴィオラはぴたりと歩みを止め張り詰めた声でそう言い放った。

ヴィオラのことを慕う彼女たちは突然の出来事に驚きを隠せない。


「元はといえば私が言い始めたことだから偉そうなことは言えないわ。でもねあなた達、彼は私たちが考えていたような下劣で卑しい人間ではないわ」

「ヴィオラ様!?な、なぜそんな平民の男を庇うのです!?」

「そうですわ!そうでなければヴィオラ様がそんな平民に負けるわけ……」

「私に原因があるから一度は許すわ。でもそれ以上彼を悪く言うようなら私が容赦しないわ」

「ッ!?」


ここまでアレスが不正を働いたという噂が広まってしまったのは他でもないヴィオラがそう言ったから。

自身にも非があるため初めは強く注意しなかったのだがそれでも彼女たちがアレスへの悪口をやめようとしなかったので、ヴィオラは冷たい眼つきで彼女たちを睨みつけたのだ。

憧れの人にそんな圧をかけられてしまった彼女たちは何も言い返せずにその場を立ち去る。


「なんだお前、わざわざ俺の悪評を否定してくれるなんて優しいじゃねえか。ありがとよ」

「か、勘違いしないでくださる!?先ほども言いましたがこれはもともと私が蒔いた種。これを見過ごすのは私のプライドが許さなかったまでですわ!」


アレスは自分の悪口を咎めてくれたヴィオラに感謝を述べたのだが、ヴィオラは早口で言い訳を述べながら視線を逸らした。


(あれ……やっぱりヴィオラ様、なんだかアレス君と距離が近いような……)


そんなヴィオラの様子を見てソシアはやはりアレスとの距離が以前より確実に縮まっていることに嫉妬の感情を抱いたのだ。

それはソシアの心に小さな影を落とす。


「……っ!ソシアお前……」

「え!?どうしたのアレス君?」

「お前……嫌な気配が濃くなってないか?」


だがソシアが小さな嫉妬心を抱いたその時、アレスは先程から感じていたソシアの中の小さな邪悪な気配がわずかに大きくなったことに気付いたのだ。


「本当なのアレスさん。私はまだ何も感じないわよ」

「まあほんとに僅かな気配だからな。でもなんで急に強くなったのか……ちょっと急いだほうが良いかもな」

(もしかして……さっき私が嫉妬したから?負の感情に反応してるの……?)


ソシアの中に潜んでいた邪気は、ソシアの嫉妬の感情に反応してその気配を大きくさせたのだ。

アレスにはその真相は分からなかったが、時間経過で強まっているのかもしれないと考えアリアの元に急ぐことを決める。


「そうなのよマグナの奴ったらほんとに……」

「ふふっ、相変わらずメアリー様はマグナ様と仲が良さそうで微笑ましいのです」

「はぁ!?全ッ然仲良くなんかないんだけど!?」

「まあまあメアリーさん……って、あれはアレスさんとソシアさんに……」

「生徒会長様なのですわ!」

「おお、いたいた。アリア!」

「メアリーさんとキャロルさんも一緒だ」


そうして少し立ち止まることもあったが、アレスたちは改めてティーガーデンへと向かいお茶会を楽しむアリア達を発見したのだ。

アリアと一緒に居たのは同じクラスのメアリーとキャロル。

3人はアレスたちと一緒に居たヴィオラの姿に驚きを隠せない様子だった。


「ヴ、ヴィオラ様!私たちに何か御用ですか!?」

「そんなに怯えなくてもいいわよ。彼女に関することで少し気になって付き添ってるだけだから」

「彼女……ソシアのことですか?」

「ソシア様が一体どうされたのですか?」

「すまんアリア。どうやらソシアの中に邪気かなんかが潜んでるっぽい。お前の光魔法で祓ってくれないか?」

「ソシアさんが!?ですが私はあまりそう言ったお祓いは得意ではなく……」

「まだ小さな火種みたいなもんだ。光魔法を浴びせればそれだけで消えるだろう」

「わ、わかりました」


アレスからソシアの邪気を払うようにお願いされたアリアは少し戸惑いながらも早速その頼みを引き受ける。

そうしてアレスたちが見守る中、アリアは聖なる宝石の埋め込まれた杖を持ち出しソシアのうちに潜む邪気の浄化を開始した。


「天を照らす聖なる光よ。穢れしものを浄め、邪悪を退け、我らに安寧をもたらしたまえ。いまここに輝きを顕現せよ――サンクチュアリ!」


杖に埋め込まれた宝石に手をかざし、アリアはソシアの周囲に光の領域を生成する。


(っ!あたたかい……)


それはまるで天から差し込む光のスポットライトのようにソシアを優しく包み込み、その空間を聖なる魔力で満たしていく。


「……できました。これでその邪気が祓えたかどうかは分かりませんが。ソシアさん、どうですか?」

「ほんとだ!体が軽い……さっきまで感じてただるさが無くなったよ!」

「ああ。もうさっきまでの嫌な気配は感じない。ありがとうアリア、助かったよ」

「私たちは何のことだか一切分からないのですが……」

「ちょっとアレス!どういうことか説明しなさいよ!」

「まあ俺たちもよくわかってないんだがな」


アリアの光魔法のおかげでまだ小さかったソシアの中の邪気は簡単に祓うことが出来たのだった。

アリア自信は手ごたえを感じられなかったのだが、ソシアは今朝から感じていた体のだるさが無くなったと喜びをあらわにする。

それをみていたメアリーとキャロルは何が何だかわからずアレスに説明を求めたのだった。


「……ということだ。だからどこでソシアがその邪気を貰ってきたのかはわかんねえんだ」

「そういうことだったのですね……」

「だがもしこれがハズヴァルド学園の生徒を狙った何者かの犯行なら見過ごすことはできないわ」

「どうだろうか。まだ何とも言えないがソシアを直接狙ったというよりは邪気を纏った人や物の傍に近寄った結果その切れ端を貰っちまったっていう方が正しそうだな」

(邪気を纏った物や人?それってやっぱりあの黒祟の壺なんじゃ……ッ!!フリーダ様が危ない!?)

「アレス君!私心当たりがあって!」

「本当かソシア!!」

「うん!昨日コクーン・オブ・ブレインでフリーダ様が……ああ!これ行っちゃダメかなぁ!?」


アレスの話を聞きながらソシアは自分が邪気を受け取るきっかけになったことについて思考を巡らせる。

だがやはり考えられるのは昨日、コクーン・オブ・ブレインにてフリーダと共に見た黒祟の壺しか思い浮かばなかった。

厳重なセキュリティで万全を期していたと言われていたが、それが漏れ出していたんだとソシアは考える。

それなら直接その箱を持ったフリーダは自分よりも危険な状態にあるのではないかとソシアはそれをアレスに打ち明けようとしたのだが、コクーン・オブ・ブレインの情報はほとんど極秘情報でありソシアはアレスであってもそれを話すことを躊躇ったのだ。


「コクーン・オブ・ブレインか。確かお前昨日行ってたらしいもんな。話せないことなのか?」

「うん。でもそれが正しいとするとフリーダ様が危ないの!」

「フリーダ様……コクーン・オブ・ブレインの所長でマギステル家のあの研究者ね?」

「緊急か?」

「わからない……けど、このことをフリーダ様に話に行きたい!」

「わかった。俺もついて行く。今すぐ行こう」

「待ちなさい。あそこはアポなしで行ったって簡単に入れる場所じゃないわ」


アレスはソシアがコクーン・オブ・ブレインの情報を話すことができないことを察し、詳しく事情は聞かずコクーン・オブ・ブレインに向かうことにしたのだ。

だがそれを約束を取り付けないで行っても無駄だとヴィオラが制止する。


「アポ……俺じゃ信じてもらえないかもだし、ソシアなら大丈夫か?」

「どうだろう……私もあの壺の話はあそこの人だからって無暗にすることはできないし……」

「……っ!」


どうすれば可能な限り早くフリーダと話が出来るか考えている最中、ソシアはうっかり壺という単語を口に出してしまった。

そしてその単語にメアリーが密かに反応を示す。

会話に夢中なアレスはそのことに気付く様子はなかった。


「バルシュテイン家の人間の私なら取り合ってもらえると思うわ。きっとアポも取り付けられると思う」

「本当か!?それじゃあヴィオラ様からコクーン・オブ・ブレインに連絡をして貰うことは可能か?」

「……なによその言い方。普通に連絡してくれっていえばいいじゃないの」

「それだとお前が断れないだろう?俺はお前がやりたくないと思うことはさせたくないからな」

「っ!」

(なんで連絡してくれって言い方だとヴィオラ様が断れないんだろう?)

(全然わからないのですわ……)

(というかアレスさん、いつの間にそれほど生徒会長様と仲良くなったんでしょう……)


どうにかしてフリーダに連絡を取りたかったアレスは、そこでバルシュテイン家という立場のヴィオラに連絡を頼めないか聞いてみたのだ。

その言い方にヴィオラは普通に頼めばいいとアレスに返す。

だがそれにアレスは奴隷の刻印が刻まれたヴィオラは自分の命令は断れないからヴィオラの意志を蔑ろにするような頼み方はできないと答えたのだ。


(この男は……奴隷の刻印を悪用するどころか私のことを慮って……)

「別に必要な頼みであれば問題ありませんのに。わかりましたわ。コクーン・オブ・ブレインには私の方から連絡しますのであなた達はゆっくり出発していなさい」

「ありがとうヴィオラ様!じゃあソシア、早速行くぞ!」

「え?うん!」

「ちょっとあなた!そんなに急いでも私が連絡しないとは入れないですわよ!?」


こうしてアレスはアポを取るのはヴィオラに任せ、自分はソシアの付き添いでコクーン・オブ・ブレインへ向かうことにしたのだ。

フリーダと知り合いなのはソシアだが、僅かな邪気を感じ取れるのは自分だけ。

2人は邪気を受けてしまっているであろうフリーダのことを心配し魔導学術総合研究所へ急いだのだった。

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