7.私は二学年にあがり、交換留学生がくる
二年生になった。
今年度から隣国からの交換留学生が来ている。
隣国の学園から毎年、数名こうしてやってくるのだ。
私もこの国にいるよりはいいのでは……と留学を希望したのだが、「悪女を隣国にやるわけにはいかない」などという謎の言葉を言われて駄目だった。評判の悪い私が隣国に行って、この国の評判を落とすことを危惧されたのだ。
本当に王族に嫌われてしまっていると言う状況だと、色々とやりたいことがままならないものだ。隣国に行けたら良い経験になるだろうし、嫌われ者の私でも楽しい学園生活になるかと思ったのに。
お父様とお母様からは婚約できそうな方はいるかと手紙が来る。もちろん、いないと答えている。お父様とお母様は親の欲目から私が可愛くて仕方がないらしいけれど、私は嫌われ者だし、そういうのは多分あり得ない。
二年生に上がってやってきた交換留学生は平民の方もいた。その一人の平民は、私ににこやかに挨拶してきた。
黒髪、赤目のイフムートという男だ。
眼鏡をかけていて、目立たない感じの人だ。でもその眼鏡が認識阻害の魔法具のように見えるので、何かしら事情があるのかもしれない。
「よろしくお願いします」
「……わたくしに話しかけない方がよろしいですわ」
人前で話しかけたので、平民ならば私の噂を知らないのかもしれないと思い、私はそう言うだけにとどめた。
だって私に話しかけたからという理由で、この人まで大変な扱いになったら嫌だと思ったから。一言だけ言ってそっぽを向いた私は印象が悪かっただろう。
……だけど、驚いたことにその男はそれから数週間後に図書館で勉強をしている私に話しかけてきた。
「人前じゃなかったらいいですか?」
「……わたくしの噂は知っているのではないですか? 周りから言われたのでは? わたくしに話しかけない方がいいと」
「言われましたとも。でも俺は貴方と話したいと思った。駄目ですか? それとも俺が平民だからシェフィンコ様は俺と話してはくれませんか?」
「いえ、そういうことではないわ。貴方の立場が悪くなってしまいますわ。嫌われ者のわたくしに話しかけないほうがよろしいかと」
そう言った忠告をしたら、何故だか彼は笑っていた。
――驚いたことにそれから、誰もいない場所でだけ、私は彼と会話を交わすことになる。
イフムートと話さない方がいいことが分かっておりながら、誰もいないし、誰かと話せるなら話したいと、結局図書館に行ってしまった私であった。本当に不味い状況になったら突き放そうと決意する。
あと交換留学生だけではなく、もう一つこの学園を賑わすことがあった。
それはとある伯爵家の庶子――元平民の庶子がこの学園に転入したことである。平民でもなく、貴族としての教育を受けていない伯爵令嬢。なんとも微妙な立場であると言える。
私が自分の立場に置き換えてみると、平民だったのに突然、学園に通うことになったとなるととても嫌である。気まずいし、そういうのは望まないだろう。
それだけ平民と貴族は違うのだ。
なんでも伯爵家当主が以前にお手付きしてしまった侍女の子供らしい。侍女に手を出した伯爵。そして身籠った侍女。そのまま侍女は姿を消し、伯爵に知られないように子供を育てていたらしい。
伯爵に迷惑をかけないように……というのと、正妻が侍女に何かしそうだったかららしい。それはそうだろう。正妻からしてみれば自分がいるのに侍女に手を出されたら怒り狂う人は怒り狂う。
それにしてもその侍女もそうやって逃げるよりもやりようはあったのではないか……とは思うけれど、そういうことを起こしてしまったものは仕方ないだろう。
ちなみにだが、正妻が亡くなった後、奇跡的に親子の再会を果たして引き取ることになったらしい。正妻の子供からしたら面白くないのでは? と思ったが、噂では可愛がられているらしいのだ。
それにしてもクラスは違うのだが、こうして平民だったのに急に二学年から学園に通わされるとか、中々その子は大変だと思う。私が嫌われ者という立場ではなかったら学園生活を暮らしやすいように手伝いでもしただろうが、私が話しかけたら逆効果なのでそういうことは行わない。
ということをイフムートに言ったら、
「シェフィンコ様は優しいね」
などと言われてしまった。