6.私は嫌われたまま一年を終える
一学年が終わった。
この一年、私が何を言おうとも私の悪評は覆らなかった。寧ろ何か言ったら悪化するものなのだ。
平民の少女から何か伝わったのか、平民たちは私の名を出して、上手くこの学園で生きていけているらしい。良かったと思う。平民の子たちの私を見る目に冷たさはない。あと一部の下位貴族にも。
ただ彼らもこの学園内では一番下の身分なので、王侯貴族に総じて嫌われている私に話しかけることはない。ただミロダ経由で「ありがとうございます。感謝しています」というあの平民の少女からの手紙は受け取ったけれど。
私はこの一年、学年首席で終える事が出来た。
それに対して「不正でもしたのだろう」などと言われてしまった。しかもどういう妄想をしているのか、「その身体を使ってたらしこんだのだろう」みたいにあの王子様に言われた。
……私の胸は一般的に見て大きいらしい。
パーティーでドレスを着ていると、私のことを嫌っている割に胸に視線を向けられることがあったしね。ああいう視線って嫌だよね。
それにしても一般的な貴族の令嬢は、淑女として性に奔放でないようにとされているから私もそういうことをするわけないのだけど……。そもそも私は口づけさえも誰かとしたことがないのに。
それにしても王太子妃はこの学園を既に卒業しているのに、私のことを不正していると思い込んでいるらしい。あの王子様がそういうことを言っていた。同じ時期に学園に通っているわけでもないし、私は王太子妃にも第二王子殿下にも近づく気は全くないのだから放っておいてほしい。
私の動向をそんなに気にしているなんて、寧ろ王太子妃はなんなのだろうか? とそんな風にも思ってしまう。
私は大変大人しく真面目に授業をこなしていた。そもそも誰とも話さないから誰かともめることもないしね。
教師からの評判も悪くはない……と思う。一部の教師は王太子妃至上主義なのか、色々言ってくるけれど。それにしても大貴族の三男で、この学園の教師という立場で、私の事を王太子妃の言葉を信じて決めつけているのは本当にやめてほしい。
下位貴族の教師の方たちに同情的な目で時々見られた。
学年首席だと生徒会に入るのが基本的に通常らしい。ただ次年度の生徒会は、王子様とその友人たちになるので、私はそもそも生徒会長になる予定の第二王子に拒否られた。私も拒否する予定だったから問題はない。
そもそも自分を嫌っている人たちの巣窟にわざわざ足を踏み入れようなどと私は思っていない。何故か王子様は私が生徒会に入りたくて仕方がないと思っていたみたいだけど。
「残念だったな。不正をしてまで生徒会に入りたかったのだろうが、お前のような者を生徒会になど入れられるはずがない! 観念しろ!」
「わたくしは不正などしておりません。そして生徒会に入りたいとは全く以てそのようなことは思っておりませんわ」
「本当に厚かましい嘘をつく女だ。義姉上が言っていた! お前はこれから暴走するのだと。しおらしくしていても演技だとな」
「演技などではございません」
「口では何とでも言える!」
王子様は耳が聞こえないのだろうかと私は正直思ってしまうものだ。
そもそも王子様と関わりたくないと私は思っていて、自分から近づいたこともないのだ。ただ目の前を通った時に絡まれる程度である。嫌いならば放っておけばいいのに。
そういえばドジータ様は、学園で好き勝手しているという噂が出ている私とは対極の評判だ。私が好き勝手しているのをおさめているということらしい。
やってもいないことで、ドジータ様にも絡まれてしまうことがある。ドジータ様は私の噂を全部信じ切っているわけではなく、ただ彼女はしたたかで貴族らしい貴族なのでそういうのを利用して自分の評判を上げているだけである。
そういう貴族達からしてみれば私という存在はありがたいだろう。自分がやったことでも都合の悪いことは私のことに出来るのだから。
「一年なんとかやり切ったわね。いつもあの王子様が私が来年から暴走するっていう訳の分からないことを言っていたわ。何か変な言いがかりでもつけられるのかしら……?」
「本当にあのぼんくら王子は!! お嬢様は慎ましく平民になろうとしているのになんて勘違いを……」
「ミロダ、私のために怒ってくれてありがとう。お父様たちにも相談はしているけれど、学園内だと何か起こされると困るわね……」
学園内だとお父様たちもすぐに手を出せないだろうから、変な言いがかりをつけられたらどうしようと悩んでしまう。
でもまぁ、頑張るしかない。