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兄妹の因縁

ミルエスタ騎士団本部での用事を終えて学園に戻ってきたアレスは、学園の正門通りで偶然妹のマリーシャと遭遇してしまっていた。

少し驚きつつも表情を一切変えないアレスに対して、マリーシャは友人と話していた時の笑顔から一瞬で恨みのこもった目をアレスに向けた。


(うーん、やっぱ嫌われてるよな。ここは何も言わずに通り過ぎるのが吉……)

「おいてめぇ……なに私を無視してんだよ」

(だめかぁ……こりゃ面倒なことになりそうだ)

「声をかけたらかけたで話しかけるなって怒るんだろ?まったく理不尽極まりないな」


アレスは厄介ごとを避けようとマリーシャに気付かないふりをして通り過ぎようとしたのだが、そんなアレスにマリーシャは怒りのこもった声で呼び止める。

赤の他人であればこのまま無視しても良いかと考えたアレスであったが、妹であるマリーシャであればそうはいかないと渋々その問いかけに応じた。


「ねえ、マリーシャさん……?」

「悪いんだけど、あんたら先に行っててくんない?」

「わ、わかりましたわ……」

「せっかく友達と楽しく喋ってたとこだったのに不快な気持ちにさせやがって……でもいいわ。ちょうど私もあんたに用があったし」

「相変わらずだけど酷い言葉遣いだな。お兄ちゃん悲しいぞ」

「黙れ!!てめぇはもう私の兄なんじゃない!!」

「はいはい、わかってますよ。で、そんな赤の他人の俺に何の用ですか?」

「はッ!!普段なら関わりたくもないあんたに用事なんて1つしかないに決まってるだろ。とぼけるつもりか?」


遠慮なくアレスと会話をするためマリーシャは共に行動をしていた友人2人を先に行かせる。

そうして何やらトラブルが起きそうな予感を感じて周囲に集まってきた生徒たちの注目を集めながら、マリーシャはアレスに話を始めた。


「んだよ。とぼけるって言われても、何のことだかさっぱりわからんぞ」

「ちッ。いちいちムカつく奴だ……前期の成績のことだよ!!」

「成績?」

「剣聖のスキルを失ったお前がヴィオラ様を差し置いて学園1位!?ふざけるな!!一体どんな卑怯な手を使いやがったんだ!!」

「成績……学園1位?俺がか?」

「ああ……ああ、ああ、ああ……本当にイライラする。ほんとは分かってるくせにそうやって私を煽ってんだろ……」


マリーシャの用件はアレスが前期の成績で学園1位を取ったことに対するもの。

彼女はアレスが何か不正を働いて1位を取ったのだとアレスを疑っていた。

しかしアレスは不正うんぬんよりもまず自身が学園1位の成績を取ったことを知らない。

そんなアレスの態度がマリーシャを余計に苛立たせる。


(学園1位って……入学前に学園全体で順位が発表されるってチラッと聞いたことあったけど、まさか俺が1位だったのか?そんなこと初耳だが……そういえば前期の最後と言えばディーネの一件でずっとそれどころじゃなかったんだったな。レハート先生は俺のことを気遣ってあえて成績の話をしなかった……なんてことはねぇな。あの人は普通に忘れてただけだ)


自身の担当するクラスの生徒がTOP10に入るような成績を収めたなら当然、担任の教師がその生徒に直接その事実を伝えるもの。

にもかかわらず自分はレハート先生から何も聞かされていなかった。

それに対しアレスは一瞬それがディーネの死を受けて落ち込んでいた自分がそんな話を聞ける状態じゃないことを気遣ってあえて話さなかったのかと考えたのだが、すぐにレハートの性格から単純に話すことを忘れ得いただけだと思い至った。


「すまん。前期の終わりはそれどころじゃなくて普通に知らなかったんだ。にしても、俺が学園1位ね。1年……しかも平民クラスの俺が取れるなんて思ってもなかったよ」

「そうだ!!お前が学園1位なんてとれるわけがない!!一体どんな不正をしたんだ!?」

「だから、そもそも知らなかったって言ってんだろ。それに採点するのは学園の先生方。俺の不正を疑うなら先生方がそれを見抜けない無能って話になるが、お前はそう言いたいのか?」

「黙れ!!私は先生じゃなくてお前を疑ってんだ!!」

「俺がそんなことする訳ないだろ。それにさっきからお前お前って……お兄ちゃん悲しいぞ。小さい頃は俺の後をついて回ってお兄さま大好きって……」

「おい待て……それ以上言ったらお前、ほんとに殺すぞ?」

「すまん。流石に今のは俺が悪かった」


アレスにとんでもない過去を暴露されそうになったマリーシャは今までにない程の鬼気迫る表情で、震えながらそれを制止する。

そのマリーシャの圧に流石のアレスもすぐに非を認めそれ以上は口を噤んだ。


「気を取り直して……だから本当に何もしてないって。それになんで俺の成績をお前が咎めに来るんだ?」

「当然だ!!本来なら学園1位の名誉はあのヴィオラ様が得るものだったんだ!!それをお前が……お前なんかが!!ヴィオラ様がお前に負けるわけないだろ!!」

「そうですわそうですわ!!」

「私たちのヴィオラ様があなたなんかに負けるはずがありませんわ!!」

(うおっ……知らん間にもの凄いアウェーになってる。ヴィオラ様ってのはものすごい人気なんだな)

「まあ、採点基準も明かされてないんだしそう熱くならなくてもいいだろ。それよりマリーシャ、お前は一体何位だったんだ?」

「ッ!!」


マリーシャがアレスの成績に噛みついてきていたのは単に彼女がアレスのことを嫌っているというだけではなく、生徒会長のヴィオラを慕うが故の行動。

周囲の生徒たちがそうであったように、この学園では生徒会長であるヴィオラはかなり人気が高い。

それは心酔し忠誠を誓う生徒すらいるレベルの話であり、レハートがアレスがヴィオラを差し置いて学園1位を取ったことを厄介だと感じたのはそんな意味も含まれていた。


そうして完全にアウェー状態となってしまっていたアレスは、話題を変えようとマリーシャの成績について尋ねた。

それはアレスに一切の悪意があるものではない。

彼は入学直前になるまで剣聖のスキルが戻っておらず、ハズヴァルド学園のこの成績の制度については自身に関係がないと詳しく調べていなかった。

だから彼は順位が発表されるのが上位10人だけであることを知らなかった。

しかしそれはマリーシャのプライドを傷つけることに繋がってしまう。

自分の順位は発表すらされない……発表された自分と比べて煽っていると受け取ったマリーシャはさらに怒りを燃やす結果となってしまった。


「やっぱり気が変わった……お前はここで殺す!!」

「おいちょっと待て!!またこのパターンだなんて……」


アレスへの怒りが限界に達したマリーシャは以前のように怒りに身を任せ魔法でアレスを攻撃しようとしたのだ。

それを見たアレスはまた厄介なことになってしまったと焦りの表情を見せる。


「やめなさいマリーシャ・ロズワルド!!」

「ッ!!」

「あれは……」


しかしマリーシャが入学当時のようにアレスに向けて爆裂魔法を放とうとしたその時、人混みの中からそれを鋭く制止する声が響き渡ったのだ。

空気を引き裂くように凛と響いたその声にマリーシャは魔法の発動をやめ、怒りに満ちていたその表情を一気に緩ませた。


「指定された区域以外での戦闘行為は一切認められていませんわよ」

「も、申し訳ありませんヴィオラ様!」


「生徒会長様だわ!」

「きゃー!今日もまたお美しいですわ!」

「踏まれたいですわ!!」

(この人が生徒会長……そういえばこの人、俺に用があったんだよな)


ヴィオラの登場に一気に沸き上がる周囲の生徒達。

マリーシャも彼女のことは心から慕っているようで、攻撃魔法を放とうとしたことを深く頭を下げて謝罪しすぐに彼女に通り道を譲った。


「あなたが、アレスですね?」

「はい。助けていただき、ありがとうございました。私ではどうにも彼女の神経を逆なでするだけでして」

「感謝の言葉などけっこうです。生徒会長として見過ごすわけにはいきませんでしたから」

「それで生徒会長様。何か俺に話しがあると聞いていましたが……」

「その通り。あなたが学園1位の成績を収めた件について」

「……おっと?」

「1年……しかも平民のあなたが私を上回るなど絶対にありえないことです。一体どんな不正を働いたのですか」

(ああ~……めんどくせぇ~……)


周囲の生徒らやマリーシャに道を譲られてアレスの前までやってきたヴィオラは、都合がいいとアレスへの用事をここで済ませてしまうことにする。

それは先程マリーシャがアレスにぶつけていた疑念と全く同じもの。

折角マリーシャの追及を逃れられたと安堵していたアレスは再び同じ疑惑をぶつけられたことに大きなため息をついていた。


「やっぱり!ヴィオラ様もそう仰ってるのよ!!あんたが不正をした事はもはや明確よ!!」

「うるせぇ!!だ・か・ら、俺はなにもしてないですって。そもそも、俺が不正をしたって証拠でもあるんですか!?」

「公平な条件で私があなたに負けるとでも?」

「それじゃ証拠になってないんですってば……」

「いいでしょう。それならあなたが私よりも優れているなどあり得ないと、実際に証明して差し上げます」

「だからそれが俺の不正の証拠にはならねえって何度も……」

「アレス。私と決闘しないさい。あなたが負けた時は不正を認め、この学園を去ってもらいます」


アレスが不正を働いたと信じて疑わないヴィオラは、自身がアレスよりも劣ることなど絶対にありえないとそれを決闘で証明しようとしたのだ。

ヴィオラが決闘の単語を出すと、分かりやすく周囲のギャラリーたちは沸き上がる。

アレスは学園1位の称号どころか、学園に通う権利をかけた決闘を申し込まれてしまったのだ。

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