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落ちる

「立てるかティナ?」


追い詰められながらも白銀妖狐の力を解放してダミアンに勝利したティナ。

スキルの使い過ぎで体が凍り付きそうな寒さに震えるティナはアレスに支えられ何とか立つことが出来ていた。


「すまない。まだ少し立てそうにない……」

「そうか。じゃあ背負ってくよ。流石にここに置いていくわけにもいかんしな」

「ありがとう。困った、また君にまた迷惑をかけてしまうな」

(……いや、本当に困るのはもっと君を頼ってしまいたいと考える私の甘さだな。君に頼ってばかりではだめだと覚悟を決めたはずなのに……)

「気にすんなって。じゃあ行くぞ」

「ああ。頼む……、……」

「ん?どうしたティナ?」

「そうだ!!また忘れてしまう所だった!!」


先程別れてしまったソシアのことが気がかりなアレスはティナを背負って移動を開始する。

頼るばかりでなく頼ってもらえるようになりたい。

そう考えながらも気が付けばすぐに頼りたくなってしまうアレスの優しさに喜びを感じていたティナだったが、その時ふと先程の戦いの中で感じたある違和感について思い出したのだった。


「な、なんだ!?」

「さっきあの男と戦っている時に思い出したんだ!暴走ギリギリまで白銀妖狐の魔力を解放して、その感覚が君に助けてもらった時に似ていると!」

「俺が助けたって……へ―ベ森林で白銀妖狐の力が暴走した時か?」

「ああ!あの時は記憶が混濁して思い出せなかったが、あの日白銀妖狐が暴走する直前、私の前にフードを被った謎の男が現れたんだ!」

「なに!?」

「いや、顔も声も確認できなかったから男と断定するのは違うな。とにかくそのフードの人物が私の前に現れて、そいつが急に淡い光を浴びせてきたかと思った途端白銀妖狐の力が暴走したんだ!」


ティナが思い出したもの、それはかつて彼女が2度目の白銀妖狐の暴走を起こしてしまった時のこと。

ティナが今日自分の意志で白銀妖狐の力を引き出した感覚が、あの日謎の人物が放った光によって暴走してしまった時と似ていることに気付いたのだ。


「なんだと!?お前それ何か月前の話だ!」

「だからあの時は暴走した時の前後の記憶が曖昧で思い出せなかったって言ってるだろ!!」

「フードの人物が放つ光ねぇ……精霊を暴走させるスキルか何かか?」

「うーん。詳しくは思い出せないけどあまり不快な感じの光ではなかった気がする……」

「……まあ、とにかく今はそれどころじゃねえ。あとで時間がある時に詳しく聞かせてくれ」

「ああ、わかった」


情報が少なすぎてそのフードの人物の正体も謎の光についても答えを得られない2人。

じっくり考えこみたいところではあったが、今はそれどころではないとアレスたちは一度それらの謎はあまたの奥にしまいステラ太刀を探すことに集中することにしたのだった。




「……警戒は十分していたつもりだったけど、それでも少し甘かったようね」


そうして走り始めた2人を、崖上からじっくりと眺めていた人物がいた。

それはマンティゴアの群れを操りこのゲビアのアジトを壊滅させたユースオーナ。

彼女はマンティゴアの群れを氷漬けにしたティナ、そして自身の部下であるビットを倒したアレスについて思考を巡らせていた。


(ずいぶん消耗していた様だしマンティゴアの群れとビットで足りると考えていたのだけれど。まあ仕方がないわ。役に立たない駒は捨てるに限る。竜人族の子供が手に入れば今よりも組織が大きく……)

「ッ!?しまった!いつの間に……」

「ガゴォォオオオ!!!!」

「っ?」

「はぁ……はぁ……」

「まさか戻ってきたの?悪いけれどあなたの相手をしている暇は……ッ!?あなたそれは!?」


自身の組織の幹部であるビットが敗北したにもかかわらずあまりショックを受けていない様子だったユースオーナ。

竜人族の子供が手に入ればいくらでも組織は拡大できると考えていた彼女であったが、そんな余裕の表情は上空を見上げた途端に失われることとなる。

とある重大な事実に気が付いたユースオーナが動き出そうとしたその時、彼女は背後に控えさせていたボスマンティゴアの怒りに満ちた咆哮で振り返ったのだ。


「先程隠れていた僕に気が付いたのはそのマンティゴアだけであなたは気付いていなかった。つまりあなたはマンティゴアの意識を乗っ取っている訳ではなく、マンティゴアに命令を下せるだけ」

「ガオォ……ガオォ……」

「あなた何故……マンティゴアの子供を……」


ユースオーナの前に現れたのは先程前億力でどこかへ向かって行ったジョージであった。

そんなジョージが抱えていたのは生まれたばかりのマンティゴアの子供。

なんとジョージはユースオーナが大人のマンティゴアを全て連れ出した巣から子供のマンティゴアを運んできたのだ。

縄張り意識の強いマンティゴアを連れ出すのだ、当然従えたマンティゴアが別の縄張りのマンティゴアたちと争いを始めないように1番近くの縄張りのマンティゴアを連れて来る。

マンティゴアが群れで移動すればその痕跡は必ず残るため、ジョージはこの短時間でマンティゴアの子供を連れて戻ってくることが出来たのだ。


「ゴォォオオオ!!!ガゴォォオオオ!!!!」

「待ちなさい!!……っ?止まらない!?」


自身の子供を奪われたことにボスマンティゴアは激しく怒り、ユースオーナの制止も聞かずジョージに突進を開始する。


(予想通り!!あとはこの突進を躱すだけ!)


普段の冷静なマンティゴアであればその攻撃をジョージが躱すことなど不可能である。

しかし怒りに満ちて攻撃が単調になっているうえ、子供が傍に居るということで手加減しなければいけないこの状況ならば話は別だ。


「うぉおおおおお!!」

「ゴォォオオオ!!!」


ジョージは子供を取り返そうと向かってくるマンティゴアを前に、子供を自身が飛び出す方向と逆方向に投げることで親マンティゴアの意識を逸らし突進を回避しようと試みた。


「ぐぁああああ!!がはッ!!」


しかしそれでも万全ではないジョージが無傷で回避できるものではない。

子供を救うことに意識を向けたマンティゴアの突進を、直撃こそ避けたものの掠ってしまいジョージは勢いよく岩場に叩きつけられる。


(ま、まずい……昨日の傷が痛んで……でも……今止まれば確実に死ぬ!!)

「ぐッ……ああああああ!!」

「……」


背中から岩に叩きつけられ、昨日能面に深く切られた傷が開きかける。

しかしボスマンティゴアがユースオーナから離れた千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないと、ジョージは雄叫びを上げながら立ち上がりユースオーナに向け突進をする。

しかし……


「マンティゴアさえ何とかすれば私に届くと思ったの?」

「ッ!?ぐぁああ!!」


ユースオーナまであと数歩に迫ったジョージ。

しかしジョージを目前にしたユースオーナは冷静に懐から鉄鞭を取り出し、それを激しくジョージに打ち付けたのだ。


「がはッ……ぐっ……」

「スキルが魔物操作なら本人の戦闘能力は生身の人間だと油断した?残念。命がけの突進で私を崖から突き落とそうとしたみたいだけどそうはいかないわ」


ユースオーナの鞭捌きはよどみなく、ジョージに大ダメージを与える。

ジョージは直前で腕を交差させガードを試みるも、縦横無尽に這いまわる鞭の前には意味をなさずジョージの足を潰し背中の肉を破裂させる。


「悪いけどあなたと遊んでいる時間はないの。手早くとどめを刺させてもらうわね」

「ふ、ふふふ……」

「なに?何がそんなにおかしいの?」

「いえ、だって……すべて僕の想定通りに事が運んだんですから」

「ゴォォオオオ!!!!」

「ッ!?」


ユースオーナの前でプルプルと震えながら地面に倒れるジョージ。

そんなジョージにユースオーナはとどめを刺そうと鞭を構えたのだが、その時ボスマンティゴアが子供を攫ったジョージに復讐をしようと目前にまで迫っていたのだ。


「ま、待ちなさい!!命令よこれは!!」

「ゴォォオオオ!!!」

(まずい!止まらない……)

「あなたを崖から落そうとしているというのは正解です。でもそれは僕の体当たりじゃなく……マンティゴアの攻撃でです」

「ゴォォオオオン!!」

バゴォォオオオン!!!


マンティゴアはジョージに迫ると右前脚を大きく振り上げ、ジョージを踏みつぶそうと勢いよく振り下ろした。

しかしそれはジョージの想定通りの展開であった。

ボスマンティゴアは子供を口に加えて運んでおり、さらに崖際であるため先程のような体当たりも使えない。

となれば必然的にジョージへの攻撃手段は脚を使った打撃となり、地面に這いつくばる自分を狙うならその攻撃を回避することで周囲の足場を破壊できると踏んでいたのだ。

怒りで短調となったボスマンティゴアの踏みつけ攻撃を、ジョージは最後の力を振り絞り回避する。


「馬鹿な!!そんな、こんなこと……」

「くッ!!」

(まだだ!!このまま落ちれば僕の命もない!)

「ガ……ゴォォオオ!!」


ボスマンティゴアの一撃はジョージの想定通り自分やユースオーナ、そしてボスマンティゴアも巻き込むような形で広範囲で足場を破壊する。

マンティゴアの踏みつけを間一髪で回避したジョージは地面を踏み抜きバランスを崩したボスマンティゴアに近づいた。

マンティゴアの上に登ると、山のようなマンティゴアの鬣の中に身を隠し落下の衝撃を和らげようとする。


「ああああああ!!」

「ゴォォオオオ!!」

(ぐうぅ!!)


大量に崩れた足場と共にジョージたちは崖上からゲビアアジトにまで落下していく。

ユースオーナが立っていた地点は特に勾配が急で一度も止まることなく真っ逆さま。


「う……な、なんとか……助かったようですね……」


マンティゴアの鬣の中に身を隠していたジョージは大きな負傷もなく地上に降り立つことに成功する。

ユースオーナに傷つけられた足を引きずりながらその場を離れようとする。


「ゆ、許さない……貴様だけは、絶対に!!」

「ゴルルル……ゴォォオオオ!!!」

「なッ!?そんな……」


だがそんなジョージの前に頭から大量の血を流したユースオーナと大したダメージを負っていなさそうなボスマンティゴアが立ちふさがる。


「今度こそ終わりよ!!踏みつぶされてぐちゃぐちゃになりなさい!!」

「ゴォォオオオ!!」

「ぐッ……」

「月影流秘伝、叢雲霧散!!」

「ゴォッ!?」

「ごふッ……そんな、この、私が……こんなところで……」


だが立ち上がったユースオーナの指示を受けたマンティゴアの攻撃がジョージを砕くその直前。

どこからともなく眩い斬撃がほとばしり、マンティゴアとユースオーナを正確無比に切り裂いたのだ。


「ッ!?」

「大丈夫かジョージ!!」

「アレスさん!!それにティナさんも!」

「ジョージ!今の崩落に巻き込まれて落ちてきたのか!?その女は一体……」

「あの人は、恐らくステラさんを狙っていた組織のトップだと思われます。崖上からマンティゴアの群れを暴れさせていたので崖の上から落したんです。まあ僕も逃げられませんでしたが」

「そうだったのか。通りでマンティゴアの動きが賢すぎると思った」

「全く、無茶しやがって」

「すみません。でも僕1人だけ隠れているなんて出来なくて、何とか敵を倒してアレスさんたちの力になれればいいと思ったんですが……結局アレスさんに助けてもらうことになってしまって……」

「何言ってんだ。こんなボロボロな状態で今から崖上のマンティゴアを操ってる敵を倒しに行けるか」

「そうだな。私という足手纏いもいるわけだし、ジョージが敵をここまで落としてくれなかったらまずかっただろう」

「っ!」

「こっちこそ助かったよ。ナイスガッツだ」


ギリギリのところで援護に駆け付けたアレスとティナは、ボロボロに成り立っているのもやっとなジョージの健闘を称えた。

自身の力不足を感じていたジョージは2人のその言葉に思わず涙腺が緩みかける。


「ゴルルゥ……」

「ガォオオオ!!」

「っ!!マンティゴアたちが……」

「あの人の支配が解けて正気に戻ったのでしょう。恐らくもう戦意はないかと」


ユースオーナのスキルの効果が消えたマンティゴアたちは正気に戻り、ゆっくりと崖の上を目指して歩き始めた。

マンティゴアという魔物の習性に群れの長の敵討ちをするという物はない。

強さが取柄の長は何者かに負けた時点でその存在意義を失い、メスのマンティゴアたちはその群れにとどまる選択をしないからだ。

マンティゴアの群れが去っていったゲビアのアジトは壊滅。

ゲビアのメンバーたちは大半が逃げ出し、逃げ遅れた者はすでに全員倒れていた。


「うし。これでわかりやすい脅威は去ったな。じゃあ早くソシアとステラを探して……ああ!!」

「どうしたんだアレス!!」

「空!!飛行船が居なくなってやがる!!」


迫っていた危機を退けたアレスは気を取り直してソシアとステラの捜索に移ろうとする。

しかしその時アレスは頭上に浮かんでいたはずの飛行船の姿が影も形も見えなくなっていることに気が付いたのだ。


「まさか!!ステラさんを捕まえたから帰っていったんじゃ!?」

「その可能性が高いな。どうするアレス?」

「いや……まだかすかに音が聞こえる。たぶんずいぶん上昇してはいるがまだ空に居るはずだ。すまんティナ、少し下りてくれ」

「ああ」


アレスは背負っていたティナに降りるよう促すと、上空の微かに音が聞こえる方向に向け剣を構えた。


(距離が離れすぎてるが両断する必要はねえ。船体に穴をあければ恐らく飛んでられないだろう。ただステラを無事に助けられる可能性は限りなく低くなるが……仕方ねえ!)

「ふぅ……紫電一刀、朧……」

ボォオオオ!!

「っ!?」

「な、何事だ!?」

「見てくださいあれ!!」


ステラを傷つけてしまう恐れはあったが、このまま敵を逃がすわけにはいかないとアレスは気を整え見えない飛行船を斬り落とそうとする。

しかしその直後、飛行船の音がかすかに聞こえていた地点からただならない破壊音が聞こえてきた。


「アレスさん!?」

「いやまだ何もしてねえよ!!」

「じゃあ事故か!?それとも新手か!?」

「いや、それは分からねえが……ただ事じゃなさそうだ」


さらにそのすぐ後に飛行船を覆っていたルネイラのスキルが消え、今まで不可視だった飛行船が再び姿を現す。

だが再びその姿を現した飛行船は船底が大きく破壊されており、ヒビが広がり2つに分裂した飛行船は無残にも地上に向けて落下を始めていたのだ。

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