婚約破棄?はい喜んで!私、結婚するので!
作者初めての短編です.....。
「フィリシア・ローデリー!そなたは私の寵愛を受けているアリスに嫉妬し、彼女に対し様々な虐めを行っていたそうだな。そんな心の醜い者には未来の王太子妃は務まらん。よってここに婚約破棄する!」
「はい、喜んで」
「......」
「.............」
「.....は?」
え、なに。
みんなしてぽかーんとしちゃって。
あ、もしかして今夜のパーティーの料理におかしなものでも混ざっていたのかしら。食べるとたちまち目と口を開けたまま固まっちゃうようなやつ。ぽかーんと草とか?なんちゃって。
「そなた...なにか勘違いしてないか?」
「はい?」
一足先にぽかーんと草の効果が切れた(そんなものは食べてない)私の元婚約者の王太子は私がおかしいとでもいいたげな表情だ。
「.....私はそなたをダンスに誘った訳では無いぞ?」
「はい。存じております」
何言ってんだ、この王子。さっき自分で言ったことも忘れたの?そうか!これが本当のぽかーんと草の効果だったのね!(だからそんなものは食べていない)
「ではなんだ?本当に私と婚約破棄すると...」
「はい。先程からそう言っております」
なんだか話が噛み合わない。
というか、どんどん王子の顔色が悪くなっている気がするんだけど…?あ、倒れた。
「シーザーさまぁ?!」
倒れた王子に駆け寄るアリス様。やっぱりでかいなぁ。何がとは言わないが、動く度にものすごく揺れてるけど重くないのだろうか?
それまで倒れた王子を介抱していたアリス様が私をキッと睨みつけた。
えっ、やば。もしかして見てたのバレた?私はちょっと普通の人と違うから婚約者にされただけで、元々平民の生まれだし、婚約破棄された今、この変質者が!とか言われて牢に入れられるとか洒落にならないんだけど?
「いくら、婚約破棄されたからって、あんまりですわ!」
いや、私なんかした?
するって言われて、はいって言った。
命令されて、はいって言った。
goと言われて、yesって言った。
うん。何も間違えてないはずだ……そうだよね?
「...私、今夜はもうお暇させていただきますわ。では、皆さん御機嫌よう」
誰かに引き止められると面倒なのでさっさと撤収する。アリス様の待ちなさいよ!とかいう声はきっと幻聴だ。そうに違いない。
もう淑女の作法とかどうでも良くなった私はドレスをたくしあげてそのままバルコニーへ出る。
血迷ったか!とばかりになにか勘違いしている連中がいるがどうでもいい。無視だ。無視。
そして大きく息を吸って、叫んだ。
「クラン!」
何してるんだこいつ。という目で見られた気がするがそんな人達も満月の月に照らされる黒い影がだんだん近づいてくるのを見て顔色を悪くしていく。
「り、竜だ!何故こんなところに!」
「逃げろ!王太子殿下をお守りしろ!」
そんなに怖がらなくてもいいのに。竜は竜でもクランは精霊だ。それも最上位の。
「呼んだか。フィリシア。」
「うん。ありがとう来てくれて」
だから、、マジかよあの女。みたいな目で見るなっての。そう思いを込めて後ろで怯えている人達に目を向ければひぃぃぃ…!と言われた。
おい。私は竜ですらないんだけど?あんたらと同じ人間でしかも年頃の女の子なんですけど?
「それくらいにしておけ。それで、今日は如何様で呼んだのだ?」
「ああ、婚約破棄されて都合がいいから、精霊王の森に行こうと思って」
「?よく分からんが婚約破棄をされたのか。まぁ、そうなるだろうな」
うん。今さりげなく私の事貶した?竜に婚約破棄されたの納得されるってどうゆうこと?そこは慰めるとかじゃないの?別に寧ろ有難かったし、慰められたいわけじゃないけどさ。
「とりあえず乗れ。精霊王の森へ行くのだろう?」
話を適当に流された気がする。まあ、乗せていってくれるならいいんだけど。
「じゃ、皆さんお元気で!あの王子にはおっぱい好きも程々に、と伝えておいてください!」
私がそう言うと、クランは大きな翼を二回上下に動かし、その巨体を宙に浮かせるとそのまま旋回して私を乗せて飛び立った。
後にこの出来事は、廃嫡となった王太子の黒歴史エピソード100という本の代表的な話として有名になった。
ーーーーーー
「それで精霊王の森に行ってどうするのだ?」
「ん?ああ、結婚するのよ」
「そうか、結婚するのか……はあ?!」
「おおっと.....!ちょっと、危ないじゃない!」
突然空中でバランスを崩したクランの背に乗っている私は危うく落とされそうになる。
私を殺す気か。
「結婚、って精霊王の森に人間はいないぞ?!」
何を当たり前のことを言っているんだ。この竜は。もしかしてクランもぽかーんと草を食べたのだろうか。
「相手が人間じゃないから、精霊王の森に行くのよ」
「はああああああ?!?!?!」
「煩いわね.....それに、都合がいいと言ったでしょ。」
「どういうことだ?!」
そんなに鬼気せまらなくても良くない?まるで、私がなにか大変なことをやらかしたみたいに。
「妊娠してるのよ」
「...............ああ、精霊王の森のケルベロス夫妻がな」
「何言ってるのよ?私に決まってるじゃない」
「本当に何しとるんじゃぁぁぁぁぁ?!?!」
またもや、クランがバランスを崩す。けれども、私が妊娠しているということはギリギリ頭の中にあったのか、注意される前に安全な飛行に戻った。
「子供の父親はあの王太子か?!ならば婚約破棄など簡単にするべきではなかろう?!」
「そんな訳ないでしょ。お腹の子はこれから結婚する相手との子よ」
どれだけ勘違いするんだ。
いくらなんでも、これから結婚する相手の元に違う相手との子供を妊娠して行くわけないのに。それはさすがに非常識だろう。
「あああ、相手は誰だ?!ドライアドか、フェンリルか、はたまた五大属性の上位精霊の誰かか?!」
全くいくらなんでも驚きすぎたろう。そもそもドライアドは女型しかいないし、フェンリルに至っては人型すらとっていない狼だ。クランは一体私をなんだと思っているのか。
「というか!お主は七歳から今までずっと王太子の婚約者として王都で暮らしていただろう?精霊王の森を飛び出して辺境の村で五歳のお主と出会った我はともかく、他に知り合いなんていないはずだ!」
「うん、そうだよ?」
クランの言う通り私は辺境の村で生まれた。その近くの森で上位精霊であるクランに出会った。まあ、そのことは私と元婚約者の王太子を無理矢理婚約させた国王も知らなかったはずだから、決定的な理由では無い。では何故かというと、竜やフェンリルといった上位精霊は滅多に精霊王の森から出ることは無い。クランに関しては本当に稀なケースだ。しかし、精霊王の森以外でもよく見かけることの出来る精霊がいる。それが下位精霊だ。よく見かけるといってもそれは私だからであって、普通の人は人生で数回見れたらラッキーくらいなものだ。けれど、私にはその下位精霊がそれはもうわんさか寄ってくる。それに関しては心当たりしかないのだけど、精霊を集める少女の噂を聞きつけて私を王太子の婚約者にしたというのが事の顛末だ。
つまり、私はそもそも人型の精霊に知り合いがいないということになる。下位精霊に関しては、自我もなくふわふわ浮いている光のような存在だ。それを恋愛対象としては、さすがに見れないしね。
「ま、まさか、我か?!いくら我が人型をとれるからといって、お主と結婚する気はないし、妊娠させた覚えもない!」
「私もあんたに妊娠させられた覚えはないわよ」
とうとうクランは本格的に頭がおかしくなってきたようだ。誰のせいだよ。って私のせい?いやでも、勝手に妄想膨らませて混乱してるんだから自業自得じゃない?元を辿れば私のせい?あー、もしかすると、そうかも。ごめんって。
「なら誰なんだ!お主を娶るとかいう奇特なやつは?!」
「てゆうか、自分の子供と結婚する訳ないでしょ。馬鹿なの?」
「ああ、確かに!それはそうだな」
全くそんなことすら分からないなんて。頭の働きちゃんと機能してる?
そう思ったところでまたもや竜の咆哮。
「はああああ?!?!やはり頭がおかしくなったか?!我はお主に産んでもらった覚えはないわ!」
「そりゃそうよ。あんたまだ小さかったし覚えてないでしょうね」
「そもそもだ!我の父は精霊王だぞ!母が亡くなってからこの千年誰も娶ることはなかった!ましてお主は人間、どう考えてもおかしいだろう?!というか、精霊王と結婚する気なのか?!」
「だからそうだって。あんたの言うところの私を娶る奇特なやつはあんたのお父様よ」
全く...一体誰に似たのよ.....。
ああでもそういえば……
「クランにとっては初めての弟か妹になるのね。」
千年前に上位精霊が生まれてからそれ以降、精霊王の実の子供である上位精霊は生まれていない。そして千年前。最後に生まれた上位精霊がクランなのだ。
当の竜はもう限界だ...わけがわからん.....と何やらブツブツ言っている。
「つまり、千年前に精霊王の妻だった私はその時も人間だったから上位精霊を何人か産んだ後はそのまま寿命でぽっくり逝っちゃって、最近前世の記憶を持ったまま生まれ変わったって訳。生まれ変わったのはあれね。あの人が私の魂を少し弄ったのね」
「..........」
「お母様って呼んでもいいのよ?」
「勘弁してくれ...下さい.......。全く話についていけないので.....」
本当に疲れた様子のクランに話してなかった私がいけないのか?と思う。けど、私知ってるのが当たり前だと思ってたし!何よりあの人が千年もある長い時間の中で一回も私について伝えてなかったのが悪いと思う。うん。私、間違ってない。
そうして短いようでとても長い空の旅は、精霊王の森に着いたことで終わりを告げた。
ーーーーーー
フィリシアが精霊王の森へ来てから一週間後。
千年ぶりに精霊王の森で上位精霊が誕生した。
それも母が腹を痛めることも無く、光となって腹から出てきたと思ったら産声をあげた。しかし、そうでなければ人の身で何十人も子供を産める筈がなかったのだ。
「クラン、妹が産まれたわよ」
「名前はルーア。フィリシアに似てとっても可愛いだろう?」
そう言って微笑む精霊王はクランが物心着いてから九百年の中で今まで見た事がないほど幸せそうな顔をしていたという。
それから先、母は何度か妊娠した。父曰く母に力を注げばいいのだそうだ。そこで納得した。父は離れている母に勝手に力を注いで妊娠させていたのだと。それがいいのか悪いのかは分からないが、両親が幸せならそれでいいのだろう。
それから80年後、母はまた寿命で亡くなった。
けれど、また千年後に人間として記憶を持ったまま生まれ変わる。そして生まれ変わった母を迎えに行くのが我の役目だ───。
楽しんでいただけたでしょうか?
短編を書くのは初めてで本当にこれで良かったのか?という感じです笑
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