私はこの国での生活を満喫している ⑧
医療施設の中には、想像していたよりもずっと多くの人達が居た。これだけの人数が家に帰宅することが叶わず、病に倒れているんだ……。
そう思うと、何とかして問題を解決しなければならないとそんな気持ちでいっぱいになった。
奥の部屋へと向かい、施設長から話を聞くことになった。
向こうは派遣された文官がまだ若い私達であることに不安を感じているようだった。特に私のことをじろじろ見ていた。……こういう視線も仕方がないことだとは分かっている。
私は学園を卒業してそんなに経っていない若い娘でしかない。職場の人達は、私がイフムート様と友人だとか、そういう色眼鏡を抜きに見てくれているけれどもちろん、そういう人たちばかりではないのだ。
これまで文官として働いてきて、それは十分に理解が出来た。
ただこのような視線を向けられていたとしてもそこまで気にならない。バーシェイク王国で過ごしていた頃のことを思うと、それよりはずっと楽だ。
……学園に転入してからというものの、元王太子妃の影響で私は普通の学園生活が出来なかったから。
あの時と同じで、嫌な視線は向けられている。それでも私が頑張れば、きちんと結果を出せるはず。
当たり前の事と言えばそうなのだけれども、この国では私が行動した分だけ事態が好転していくのでやりがいがとてもある。何を言っても、何をしても向こうの私への評価が変わらないなんて――異常な状態はあり得ないのだ。
「倒れている方の共通点は、こちらで調べた限りは分かりません。聞き込みはしていますが、話を聞けるだけの体力を持っていない方もいるので……」
施設長は眉を顰めてそう口にする。
彼としてみれば、自分の住んでいる街でこのような事態になって大変なのだろう。私に対しては不躾な視線を向けてはきているが、患者の為に一生懸命働いているらしいとは聞いている。
ただでさえ日に日に患者が増えていって大変だろうから、私達のような文官の相手などしていられないとでも思っているのかも。……私や同僚は、今の所期待されていないのだろうな。
私達が病の原因を解明することが出来るなんて思ってもいない。
寧ろ私達の面倒を見るのが手間だと思われているのかもしれない。
その評価を変化させるには、行動で示すしかない。
「そうなのですね。私達は何をしたらいいでしょうか? 施設長様としては、どういった部分を調べて欲しいと思っておりますか?」
「……自由に調べていただいて構いません。ただ何か行動を起こす際にはきちんと許可は取っていただきたいです。貴方達の行動で状況が悪化することだけは避けたいので」
私達に対して目の前の彼は、期待していないからこそこんなことを言うのだろうな。
ただ余計なことをしてほしくない、最低限の仕事をして去って欲しいとでも思っているのかも。
寧ろ私達が状況を悪化させるのではないかとさえ思っている。
「はい。分かりました。患者たちに聞き込みをしたいので、此処で働いている方々のお手伝いをしてもいいですか? 医療の心得はないですが、何か少しでもお役に立てればと思います」
私がそう問いかけると一瞬驚いた顔をされたけれども、許可してくれた。
後から同僚に言われたけれど、私が貴族の子女に見えるからこそ向こうは驚いているのだろうなという話だった。
私は元々平民として生きていた。ただお父様に引き取られてからは、貴族としての教育をきちんと受けた。それらはちゃんと私に身についているんだなと思うと何だか嬉しい。
私はこの先も、このまま文官として生きて行くつもり。結婚相手とかにもよるだろうけれども、伯爵令嬢という地位はあってもこのまま平民と変わらない暮らしはしていきそう。
ただこうして身に着けたものって、いつか役に立つかもしれれない。
そもそも貴族令嬢として生きていたとしても、文官として働くのならばこういう現場でも構わず働くのは当然のことだとは思う。ただこうした反応を見ると、貴族だからと地位について実際に働かない人って多いのかもしれない。
そんな人を目撃したらどうするべきだろうか?
イフムート様に報告して判断を仰ぐのが一番良さそうよね。仕事をしている風でしていないとか。何も進んでいないとか。
それが一番駄目だから。
そんなことを思考しながらも私は病に倒れている人達の世話をすることにした。医療的なものは何一つ分からないので、医療従事者から頼まれたことを淡々とこなすだけだ。
なんというか、中にはあたりが強い人も居た。
私や同僚のことを邪魔だと思っているのかもしれない。早く王都に帰っていけばいいと、そんな風に考えていそう。
流石に患者たちの命に係わることがないように、問題ない程度の行動だけれども。
患者の中には、自分の命を諦めてしまっている人も居た。
年老いてからの病だから、このまま亡くなってしまっても仕方がないと思ってそう。
無理して生きてとは、私は言えない。ただ命はたった一つしかないものだから……出来れば諦めないで元気になってくれればいいなとそればかり思う。
「おばあさん、私と一緒に遊びましょう?」
私はそう口にして、ちょっとした手遊びを一緒に行ったりする。出来れば弱々しい姿ではなくて、元気な姿を見たいなとそう思って。
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