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それぞれの戦い

マンティゴアの群れが所狭しと暴れる盗賊団ゲビアのアジト。

すでに広大な敷地の7割が破壊されつくした混乱の中、かろうじて残された建物の中を走る1人の少女の姿があった。


「はぁ……はぁ……ステラちゃん、どこにいるの?」


それは攫われてしまった竜人族の少女ステラを探すソシア。

ソシアはネスタークのボスであるベルジュークによりアレスと離れ離れになった後、ベルジュークが集まってきたゲビアのメンバーに気を取られている間に命からがら逃げだしていたのだ。

マンティゴアの襲撃を避け、ソシアはステラを探すべくまだ無事であった建物の中を捜索していた。


(マンティゴアが襲ってきた場所にステラちゃんが捕まってたらもう手遅れだとしか思えない。もしステラちゃんを助けられる可能性があるならここを探すしか……)


すでにゲビアのアジトは半壊。

ステラもマンティゴアの襲撃に巻き込まれて命を落としている可能性は十分に高かった。

それでもソシアはステラが無事であればこの建物に居ると考え、必死に探し回っていたのだ。


「早くしないとここもマンティゴアに壊される。そうなったら本当にステラちゃんは……」

「嫌ぁ!離してぇ!」

「ッ!?ステラちゃん!?」


すでに手遅れではないかという最悪な考えがソシアの脳内を満たそうとしていたその時、少し離れた場所から聞き覚えのある幼女の声が聞こえてきたのだ。


「逆らうんじゃねえ!!てめえさえ居ればアジトは放棄しても立て直せるんだよ!」

「痛い!やめて!」

(いた!!ステラちゃん、今助けるから……)

「っ!!このにおいはまさか……」


ソシアはすぐさま声がした方向に向け走り出す。

そうしてゲビアが物資の搬入に使用している巨大な部屋に辿り着いた時、ソシアはそこで今にも連れ去られそうなステラを発見したのだ。

それを見たソシアはすぐにステラを助けようと加速する。

しかしその直後、ソシアは突如漂ってきた独特なあるにおいに足を止めたのだ。


「ここにいたのね」

「ッ!?なんだ今の声は!誰か居やがるのか……ぐぁ!?」

「あ、ああ……」

「こんにちは。大人しくお姉さんに付いてきてくれると助かるんだけど」


ソシアが感じ取ったのは先程自分たちを襲撃してきた透明化のスキルを持つ女が纏っていた薬品のにおい。

そのにおいを感じ取ったソシアが素早く身を隠したその直後、透明化を解除し突如姿を現したルネイラがステラをアジトから連れ出そうとしていた男の後頭部を激しく殴打したのだ。

穏やかな口調に反し高圧的な雰囲気を纏うルネイラに、ステラは怯え切ってしまい逃げ出すことができない。


(どうする!?ステラちゃんを助けなきゃなのに、今私が飛び出してもきっとやられるだけ……)

「あんたたち。早くここからずらかるよ」

「へい!本船に戻る準備は出来ています!」

(あれは……空飛ぶ小舟?あれでさっき空の上に見えた巨大な船に戻るんだ)


ステラを取り返すチャンスを物陰から窺うソシアには一切気が付かず、ルネイラ達は素早く小型の飛行船で上空の本船へ帰還する準備を進める。

その小型飛行船には布で覆われた荷物がたくさん積まれており、10人程度は余裕を持ってはいることが出来そうな部屋もあった。


(今ここで飛び出してもステラちゃんを取り返すのは難しい……それなら、あの船にこっそり乗り込んで隙を見てステラちゃんを連れ戻すしかない!)


その船を見たソシアは全員が乗り込んだのを確認すると、素早く物陰から飛び出し船の後方の積み荷の中に身を隠した。


(見つかったら逃げ場はない……戦っても殺されるだけ。見つかったら……一巻の終わり……)

「はぁー……ふぅー……」

(落ち着け私。見つかった時のことなんて考えちゃダメだ。思い出せ、お父さんとお母さんに教わった狩りの基本を……)


積み荷を覆う布の中に姿を隠したソシアは見つかれば命がない極限の状況に冷静さを失おうとしていた。

だが自身に狩りを教えてくれた父と母の言葉を思い出し、静かに呼吸を整えるとともにその気配を完全に殺したのだった。

それは警戒心の高い獲物が隙を見せるまでひたすらに待ち続ける狩人のように。


「あっぶねぇ!何とか無事に飛びたてたな」

「ああ。これで我々の任務は完了だ」


ルネイラ達はソシアがこの小型船に乗り込んでいることなど夢にも思わず、竜人族の子供を捕まえた喜びに気を緩めていた。

それでも狭いこの船内で行動を起こすわけにはいかない。

ソシアはステラを取り返す絶好の機会が訪れるのを辛抱強く粘ることにしたのだった。



「はぁ……はぁ……なんてことだ」


ソシアがステラを取り戻すためにネスタークの船に向かったそのころ、崖上でマンティゴアの群れを操るユースオーナの元にジョージが辿り着いていた。

ジョージは崖下に意識を向けるユースオーナの背後の岩場に姿を隠し、慎重にその様子を確認する。

しかしそこでジョージはとんでもない光景を目撃してしまったのだ。


(マンティゴアの……群れの長!まさかこんなところに……)

「ゴルゥルルル……」

「あら?誰か来たのかしら?」

「……ッ!」


それはユースオーナの背後に控えたマンティゴアの群れの長。

崖下で暴れるマンティゴアは全てメスであり群れのリーダーがいないことを内心不審に思っていたジョージであったが、その心配が最悪な形で的中してしまったのだ。

マンティゴアの長の嗅覚により岩陰に隠れていたジョージはすぐにユースオーナにその存在が知られてしまう。


「出ていらっしゃい。そのまま姿を見えないまま死んでもいいなら話は別だけど」

「……あなたは、一体何者ですか?」

「あなたは確か、あの竜人族の子供を連れて逃げていたハズヴァルド学園の生徒の1人ね?あの剣豪の子が下に居るから全員あそこにいると思ったのだけど」


隠密を見破られたジョージはこれ以上隠れ続けても意味はないとユースオーナの言葉に促される形で岩陰から姿を現す。

そんなジョージの姿を見たユースオーナの表情が余裕のあるものへと変わる。


「うっふふ♪一体どんな強者が来たのかと身構えたけれど、あなた1人なら何の脅威にもならないわ。あなた1人でここに来たということは私のスキルが魔物操作だとあたりをつけて、それなら戦闘能力の低い自分でもなんとかなるかもしれないって思ったからかしら。でも残念。もちろんそんなことは対策済みよ」

「崖下で暴れているマンティゴアがメスしか居ないのはおかしいと思いましたが……」

「そう。役に立たない人間の部下を控えさせるよりこっちのほうが安全でしょう?」


ジョージはユースオーナと会話を続けながらこの状況の打開策を模索する。

しかしマンティゴアの長は付け焼き刃の策で出し抜ける相手ではない。

それどころか今ユースオーナが指示を出せば、その瞬間に自分の命は消える。

そのことを自覚していたジョージは冷汗を流しながら呼吸を小さく震えさせていた。


(む、無理だ……このまま前に出ても殺されるだけ……僕に、僕に一体何が出来るんだ……)

「ふふっ。そんなに小鹿みたいに震えちゃって。安心してもいいわ。私に無意味な殺戮をする趣味はないわ。大人しくこの場から逃げるなら追いはしない」


そんなジョージを前に、ユースオーナはすぐに視線をがけ下に戻しマンティゴアの操作に集中し始めた。

ユースオーナはジョージを逃がしてもいいと言ったが、無論優しさから来るものではない。

マンティゴアの長にジョージを殺すように指示をすれば必然的に自分の警護はなくなる。

ジョージを逃がすことよりもこの身を無防備にする方が危険だと考えたユースオーナはマンティゴアを自分の傍に控えさせたままにしたのだ。


(僕は……何の脅威でもないって言いたいのか……)


事実であると分かっていながらもジョージは警戒すらされない対応に悔しさでこぶしを握り締めた。


(いや!落ち着け僕!舐めてもらう分には好都合なはずだろ!!何とかこの状況をひっくり返す策を考えてぎゃふんと言わせてやればいい!!)

「……ッ、そうだ!!」

「どうするかと思ったけど本当に逃げるなんてね」


こちらをじっくりと睨み続けるマンティゴアの長の圧でこれ以上先に進めずにいたジョージは突如策を思いつくと、ユースオーナとは真反対の方向に走り出した。


(仲間に私の存在を報せるつもり?でも頼もしい剣豪のあの子はビットが足止めをしているし、それに氷使いのあの子は……もうすぐ死んじゃいそうだしね)


ユースオーナは逃げたジョージを追うことはせず、竜人族の子供の捜索を続けることにした。

そしてそれと並行して自身の障害となりえるアレスやゲビアのメンバー、そしてティナの始末を試みたのだった。




「ガォオオオ!!」

「ゴォォオオオ!!」

「はぁ……はぁ……くッ!!」


一方そのころユースオーナの視線の先、アレスとソシアを助けるためにゲビアのアジトに降りたティナは複数のマンティゴアに囲まれピンチを迎えていた。


「ゴォォオオオ!!」

「ッ!?」

(グラクウォール!!)

「ガォオオオ!!」

「氷華、霊雪斬!!」

「ガォォ!!」


背後から迫るマンティゴアの攻撃を圧縮され超高度となった氷の壁で防いだティナは、正面のマンティゴアの攻撃を迎え撃つ。

ティナが放つ強烈な冷気にマンティゴアは少し怯み後退するが、それでもその包囲を破ることはできない。


「ウォォオオン!!」

「くそッ!!これじゃキリがない……」

ピシ……パキ……

「ッ!?まさか……」

バリィィィイン!!

「ゴォォオオオン!!!」

「うがぁあ!!」


正面のマンティゴアの攻撃を退けたティナは一度構え直し息を整えようとする。

しかしその時、背後に出現させた氷の壁が音を立てて崩れ始めたのだ。

直後、氷の壁を砕いたマンティゴアの薙ぎ払いがティナを襲う。

冷気を放出しながらその攻撃を受け止めようとしたティナだったが圧倒的な体格差を前に力負けしてしまい、そのまま吹き飛ばされ地面を転がってしまった。


「はぁ……はぁ……くそっ……」

(アレスたちを助けると言いながらなんてざまだ……)

「ゴォォオオオ!!」

「……弱音を吐いている場合じゃないな。私は、こんな所で負けるわけには……」

ヒュゥ~……

「よくも俺様のアジトを……」

ボガァアアアアァン!!!

「無茶苦茶にしてくれたなぁああ!!」

「ゴォ……ガア……」

「ッ!?」


吹き飛ばされ地面に転がったティナだが自分を奮い立たせると再びマンティゴアに向け刀を構えようとする。

しかしその時上空から何かが降ってくる音が聞こえ、直後1匹のマンティゴアの背に灼熱の炎を纏った何者かが落ちてきたのだ。

その男の攻撃は一撃でマンティゴアの命脈を断つ驚異的な威力。

それを見たマンティゴアたちはその男の脅威を感じ取り後ずさりする。


「貴様は……あの時の!」

「あぁん!?てめえは……竜人族のガキを連れてた女剣士!!貴様らも俺様のアジトを荒らしてやがったのか!!」

「はッ。散々他人を踏みにじっておいて、いざ自分が踏まれる側になった途端に喚くな」

「く、くっくっくっ……いいぜ?生意気な奴は嫌いじゃねえ……」


「泣いて許しを乞うまで痛みつけて絶望の底でぐちゃぐちゃに殺してやるよぉ!!!」


マンティゴアが下がったことを確認したティナは、現れたゲビアボスのダミアンに刀を向ける。

そんな毅然とした態度のティナを見たゲビアは笑い声をあげたかと思うと、突如怒りを爆発させティナに襲い掛かったのだ。

やる気が出てきたと言った途端にお仕事が忙しく……でも今週は休まず投稿していきたい

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