0007. ギルマスとの面談は希望してない
冒険者ギルドで、登録と狐火ちゃんの召喚を軽くしようと思っていたのに、なぜか個室に通され支部長を待つことになってしまった。なぜこうなった。
早く狐火ちゃんに会いたいって思っていただけのに、残念な気持ちしかなくだいぶ落ち込んでいる。
こんな状況になったのも全部ギルドでやらかしをしてしまったあのプレイヤーのせいだ。あんちくしょー、今度会ったら、ただじゃおかないぞ(どこの誰か知らないので会ってもわからないし、たぶん八百幻も辞めるだろうから会うことはないが)。
あぁ~、他のプレイヤーは冒険者登録が終わったら、クエを受けて楽しんでいるんだろうなぁ〜。部屋に居ても、やることがないので独り言を言いながら、みんなが楽しでいるのをやっかんでいると、部屋のドアが叩かれた。
「琴音さん、いらっしゃいますか。入っていいですか」
そう言って、部屋の中に先ほど受付でフォローしてくれた女性が入ってきた。
「先ほどはきちんと挨拶せず、失礼しました。私、若菜と申します。支部長が空きました。まずは支部長室にお連れてお話をしていただきますので、よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をしてくれたが、支部長室に行くとの話で、また気分が下ってしまい、ちゃんと返事しないまま、ムスッと立ち上がって部屋を出てしまった。大人げないかもしれないが、それくらい気分が悪いのだ。
「琴音さん、支部長室は逆です。私についてきてください」
ホールに戻るつもりで歩き出したが、逆と言われ、若菜さんの後について、支部長室まで行く。ちょっと恥ずかしい。ムスッとしながら歩いているのに、道違うって、後ろから言われてしまったから。
若菜さんは支部長室に着くと、ドアをノックして開けて、
「支部長、琴音さんをお連れしました。あとはよろしくお願いします」
と言い、私の入室を促して、ドアを閉めた。
部屋の中には、男の人が1人だけいる。ちょっと下を向いているので、顔はまだわからないが。
「そんなところに立ってなく、こちらに来て座ってくれ。ちょっと話を聞きたいだけだから、すぐに終わると思うぞ」
着席を促されたのでソファに腰を掛けるが、支部長の姿を見て、驚き少し固まってしまった。
支部長と思われるその人は私の反応を見ながらも、いつものことなのか、気にせず自己紹介を始めた。
「わしの名は、ヨルムじゃ。見ての通り、龍人じゃが、お前さん達の中にいる竜人とは違う種族になるぞ」
今回、初期選択できる竜人をマジマジとは見てないが、町の入口や冒険者ギルドの受付に並んでる時にいた竜人族は、目の前の支部長に比べると人とのハーフ、いや、クォーターぐらいにしか見えない。これはもしかすると種族進化もあるのかも知れないな。もしそうなら、楽しみな事が1つ増えたかもしれない。とりあえず、それはさておき挨拶はしておかないとね。これ以上、変に時間を取られて、狐火ちゃんとの時間を減らしたくないのだ。
「ご丁寧にありがとうございます。私は人族の琴音と言います。今日、初めてこのギルドに冒険者登録をしに来ました。なにか、受付で登録作業をしてもらうときにカードの色で驚かしてしまったようで、申し訳ないです」
「わざわざ来てもらってすまぬ。カードの色のことはそこまで気にすることではないが、念のため、このカードをもう一度触ってもらえぬか。目の前で確認したくてな」
「構いませんよ、カードを普通に取ればいいですか、何かする必要があれば、言ってください」
最初に渡されたカードだと思うが、普通の白い無地のカードになっている。触るだけなら、さっきもなんともなかったので、普通に差し出された箱の中から、カードを取り出す。
「いや、特になにかする必要はない。ただ、しばらく持っていてもらうだけで大丈夫じゃ」
そう言われたので、カードを持ってしばらくしていると、カードの色が変わり始め、先ほど受付に渡したときと同じ色になった。受付に並んでたときは、周りの様子を見ていたから、色が変わるところを見てなかったんだけど、こんな風に徐々に変わっていくもんなんだね。
「うむ、これで間違いは無い様じゃ。幻獣を召喚するとなると初回は見られないほうがよいかもしれぬな。若菜、すぐに1番広い訓練場を閉鎖して、誰も入れないように入口を固めてくれ。準備でき次第、我々も訓練場に向かうぞ」
廊下に向かって声をかけると、了解しましたと声が聞こえ、バタバタと走って行ったようだ。若菜さんはわざわざ廊下で待機をしていたようだ。なんか、徐々に大事になっていく。はぁ~、気分が滅入るわぁ〜。
それからしばらく、雑談をして待っていると若菜さんが、戻ってきて準備できたことを報告している。
「支部長、A訓練場の閉鎖が終わりました。念のため、隣のBも一緒に閉鎖してあります。それとA、Bの訓練場の入口とそれにつながる廊下の入口にも人を配置しておきましたので、盗み見をされることは無いかと思います」
うぉ、めっちゃ大事になっているし、そこまで気が付いて準備している若菜さんってすごく優秀な気がする。普通、言われたことしかしないでしょ。
「さてと、準備が整ったようじゃな。それじゃ、琴音、訓練場に行くかな」
こんなに仰々しくなくていいんだが、しょうがない。言われるがままに、ヨルムさんと若菜さんの後について行くが、かなりの大事になっているので気分も足取りも重い。