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とどめを刺す瞬間こそ最大の隙

「はぁ……はぁ……」


戦塵舞うゲビア本部1段目の大地。

無数のマンティゴアの屍で築かれた山の上に、大きく呼吸を乱しながらも鋭く研ぎ澄まされた殺意を纏う1人の剣士の姿があった。


「くッ……化け物がぁ……」

「ふぅ……そいつは褒め言葉として受け取っておくよ」

「ゴォォオオオ!!」

「はぁあああ!!」


屍の山を築いたのは他でもないアレスである。

ユースオーナが操るマンティゴアの群れに加え、2mを超える長剣を振り回すビットの攻撃を全ていなしながらアレスは着実にマンティゴアの数を減らしていった。


「楼天流激烈斬!!」

「ふッ!!」

「ガオォォォオ!!」

「神速・韋駄天!!」

「ガォ!?」


1匹突出したマンティゴアの突進を、アレスは周囲の空気を震わせるような叫び声と共に切り捨てる。

命脈を断たれたマンティゴアの体が傾き始めるよりも先にビットたちはそう攻撃を仕掛けた。

長剣を生かしたアレスの間合い外からの攻撃。

一撃で首を刎ねんとする鋭い横薙ぎをアレスは身をかがめて回避、続いて迫るマンティゴアの打突を素早いサイドステップで躱しながらマンティゴアを打ち沈める。


ドドォオオン!!

「ガォ……」

「グルルゥ……」

「おい貴様ら!!どこへ行く!?」


2体のマンティゴアが地面に倒れる音が響き、アレスは再び剣を構え直す。

圧倒的なアレスの戦闘力を前に、ユースオーナの支配下でありながらマンティゴアたちは戦意を失いつつあった。

アレスから距離を置くように後ずさりするマンティゴアの群れ。

その様子を見たビットは身の危険を感じ取り情けない声を上げる。


「ユースオーナ様!!お、お助け下さい!!」

「さてと。悪いが時間がないんでな。お前を切って俺は先に進むぜ」

「待て……くそッ!!貴様のようなガキに負けてたまるかぁ!!!」


追い詰められたビットは自暴自棄となり単身アレスに攻撃を仕掛けた。

それを見たアレスはビットが長剣を振り下ろすよりも早く、間合いの内側を侵略すると右手で握った剣を思い切り切り上げる。


「うッ!?」

「神速……」


それは防御不可能な一撃。

ビットはその攻撃を前に死を覚り、アレスも攻撃が命中するより前に自身の勝利を確信する。

しかし……


「韋駄天!!」

「ぐぁああああ!!」

ヌゥン……

「ッ!?」


アレスがビットを激しく切り上げると同時、アレスの左側面にぬるりと影が滲み出たのだ。


「この瞬間をずっと待ってたんだよ」


それはシャロエッテとの戦闘からずっと姿を見せなかった能面。

ここまでアレスたちの前から消え失せていた彼は、アレスが誰かにとどめの一撃を放つその瞬間をずっと窺っていたのだ。

能面が現れたのはアレスの剣のふり終わり、最も無防備な瞬間。

左下方から右上方に向けてビットを切り上げたアレスは左側が完全に隙となり、能面にぬるりと入り込まれてしまったのだ。


(これは躱せなぁい♪)


完璧なタイミングで能面はアレスを斬りつける。

それはアレスにはもうどうすることができない致命の一撃……


ガキンッ!!

「え……?」

「こっちこそ、ずっと待ってたんだよ」


しかし剣の振り終わりで能面の一撃を防ぐ術を何も持たないと思われていたアレスであったが、なんとその必殺の一撃を服の中に隠していた苦無で完全に防いでみせたのだ。


(苦無!?まさか……)

「お前がちくちくプレゼントしてくれたこれ、大事に隠し持ってたんだよな。あとお前、体勢悪いよな?」

(しまっ……)


アレスは空いていた左手で能面の攻撃を防ぐと、ビットを切り上げた剣を切り返す。

能面は振り終わりの体勢。

アレスにとどめを刺そうとしたまさにその瞬間の能面に、その攻撃を躱す術は残されていなかった。


「だりゃぁあああ!!」

「ぎゃぁああああ!!」


アレスの繰り出した袈裟斬りが完膚なきまでに能面の胸を切り裂いた。

容赦のないその一撃は能面の胸から勢いよく鮮血を撒き散らせる。


「ぐ……がぁ……」

「ティナを襲った時にこの策をみせたのは失敗だったな。おかげでうまい事お前を誘いこめたよ」

(くそ、くそ、くそぉ!!まさかこの僕が斬られるなんて!でもまだだ、まだ負けてない!!)

「これで勝ったと調子に乗るなよ!!」

ボフッ!!

「煙幕、か」

(くっくっくっ。生き残ればまだ負けじゃないんだよ!もう依頼なんてどうでもいい。貴様を殺すために何年でも付き纏って確実にその命を……)

「タイマンで俺から逃げられると思うなよ?」

「なッ!?」


胸を激しく切り裂かれた能面は、最後の手段として無数の煙球を投げつけると周囲を煙に撒き散らし逃走を図ったのだ。

しかし能面がその場から離脱するよりも早く、アレスは白煙の中能面の背にぴったりと付けたのだ。


「うぅ……来るなぁああ!!」

「雷霆・斬!!」

「かはッ……」


能面は振り返り必死に刀を振るう。

だがそんな悪足搔きがアレスに通用するはずが無く、アレスのとどめの一撃が能面の胸にバツ印を刻むように走った。

その攻撃を受けた能面は操り人形の糸が切れたように地面に倒れる。


「ふぅ……お前が居なきゃこの旅はどれだけ楽だったか。むかつくけど、今までで一番苦戦させられたよ」


アレスは剣を鞘に納めながら倒れた能面に向かってそう告げる。


(さてと……これで終わりじゃねえ。早く上へ戻らないと)


そしてアレスはまだ戦塵止まないゲビアアジト2段目の大地へと急いで向かったのだ。




「爆凍・アイスフレア!!」

「消し炭になれ!!大火斬!!」

バキバキッ!!ボォオオン!!!


一方アレスが向かう先である2段目の大地では、ティナとダミアンによる氷と炎の決戦が繰り広げられていた。


「ぐぁああ!!」

「まだまだぁ!!殺し甲斐がねえ!!もっと張り合ってこい!!」

「言われなくとも……」


ティナが放つ氷の斬撃とダミアンが放つ炎の斬撃がぶつかり合う。

しかしそのスキルの相性や出力の差から、ティナは一方的に吹き飛ばされ徐々にダメージを蓄積させていってしまう。


「ゴルルゥ……」

(マンティゴアは……もう完全に手を出してこないようだな。獣の習性で火を恐れてるのか、私と奴の戦いが終わるまで待っているのか……どのみち私は狙われる運命にありそうだ)

「どうした?マンティゴアなんざに意識を向けてる余裕なんてないんじゃねえのか?」

(……悔しいがその通りだ。こいつの言う通り他の物に意識を向けていて勝てる相手じゃない)


ティナは知らないが、マンティゴアの群れはユースオーナの指示により2人の戦いが終わるまで待機させられていた。

無論その意図は戦いが終わり生き残った方を即座に殺すため。

しかしそれを分かっていながらマンティゴアに意識を向けている余裕のないティナは覚悟を決めて目の前の強敵に集中することにしたのだ。


「いいぜぇ!!じゃあ今度はこっちから行くぞ!!」

(私がこいつに勝つには……賭けに出るしかない!)

「消し飛べ!!大噴激!!」

「ぐッ!!」


勝ち目のないような状況でなおも自分に向かってくるティナに戦闘者としての血を騒がせるダミアン。

彼は自慢の魔剣を高々と振り上げると、それを地面に打ち付け噴火のような爆撃を見せる。


「はぁああああ!!」

「ほう」


しかしそんな攻撃を前にして、ティナは怯むことなくその爆発の中を突っ切ると最短距離でダミアンに斬りかかったのだ。

冷気を全身にバリアのように纏うことで致命傷は避けるものの、空気を焼き焦がす一撃にティナの消耗は激しい。


(真正面から戦ってはダメだ!この不意打ちで終わらせる!)


ダミアンは振り下ろしの直後。

反撃はないと考えたティナは臆することなく前へ踏みでる。


「なかなかいい攻撃だ。だが……」

ブチブチッ!!

(なッ!?こいつ自分の腕を……)

「それじゃ俺様には届かない」

ボガァアアアアン!!!

「うわぁあああ!!」


大剣でのガードは間に合わない。

そう考えたティナだがなんとダミアンは突如自身の右腕に噛みつくと、何の躊躇もなく自身の腕の肉を食い破ったのだ。

ダミアンはそうして食い破った腕の傷をティナに向ける。

すると腕の傷から噴き出したダミアンの血液が恐ろしい程に赤みを増し、そしてものすごい勢いで爆発を起こしたのだ。


「ぐぁああ!!うぅ……」


予想外の攻撃にティナは吹き飛ばされ地面を転がる。


「自らの負傷を恐れずの特攻。悪くはないが、俺の方が1枚上手だったようだな」

「はぁ……はぁ……それが、貴様のスキルか」

「その通りだ。俺のスキル【熱血】。俺の血液は熱を発生させ爆発を引き起こす。そして……」

「ッ!?」


ダミアンは自身のスキルをティナに明かすと、大剣を片手で軽々と持ち上げ自身の腕に刃を食い込ませたのだ。

ダミアンの腕を噛んだ刃はすぐに禍々しい程の赤みを帯びていく。

まるでスポンジが水を吸い上げるように、ダミアンの血を吸収した大剣は真っ赤に輝く。


「そして俺様が持つこの魔剣は敵の血を啜る特性を持つ。これを俺様のスキルを合わせれば炎を呼び爆発を引き起こす魔剣の完成ってわけよ」

「ぺらぺらと自分のスキルを明かして……その油断が命取りになるぞ?」

「取ってみろよ俺の命!取れる物ならなぁ!!」


ダミアンは血液を補充させた大剣を再び振り上げティナに襲い掛かる。

それをみたティナは歯を食いしばりながら立ち上がり、ダミアンを迎え撃った。

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