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屈辱

「アレス。私と決闘しないさい。あなたが負けた時は不正を認め、この学園を去ってもらいます」


生徒会長のヴィオラはハズヴァルド学園の正門通りでアレスに向けてそう言い放った。

前期に学園1位の成績を収めたアレス。

しかし平民であるアレスがこの学園で1番の成績を残せるわけがないと、ヴィオラはアレスの不正を疑っていたのだ。


「ヴィ、ヴィオラ様が平民相手に決闘だなんて!!」

「ということはつまり、ヴィオラ様の戦乙女をまたこの目で見られるのね!?」

「ヴィオラ様!そんな平民なんて華麗にやっつけちゃってくださいましー!!」


ヴィオラがアレスに決闘を持ちかけると、途端に周囲の生徒たちが興奮を隠し切れない様子で騒ぎ始めた。

生徒会長に選ばれるだけの実力はもちろん、その美貌により学園でもファンが多いヴィオラ。

特に彼女のファンは女性の割合が多く、アレスを真っ直ぐ指差し決闘を申し込むヴィオラの凛々しい姿に更なる盛り上がりを見せていた。


「そんな……ヴィオラ様が直接お手を下されるなんて……はん!あんた、もう完全に終わりよ!!」

「では決闘のルールと日時を決めましょうか。先ほどは対等な条件と言いましたがそれでは勝負にすらならないでしょうから少しくらいはあなたにハンデを上げても……」

「いや、やらないです」

「……え?」

「……え?」

「……え?」


ヴィオラの戦いっぷりが見られると盛り上がる女子生徒達。

そんな空気の中ヴィオラは決闘の条件を決めようとしたのだが、なんとその時アレスが何食わぬ顔でその決闘を拒否したのだ。


「なッ……あなた、今なんて……」

「だから、決闘受けないです。ということで俺は飯がまだなんで……」

「ま、待ちなさい!!私の決闘の申し出を断れるとでも!?」

「断れるでしょ。だってあれって双方の同意がないと成立しない決まりじゃないですか」


「うそ……ですわよね!?」

「ヴィオラ様の決闘の申し入れを……断った?」

「断られない前提でヴィオラ様があんなに格好つけていたのに……?」


当然決闘を受けてもらえると考えていたヴィオラはアレスに決闘を断られショックを隠し切れない様子だった。

また周囲の生徒達も同じように動揺が広がっていく。


「そ……そんなことが許されるわけがありませんわ!!この決闘を断れば不正の追及をされないとでも!?」

「そもそも生徒会に生徒1人1人の成績に口を出す権利はないはずでしょう?」

「そんなに不正を働いて手に入れた1位の称号が嬉しいんですか!?」

「不正じゃないし、成績トップ10人は学費免除なんでしょう?俺には縁がない話だと思ってたからマジでありがてぇ~」

「~~~ッ!!止まりなさい!!」

「なんですか?俺もう腹ペコなんですけど」


必死な様子のヴィオラに対し、アレスは平然とした様子でその場を立ち去ろうとする。

だがヴィオラは諦めようとしない。

歩き出したアレスの正面に立ちなんとしてでも決闘を受けさせようとしたのだ。


「こ、怖いんですか!?決闘に負けて学園を追い出されるのが!!」

「俺に旨味がないんですよ。決闘に勝ったら何が得られるんですか?」

「あなた、私に勝つつもりですか?随分と思いあがっているようですが……もしあなたが私に勝てば正式に学園1位の称号を手にできるんですよ?」

「別に俺は名声なんて要らないんですよ。あんたらがどれだけ騒ごうが学費免除の恩恵は受けられるんですし」

「なっ……なら!!絶対にありえませんが、私があなたに負けた時は生徒会長の座を退きますわ!!学園2位の称号も捨てる!!」

「だからそれに何のメリットがあるんですか。俺は貴方が生徒会長であることに何の不満もない訳ですし」

「くッ……!!」


怠そうな表情でヴィオラを右へ左へ避けようとするアレスに、ヴィオラは焦りの表情を浮かべながら左右に動きブロックする。

何とかしてアレスに決闘を受けさせたい彼女だが、アレスはその決闘に一切メリットがないと微塵もやる気をみせなかった。


「メリット……メリット……いいですわ!!あなたが私に勝てたならいくらでもお金を支払いますわ!!それとも貴族の地位がお望みかしら!?私ならそれすらも可能ですわ!!」

「俺は今の生活で満たされてるんですよ」

「それなら……それなら……分かったわ!!だったらあなたが勝った時……わ、私は……あなたの下部になってもいいわ!!」

「ヴィオラ様!?」

「そんな!!」


どうしてもアレスが自分の上に立つことが許せないヴィオラは、アレスが決闘を受けるメリットを作るためについに最後の手段を出したのだ。

それはアレスが勝った暁には自分がアレスの下部になるというもの。

顔を赤ら呼吸を乱しながらそう宣言するヴィオラに、周囲の女子生徒たちの間に今まで以上に大きなざわめきが起きた。


「下部!?あ、あの高貴なヴィオラ様が平民なんかの!?」

「あ、あんなにお美しいヴィオラ様が平民の男の下部だなんて……」

「きっ、きっととんでもない命令をされてしまうに違いありませんわ///!!」

「で、でも……そんなヴィオラ様もちょっと見てみたい……///」

(くッ……!あり得ないことだとはいえこんな屈辱的な条件を言わされて……でも勝てば関係ない……勝てば……きっとこの屈辱を上書きできる!)

「こ、これなら文句はないはず!この私を好きにできるのよ!!分かったら大人しく決闘を受け……」

「いえ、全然興味ないので」

「……は?」

「もうこれ以上はないでしょう?それじゃあ俺は失礼しますね」


しつこく纏わりつかれたことに嫌気がさしてきていたアレスは、丁重に断る手段を取らず強引に話を終わらせヴィオラの前から立ち去ったのだ。


「なによあの男!!ヴィオラ様を下部にできるなんてこれ以上の条件あるわけないじゃない!!」

「信じられないわ!!きっと無理してカッコつけようとしたんだわ!!」


ヴィオラが下部になるという条件にすら興味がないと言ったアレスに女子生徒たちは怒りの声を上げる。


「くっ……くううぅぅ……っ!!!な、なんなの……なんなのあの男っ……!?」

(私が……あんな条件まで出したのに……っ!!許さない……絶対に許さないわ!!)


バルシュテイン家の人間として、ハズヴァルド学園の生徒会長としての誇りを持つヴィオラ。

そんな彼女が決闘に負けた時は平民であるアレスの下部になるという条件まで持ち出してきたのだ。

それを断られた怒りと屈辱は計り知れない。

アレスが立ち去った後、その場に立ち尽くしていたヴィオラは拳を強く握りしめ怒りをあらわにしながらぷるぷると震えていた。

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