スキルを使えない貴族の令嬢
前回のあらすじ:入学から数日が経ちようやく担任の教師であるレハート先生がやってきた。しかし突然レハート先生から大したスキルを持たないことを理由に退学するように言われてしまう。またスキル差別かと怒りをあらわにするアレス。一触即発の事態となったがアレスの熱い言葉にクラスメイト達は勢いづき、実はアレスたちを試していたというレハート先生から合格点を貰うことが出来たのだ
入学初日から担任の教師がいないという前代未聞の事態に陥っていたアレスたち7組だったのだが、ようやく担任であるレハートが王国軍から解放され通常の授業を送ることが出来ていたのだった。
そのだらしない風貌から教師としての実力を疑われていたレハートだったが、授業内容はいたって普通で拍子抜けするものであった。
「ということで、冒険者は王国軍や騎士団と違い少数のパーティーで動くから個人の役割は非常に重要というわけだ。今日の授業は終わりだが、明日までに宿題をやってくるように。以上」
「だぁ~……もう難しくて訳分かんねえ~」
「ったくマグナ。しっかりしろよな」
授業を終えてレハートが教室から出て行くとマグナはそう呟きながら机に突っ伏した。
そんなマグナの周りにアレスにジョージ、ソシア、アリアにメアリーが集まっていた。
「宿題が出るくらいならジョージ先生の自習の方がよかったぁ」
「そんな。僕は先生でも何でもないですよ」
「じゃあ~、私はアレス君に勉強を教えてもらいたいな~♡」
「俺は教えたくないな~」
「くそ、アレスめ。俺が頭がよかったら女の子に勉強を教えてあげてモテモテになってやったのに……」
「モテモテ……になれるかはわかりませんが、マグナさんも今から頑張ればきっと勉強が得意になれますよ」
「頑張るってもなぁ……俺は昔から勉強が苦手だし。そんなことよりも、今は目前の宿題だぁ……」
アレスたちが先程レハート先生から受けていたのは冒険者基礎の授業。
この学園ではクラスの全員が受けなければいけない基礎の授業は基本的に担任の先生が受け持ち、専門性が高い科目は選択した生徒がそれぞれ担当の教員から受ける決まりになっている。
「なになに……下記の冒険者パーティーの編成をみて、そのパーティーの強みと弱みを書きなさいだぁ?そんなんよくわかんねえよ」
「そうですね。これはそれぞれの役職の特徴を捉えていないと難しいかもしれませんね。ですが基本的には物理か魔法、そして近距離か遠距離かを考えればわかりますよ」
「それでは、私は次の攻撃魔法基礎があるので失礼しますね」
「うん。行ってらっしゃいアリアさん。あれ?そういえばマグナ君も歴史基礎を取ってなかった?」
「やべっ!ほんとだ!……ていうか、他の皆は取ってないの?」
「俺は王宮で散々叩き込まれたから必要ないの」
「僕は本で基礎以上の歴史も学んでいるので大丈夫ですかね」
「私も基礎の内容くらいならお父さんとお母さんが教えてくれたから」
「ちぇー!じゃあ俺だけかよ。それじゃあ後で冒険者基礎の宿題写させてくれよな」
「自分でやれ」
「写すのは流石に。考え方なら教えますので」
「やっぱだめか……とりあえず行ってくるわ」
宿題を前に頭を抱えていたマグナだったが、次の授業があるということで先に移動を開始したアリアに続いて慌ただしく教室を出て行ったのだ。
残されたアレスたちは次のコマは空いているということで先ほどの宿題を広げ雑談を続けていた。
「ねえアレス君~!私もよくわかんないから教えて~♡」
「分かんないなら教えるからくっついてくんな!……っと?」
「メアリーさん?分からないところがあるなら私が教えるからアレス君から離れてくれない?」
「えー、でもソシアちゃんが教えてくれるならそれでもいいよ♡」
「というかこれ難しくも何ともないだろ。物理前衛2枚に攻撃と支援の魔術師を入れたパーティーを基本としてプラスマイナスを考えればいいだけだし」
「そういう基礎から教えてくれた方がありがたいじゃないですか」
「それもそうか」
「ねえ?今言った基本のパーティーってなんで基本なの~?」
「えっと、まずは物理と魔法のどちらかに偏っちゃうと耐性のある魔物に会った時に危険でしょ?だから攻撃魔術師は必要で、支援役もいるに越したことはなくて……それと……」
「魔術師は近接戦が苦手だから魔物を引き付けるためにメイン近接物理役が1人。後方を守ったりメインアタッカーを支援するための近接物理役がもう1人の計4人」
「あとはそこに任務に合わせて人を増やして幅広い状況に対応できるようにするのが基本ですね」
「皆頭いいね~。私もマグナほどじゃないけど頭は良くないからさ~」
「アリアが言ってたみたいに今から勉強すればいくらでも巻き返せるよ。ファイトだ」
自由時間にアレスたちはのんびりとした雰囲気で宿題を進めていた。
しかしそんな穏やかな時間の終わりを告げるマグナの叫び声が教室に響き渡ったのだ。
「大変だアレス!!来てくれ!!」
「どうしたマグナ!?」
「さっき下の階で、アリアが貴族たちに絡まれてたんだ!」
「はぁ!?すぐに案内しろ!!」
先程教室を出て行ったばかりのマグナが勢いよく扉を開けアレスに助けを求めたのだ。
それは同じく先ほど教室を出て行ったばかりのアリアが貴族たちに絡まれているというもの。
それを聞いたアレスはすぐに席を立ち急いでマグナお案内の元アリアを助けに向かったのだ。
そして当然すぐそばにいたソシアたちも少し遅れてアレスに続く。
「お前目の前でアリアが絡まれたんなら直接助けてやれよ!」
「ごめんよ!相手が2人だったからちょっと怖くて……」
「まあいい。見て見ぬふりをせず俺に知らせに来たことは褒めてやる」
マグナからトラブルを聞き教室を飛び出したアレスが廊下を走るころ、アリアはマグナの言った通りその下の階で2人の貴族に捕まっていたのだった。
「ふうん、君可愛いじゃん。今から僕たちとお茶でもどう?」
「あの、すみません。私はこれから授業があるので……」
「君、7組の人間だろう?授業なんて無駄なもの受けてないで貴族である僕たちの誘いに乗っておいた方が今後のためだよ」
「いえ、あの……」
「君たち!やめないか!!」
「っ!?」
他の生徒たちの目もあるような廊下の真ん中で、アリアは貴族の2人から執拗なナンパを受けていた。
自分たちの貴族の立場をちらつかせ強い言葉で拒絶の出来ないアリアを追い詰める2人。
それを見ている周りの生徒たちは貴族と平民のトラブルということで誰もアリアを助けようとはしなかった。
だが2人の圧にアリアが困り果てていたその時、人込みの中から凛とした女性の声が2人の貴族を制止したのだった。
「なんだてめえ、俺たちが誰だと……うっ!?」
「お前……いや、貴方様は……」
「彼女が嫌がっているじゃないか。貴族という立場を振りかざして他人に迷惑を振るい、恥ずかしくないのか」
「……行こうぜ」
人込みの中から現れたのは1組と同じ貴族クラスである2組の印をつけた1人の女子生徒。
整った顔に誰もが見惚れるような銀色の髪を青くて細いリボンでポニーテールにしている。
高身長でスタイルも抜群な彼女は貴族らしい気品と圧力を兼ね備えており周囲にいた生徒たちは自然と彼女に道を譲っていた。
そしてその女子生徒の顔を見た途端、先ほどまで強気だった2人の貴族は何も言い返すことが出来ずにその場を去っていってしまったのだ。
「えっと、あの!助けていただきありがとうございます!」
「いやなに、当たり前のことをしたまでだよ」
「アリア!!大丈夫か!?」
「アレスさん!もしかして、助けに来てくれたんですか?」
「ああ、そのつもりだったが……絡んできた貴族は?」
「それは、この方が追い払ってくれたんです」
「君は、彼女のクラスメイトだね?ふふっ、クラスメイトを助けるために駆け付けるなんて、とても正義感が強いんだな」
「いえ、そんな。俺の代わりにアリアを助けていただきありがとうございました」
「気にするな。それでは、私はこれで失礼させてもらうよ」
「おーい、アレス君!」
「おー、皆……ていうかマグナはなんでこんなに遅いんだよ」
「いや、むしろアレスが速すぎ……」
「アレスさん!アリアさんに絡んでいたという貴族は一体?」
「もしかして!アレス君ったら、もうやっつけちゃたの?」
「いや、それはあの……あそこの彼女が助けてくれたんだ」
「あれは……まさかフォルワイル家の!!」
「ジョージ、知ってるのか?」
「知ってるもなにも、あの人はエメルキア王国に数多く存在する貴族家の中でもトップに君臨する御三家の一角。フォルワイル家の長女ティナ様ですよ!」
「っ!あの人があの……」
ジョージから彼女の正体を聞かされたアレスは先ほどの対応を思い出し驚きを隠せなかった。
何せ相手はこの国の権力のトップに君臨する家の人物。
そんな家の人間は他の貴族たちとは比べ物にならないほどスキル至上主義なんだろうと考えていたアレスはその認識とのずれに驚かされていたのだ。
だがそんなアレスの耳に信じられない声が飛び込んできたのだ。
「ふんっ、御三家の面汚しのくせに。デカい顔をして歩きやがって」
「御三家の人間のくせにスキルも使えないで、フォルワイル家ってだけで調子に乗るんじゃねえ」
「雑魚スキルの平民を救ってそいつらから崇められて自尊心を保ちたいんかね?」
「おいおい、こりゃいったいどういうこった」
微かに聞き取れた会話は彼女を侮辱するような内容のものばかり。
御三家という皆から敬われるはずの立場の彼女があんな陰口をたたかれていることに、アレスは先ほどよりも大きな驚きを感じていたのだ。
過去一前回のあらすじを考えるのが大変でした。もうほとんど全部書いちゃった……
それはそうと、剣士キャラって王道ですけどやっぱり素敵ですよね。盾とか鎧を身に着けたキャラもカッコいいですが、個人的には剣1本の細身でスピード系の剣士が大好きです!




