拒絶
「止まれ人間。これより先は我らエルフの住む領域」
「貴様ら人間は我らの森を脅かす外敵」
「これより先に進むならその命、刈り取らせてもらう」
ステラをレウスの森で受け入れてもらえるようエルフたちの元を訪れていたアレスであったが、そんなアレスにエルフたちは厳しい態度で追い返そうとした。
「あなた方の神聖な森を騒がせてしまい誠に申し訳ございません。ですが1つだけ、聞き入れていただきたいお願いがあるのです」
「人間が、我らエルフに頼みがあるだと?」
「ふざけるな!そんなもの話を聞くにも値しない!即刻森から立ち去れ!」
警戒心に人間への憎悪を燃やすエルフたちに、アレスは敵意がないことを示すために両手をあげる。
そしてできる限り丁寧にステラを受け入れてもらえるようお願いを始めた。
しかしレウスの森のエルフたちはアレスが想像していたよりもずっと人間のことを嫌っており、アレスは話を聞いてもらえそうにすらなかった。
「……この願いは私の利益となるものではありません。あなた方にも害を及ぼすことはないと思いますので……」
「私たちの言葉が聞こえなかったの?」
「人間と対話をするつもりはない。立ち去れ!!」
「私のお願いと言いますのはここにいる竜人族の……」
ビュビュビュッ!!
「アレスにいに!!」
「……」
会話の余地はないとここから立ち去るように告げるエルフたち。
それでもなお話を続けるアレスに、エルフたちは容赦もなく大量の矢を浴びせた。
ガガガガッ!!
「なにッ!?」
「すべて撃ち落とした!?」
「あなた方に敵意があるわけではありませんので剣は抜きません。ただ、私もただ黙って殺されるわけにはいきませんので」
しかしそんな雨のように降り注いだ矢を、アレスは剣を鞘のまま振り回しすべて撃ち落としてしまったのだ。
そのアレスの腕前にエルフたちはさらに警戒度を引き上げる。
そうして静かになったエルフたちに、アレスは変わらぬ声色でお願いを続けた。
「私のお願いと言いますのはここにいる竜人族の少女ステラを、あなた方の住むレウスの森で匿って欲しいというものなのです」
「……」
「……」
「……アレスにいに……私、怖い……」
「大丈夫だ。ステラちゃんは絶対に傷つけさせないよ」
「……確かにその娘は竜人族ではあるな。ただ少女というのはいささか年を取り過ぎているようにみえるが?」
「彼女は高所から落下させられた際に空を飛ぶために老化薬を飲み今の見た目となりました。したがって見た目は大人でも中身はまだ幼い竜人族の少女なのです」
「……そうか。だがなぜ人間である貴様が竜人族と行動を共にしている?」
「それになぜ彼女をこの森で預かって欲しいなどと?」
アレスと戦闘することになれば被害が計り知れない。
そう考えたエルフたちは可能であれば穏便に事を済ませたいとアレスとの会話に応じることとなった。
アレスはエルフたちの質問に丁寧に事情を説明していく。
「……ということで、人間の国に彼女が居れば常に命を狙われることになる。だから彼女が安全に暮らせるように人の手が届かないあなた方の森で住まわせてあげて欲しいのです」
「そうか……話は分かった。だが断る」
「ッ!?」
「その娘をここに入れれば人間どもがレウスの森に群がってくるのであろう?そんなこと許容できるわけがあるまい」
「人間が1番欲するのは幼い竜人族です!成長した今の彼女ならレウスの森に侵入するなんてリスクは侵さないと思います。それにご機嫌を損ねるかもしれませんが、レウスの森は裏社会の人間にとって竜人族の存在なしに魅力的な資源の宝庫です。それでもあなた方の存在が障壁となりこの森には攻め込むことが出来ていないという現状からステラちゃんが1人増えたところでリスクとリターンの天秤は釣り合わないと……」
「五月蠅いぞ人間。話は聞いた、そのうえで断ると言っているのだ」
「そもそも貴様の話を信用する根拠がないんだぞ!」
「そうよ!その竜人族の子が人間の手先だったらどうする!?」
「そうだそうだ!!貴様が人間でない竜人族に入れ込んでいるのはそいつを利用して我らの森を探らせることが目的なんじゃないか!?」
しかしアレスの話を全て聞いてなお、エルフたちはステラを受け入れようとはしなかったのだ。
レウスの森にステラを狙う人間が来るというリスクや、そもそもステラが人間の協力者であるという可能性は確かにそのとおりである。
しかし彼らがアレスの願いを聞き入れようとしない1番の理由はアレスが人間だからである。
エルフは古くから人間を嫌っており、よほどのことがない限りは人間と交渉すること自体が邪道だと考えているのだ。
「分かったらそいつを連れてとっととこの森から去れ!!」
「くッ……」
「アレスにいに……もう私、怖いよ……」
「……ごめんステラちゃん。でも……」
「ッ!?貴様何を……」
「どうしても、引き下がるわけにはいかないんです」
完全に願いを聞いてもらえる雰囲気ではなくなってしまい、アレスの表情に焦りの色が見える。
非常に排他的なエルフの雰囲気にステラも完全に怯えてしまい、アレスにここから立ち去りたいと漏らす。
だがその時、アレスは剣と背負っていた布に包まれたステラの母親の亡骸を地面に置きエルフたちに向かって土下座をしたのだ。
「今なら奴を殺せるのでは?」
「いややめろ。先ほどの反応速度からあの体勢でも殺せるとは限らん」
土下座をしたアレスにエルフたちはなおも警戒心を緩めない。
そんなエルフたちにアレスは土下座をしたまま話を続けた。
「ステラちゃんは……人間の世界じゃ幸せになれないんです。一生命を狙われ続けて……苦しい思いをすることになる。俺じゃ彼女を守り切れないから……どうか、あなた方に守ってもらいたいんです」
もともとアレスはエルフたちにステラが受け入れてもらえなかったら自分がステラの傍で守り続けようと考えていた。
しかしその考えはこの旅で儚くも否定されてしまったのだ。
絶え間なく襲ってくる悪の組織に、能面のようなアレス1人ですら手を焼くような敵もいる。
自身の力不足を感じたアレスはステラが安全に暮らすにはエルフたちに受け入れてもらうしかないと、彼らに拒絶されても諦めるわけにはいかなかった。
「……人間。なぜその竜人族のためにそこまでする?貴様にとって何のメリットがある?」
「ステラちゃんが安心して暮らせる」
「何を言っているんだあいつ?」
「貴様にとって何のメリットがあるか聞いているんだ!」
「やはり何か企みがあるに違いない!!」
「……」
エルフの質問にアレスは顔をあげ真剣な眼差しでそう答えた。
だが一見答えになっていないような返答にエルフたちは再び憤りをあらわにする。
「ならば人間、貴様とその竜人族が共犯でこの森を脅かそうとしているのではないと証明してもらおう」
「おい貴様何を勝手に……」
「そうだ!貴様らがグルならその竜人族がこの森に入ることがそのまま貴様のメリットになるだろ!」
「貴様がその証拠を示さなければ望みは聞き入れられないわ!」
「……証明、というのはどうすればいいですか?」
「簡単だ。貴様がここで死ね。それなら貴様が己の命を顧みずその竜人族の安全を願っているのだと信じてやってもいい」
「……」
興奮したエルフたちはステラを受け入れる代わりにアレスが死ぬように要求してきた。
その条件を聞いたアレスはゆっくりと体を起こし正座の体勢をなって思考を巡らせる。
「アレスにいに!私嫌だ!アレスにいにが死んじゃうなら私は……」
「ステラ、静かに」
「っ!!」
「さあどうだ人間。貴様が死ねばそいつは助かる。自分の命を優先すればそいつは結果的に死ぬことになる」
「……」
自分の命が天秤に賭けられればアレスは間違いなく自分の命を優先する。
口ではどんな綺麗ごとを並べられてもいざとなれば人間の汚い本性が現れると、エルフたちはアレスにそんな選択を迫った。
それを聞いていたアレスはステラの言葉を遮るとゆっくりと口を開いた。
「ステラを受け入れてくれるなら、俺はこのまま殺されてもいい」
「……そうか。よくわかったよ」
シュンッ……ビチャッ!!
「嫌ぁあああ!!」
アレスがそう答えるとほぼ同時、正面の木の上から1本の矢が放たれた。
それは真っ直ぐアレスの顔をめがけて向かっていくと……
次の瞬間、辺りに鮮血が飛び散った。




