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平民嫌いの戦乙女

「アレス!昨日訓練場に来てたならなんで言ってくれなかったんだ!?」


それはアレスがオルティナに呼び出されて授業を休んだ日の翌日。

その日は通常通り学園に向かっていたアレスに不満そうな様子のティナが詰め寄って来た。


「おっと!なんだよティナ、朝からいきなり」

「君が誘ってくれなかったせいで退屈だったんだぞ。ソシアもジョージも図書室に用があると言っていたから」

「お前俺ら以外に友達いねえのか?」

「いるわけないだろう。私のこの立場のせいで相変わらず皆の私への態度はへりくだるか内心軽蔑するかのどちらかだ。そうでなくとも君たちと同じように心から友人になりたいと思えるような奴はそうそういない」

「ティナ……」

「おっと、同情は要らないぞ。別にこの生活にも慣れ切ってしまったし、アレスたちが傍に居てくれるだけで私はそれ以上は望まない」

「いや、同情なんかじゃなくてさ……前から思ってたけど、お前俺らへの矢印がでかすぎねえか?」

「当然だ。君たちは私の命の恩人で、一緒に居て心から楽しいと思える友だからな。逆に私は君たちにとって大したことのない存在なのか?」

「んなわけあるか。だがそんな真正面から言われたら照れるだろうが。今度からちゃんと誘うようにするから勘弁してくれ」


恥ずかしげもなくアレスたちへの好意を口にするティナに、アレスは戸惑いながらもその表情に喜びを滲ませていた。

寮を出てすぐのところで合流していた2人はそのまま並んで歩きながら校舎を目指す。


「へぇ、ソシアが君に徒手空拳をね」

「技術はともかく基本的な体術は相当なもんだよ。あれも幼い頃から山を飛び回ってたっていう恩恵かね」

「それなら私にも教えてくれないか?引きだしは多くて困らないだろ?」

「そりゃそうだが……付け刃は逆に迷いを生むぞ。それを分かってんなら教えてやっても……ん?」

「おはよう、アレスさん」


そうして2人が学園の正門にやってきたその時、アレスはそこで自身をを待つある人物の姿を発見したのだ。

それは昨日自分に絡んできた生徒会長のヴィオラ。

彼女は非常に不機嫌そうな表情をしながら強めの口調でアレスに話しかけた。


「あれは生徒会長の……」

「ティナ様、お話し中に失礼しました。さすがは御三家の方、そのような平民にも分け隔てなく接しているようで」

「貴様……言いたいことがあるならはっきりと言ったらどうだ?」


年齢でも学園での役職の差でもヴィオラの方がティナよりも上であるが、それ以上に貴族社会の上下関係が尊重されるためヴィオラはティナを敬うような言葉をかける。

しかしその言葉には明らかに棘が含まれており、アレスを平民だと見下す意味と同時にそんな身分の低い人間であるアレスと関わっているティナを貶すような印象をその言葉から感じ取ることが出来た。


「いいえ?ただの挨拶ですわ。私が用がありますのはそっちの、無礼な平民の男の方ですの」

「おい……私の友人を悪く言うなよ。無礼なのは貴様の方だ」

「落ち着けティナ、俺は別に気にしてないって」

(あーあ。やっぱ昨日のことでだいぶ怒らせちゃったんだな)

「君が気にしなくても私が許せないんだ。君だって私のことを悪く言われてスルー出来ないだろう?」

「まあ、それはそうだけど……」

「用件だけ手早く済ませたいのですけど、よろしいかしら?」

「ああ、そうですね。今日は何故ここで俺を待っていたんです?」


昨日アレスにプライドを傷つけられたことでアレスへの敵意が強まっているヴィオラ。

そしてそんなアレスと親しげにしていたティナにもその敵意が向かい2人の間に険悪な雰囲気が漂っていたことに気付いたアレスは早めにこの場を離れるべくヴィオラに自分を待っていた用件を尋ねることにした。


「ええ、あなたにはもっとじっくりとお話をしなければいけないと思いまして。今日の放課後、14時に生徒会室にお越し願えますか?」

(どうしようか……正直断りたいがこれ以上事態が悪化しないうちにあいつに従っておいたほうが良いか……)

「わかりました。時間通りに生徒会室に伺わせていただきます」

「素直に従っていただき感謝します。それでは、これ以上ここで話す必要もないので失礼しますね。ティナ様も、お先に失礼します」

「……アレス。ヴィオラに絡まれて面倒なら私が手を貸すぞ?」

「いや、大丈夫だ。お前に迷惑はかけられねえ」

「君のためなら迷惑だなんて……」

「もとはと言えば俺が昨日対応を誤ったのがいけないんだしな。今度こそ決闘でも何でもして全部終わらせるよ」


ヴィオラが立ち去り、ティナはアレスが生徒会室に呼び出されたことについて助け舟を出そうと持ち掛けた。

だがアレスはそれを丁寧に断る。

ティナを頼らなかった理由はもともと自分の問題は可能な限り自分1人で片づけたいというアレスの性格から来るものでもあったが、それ以上にこの件でティナを頼るとフォルワイル家とバルシュテイン家の関係に悪影響を与えてしまうかもしれないとアレスが考えたからだった。


「そうか……君がそう言うならわかった。だが気を付けてくれ、ヴィオラはかなりの平民嫌いだと聞く。恐らく君にも平民であるというだけで相当強く当たってくるだろう」

「まあ、そんな感じはしてた。でも貴族にはそういう奴も少なくないし平気だよ」

「いや、彼女に関しては少し事情が違って……」

「……?」

「私も詳しいことは知らないが、彼女は幼い頃に、平民たちの暴動で姉を失ってしまっているんだ」

「なんだって!?」


1人で生徒会室に行くことを決めたアレスにティナは最後に1つ忠告をする。

それはヴィオラが幼い頃に平民に姉を殺されており、それがきっかけで平民を強く憎んでいるということ。

唯一の姉を平民に殺され、平民を憎むこととなったヴィオラ。

彼女が自分の学年1位の成績に難癖をつけてくるのはプライドの高さだけが原因でないと、アレスは少し慎重になる必要があると考えたのだった。

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