イレギュラー美女
「はぁ……はぁ……嘘だろォ!?」
テレーゼのスキル【性別逆転】にて女性の体になってしまったアレスは、想定外の事態に大きく取り乱していた。
「うそっ……これがアレス君……」
「なんというか、女性になったことも驚きですが、なんというかその……」
「あまりに美人過ぎるな。自分の容姿に特に関心のない私ですら嫉妬心を覚えるレベルだ」
「お前その美貌で容姿に関心がないは国中の女の人から刺されるぞ……じゃなくて、何なんだよこれ!!人の体に勝手なことするんじゃねえ!!」
女性となってしまい戸惑うアレスに、ソシアは少し頬を赤らめながら持っていた手鏡をアレスに渡した。
その鏡に映った自分の姿にアレスは言葉を失ってしまう。
そこに映っているのは間違いなく自分、しかしその姿は自分が知っているものとはかけ離れていた。
長いまつ毛に透き通った海のような美しい瞳。
肌は無心で撫でまわしたくなるほどの滑らかさを感じさせるもので、鏡に映る髪も一切のダメージを感じさせない完璧な艶と潤いを含んでいた。
さらに鏡に映った自分の姿だけではなくそれに驚いて自然と驚きの言葉を漏らすその音も、全く聞き慣れない高く澄んだものだった。
喉が震えるたびにアレスの鼓膜はその美しさに何度も違和感を叫んでいた。
「これが……俺?」
(なにこれどうしよう!?アレス君が女の子になっちゃった!!なっちゃったのに……これはこれでカッコよくて素敵//!!)
(う、美しい……中身がアレスさんだと分かっていても惚れてしまいそうなほど……)
「えっと、その……アレスさん、でいいんですよね?だめですね。目の前で変身したのにあまりに美人過ぎてアレスさんと呼ぶには違和感があり過ぎます」
「ああ。まだ脳がこの光景を受け入れられない」
戸惑いながらも鏡を近くにあった机に置いたアレスは女性の体となった自分の肉体を軽く動かしてみる。
毎日の鍛錬で鍛えられたアレスの筋肉質な体は華奢で頼りないものとなってしまっている。
腕をぐるぐると回すと筋肉量の変化と重心のわずかなズレが大きな違和感を呼ぶ。
そして細く頼りない自分の指を見つめ、この腕が問題なく剣を触れるのか疑問を抱くのだった。
(やっべぇ……まだ現実を受け入れられねえ。ほんとに女になっちまったのか……全身の違和感が絶妙に気持ち悪い。特にこの……)
「……///」
「アレス君、それは流石に……///」
「なッ///!?」
「ああ。気持ちは分かるがそういうことは1人になった時にした方がいいぞ」
「しかしアレスさんにも人並みにそう言った興味があるんですね。なんだか安心しました」
「おい違ッ……これは、不可抗力だろ!!こんなもん気になるに決まってる///!!」
両手を自身の前でぐっぐっと何度も握りしめていたアレスは、ふと胸のあたりの重みに意識が行き、自然と視線が落ちていった。
その位置にあるものにアレスが違和感を持たない訳がない。
自身の足元が視認しずらいほどのふくらみが確認できるその胸部にそっと手をかざそうとしたアレスに、ソシアたちは流石にストップをかける。
「くっそマジで慣れねえ!!こんなんでほんとに潜入調査が出来るのか?というかテレーゼさん!!さっきから黙ってるけどもっと違和感ない見た目にしてくれよ!!」
「え?私知らないんだけど。何それ怖」
「は?」
以前戸惑いが収まらないアレスは、少しでも気を紛らわせようと自身を女性の体にしたテレーゼに軽く文句を吐いてみせる。
しかし今までずっと黙ってアレスの姿を見ていたテレーゼはアレスの見た目の変化について自身も知らない変化が起きたのだと驚いていたのだった。
「ちょっと待て!?知らないってなんだ!?お前が俺をこの見た目にしたんだろ!?」
「いやしてないよ。私のスキルはあくまで肉体の性別を反転させるだけ。好きにいじれるわけじゃないの」
「……と、言いますと?」
「髪や瞳の色は変わらないはずだし。身長や体重、筋肉量も前の肉体とさほど大きな変化もしないはず。でもあなたのその姿はさっきの男の体とは全く似つかない。つまり私のスキルの範疇を超えた変化がみられたってことよ」
「ふ……ふふ、ふざけるな!!勝手にスキルを使っておいて異常事態が発生しましただ!?今すぐ元に戻せ!!ちゃんと元に戻るんだろうな!?」
「だめよ!確かに異常事態だけど絶対に奴らが見逃せないくらい美人な見た目になれたんだからこれを逃す手はないわ!私のスキルは時間経過じゃ戻らないから安心して潜入してきてね!」
「冗談じゃない!こんな調子で潜入なんて出来るか!!いいから今すぐ元に戻せ!!」
「テレーゼさん、アレスさんの言う通りにしてあげてください。この問題にアレスさんたちは本来関係ないんです。無理強いは出来ませんから」
「アリア……」
「ほらあなたどうするの?アリアちゃんにここまで言わせて大人しく引き下がれる?」
「あんたにゃ言われたくないが……はぁ。仕方ねえ!!やるよ!やればいいんだろ!!」
「ほんとに大丈夫ですかアレスさん。私は無理にお願いしようとは……」
「いいって。一度引き受けたものだ、最後まで責任を持ってやり遂げるさ」
受け入れきれない自身の体の変化に元に戻すようテレーゼに訴えたアレスであったが、元に戻ってしまってはアリアの姉の捜索を行えないということで渋々このまま潜入任務を行うことを決断したのだった。
「んで、何すればいいんだ?」
(アレスさんがやさぐれてる……)
(あの見た目でその言動はギャップでやばい……好き///)
「その前にアレス、せっかく美人の見た目になったんだ。喋り方を変えたほうが良いんじゃないか?」
(ティナさんめ余計なことを!!)
「あー……わかってるよ。潜入するときは気を付ける。今はお前らだけだからこのままでいいだろ。というかお前も似たようなもんだし」
「私はこれでいいんだ。今更変えるつもりもない」
「ですがアレスさん、試しに一度見た目通りの清楚な喋り方をしてみてくれませんか?」
「はぁ!?そんなもんクソ恥ずかしいから嫌に決まってるだろ!!」
「その見た目でその喋り方の方が違和感マシマシでヤバいけどね」
「んなこと言われても……わかったよ!ごほん……それでは皆さん、この後どう行動すればいいか決めていきませんか?」
「ブフッ!!」
「ッ!!」
「あはははは!!」
「だぁあああああああ!!ざけんなてめえら!!もう二度とあんな喋り方するかぁ!!!」
ティナに容姿にあった喋り方をしてみてはどうかと提案されたアレスは、渋々ながら普段とは異なる丁寧な喋り方で話してみる。
しかしその普段とのギャップに声色も合わさってティナは吹き出してしまったのだ。
ジョージも驚きを隠しきれず、テレーゼにいたっては声を出して笑う始末。
そんな彼女たちの反応にアレスは怒りをあらわにする。
「すまないすまない。悪気があった訳じゃないんだが、どうにも普段とのギャップでこらえきれなくて……ふふっ」
「擦り下ろすぞてめぇ」
「やはりまだアレスさんが女性になったという事実が受け入れられませんね。特に普段のあなたは男の僕ですら惚れてしまうほどカッコいいですから」
「今更ゴマ擦っても遅いぞ。てめぇもさっき笑いやがったから後で擦り下ろす」
「そもそも擦り下ろすって何をされるんです!?」
「ごめんなさいアレスさん。私も少し驚いてしまって……」
「アリアはいいよ。全然不快に思わなかったし」
「私も声出して笑っちゃってごめんね!」
「お前は殺す」
「どシンプルな殺害予告!?」
「とにかくもうやめてくれ。これ以上は俺の心が持たない。さっさと話し合いを始めようぜ」
「では気を取り直して……まあやはりシンプルにアレスさんがその姿で街中を歩き回ってスカウトを釣るというのが良いかと」
多少騒ぎはあったものの、アレスたちは気を取り直してミシェルの捜索のための作戦を考える。
そしてやはりその作戦というのはミシェルがそうだったように、街中でノイアステル家のスカウトにかかって正規の方法でメイドとして侵入する方法。
アレスの今の見た目であれば間違いなくスカウトしてもらえると誰もが信じて疑わなかった。
「まあそうなるよな。乗り気はしないがミシェルさんを助けるためなら我慢するよ」
「だが今の君のような美女が急にこの街に現れたら話題になりすぎて逆に怪しまれるんじゃないか?」
「確かにそうですね。そんな綺麗な人この街どころか国中を探したってそうそういませんし」
「うーん。じゃあ誰か一緒に来てくれよ。1人でうろうろしてたらそれも目立っちまいそうだし」
「それで解決できるかなぁ?まあ代案は何って言われても困るんだけど」
「誰か一緒に行動するって……いったい誰が?」
「誰でもいいだろ。じゃあソシア、一緒に来てくれ」
「わ、私!?」
突然現れた美女が1人でうろうろしていてはノイアステル家に怪しまれる可能性もある。
そう考えてただ友人と出掛けているだけだと装うために、アレスは誰か1人が自分と一緒に行動するべきだと提案する。
そしてアレスは指名したのはソシア。
アレスに名前を呼ばれたソシアは驚きのあまり声を上げてしまったのだった。
誤字報告ありがとうございました。初めてのことでよくわからず修正したらその報告がどこか行ってしまったのでここで感謝の言葉を。今までの作品も誤字だらけな気がしますがこれから気を付けてまいります(そんなこと言って今回も誤字だらけだったらどうしましょう……)




