4.私はどうせ嫌われ者なので。
「平民の癖に生意気だ」
「あの方の――」
私はその日も優雅にぼっち生活を送っていた。
周りからの陰口を常に聞くのは嫌な気持ちにはなるが、私が公爵令嬢なので嫌がらせなどは起きないのでまぁ、いいかとマイペースに暮らしている。
ちなみにもう入学して数か月経っている。友達はゼロである。取り巻きみたいな子もゼロである。
第二王子の婚約者になるのでは――と言われている筆頭の公爵家の令嬢のドジータ様なんて令嬢たちに囲まれてさながら女王様みたいになっている。ああいう派閥って怖いよなーって思う。
それにしても同じ公爵家の令嬢でありながら格差がありすぎてうわーってなる。
そんな中で私は何だか嫌な感じの言葉が聞こえてきた。恐る恐る覗いてみたら、平民らしき少女が貴族に追い詰められていた。
虐めというものだろうか。
この学園は優秀な平民やお金持ちな平民も通っている。基本的に貴族社会が縮小されているこの学園で平民はとても生きにくい。
それにしても権力を使って平民を追い詰めるなんて何をやっているんだろうか。目指せ平民な私の目から見ても貴族としての誇りは何処にやったのだろう?? って思う。
このままスルーしておくこともできた。
だけど正直こういう場を放置していくのは寝覚めが悪い。……益々私の立場は悪くなるかもしれないが、仕方がない。
私はそう思って彼らに話しかける。
「何をしてらっしゃるの?」
「……オティーリエ・シェフィンコ」
「貴方には関係ないことですわ」
「あら、貴方伯爵家の方ですわよね? わたくしが呼び捨てにされる謂れはございませんわ。それに関係ないことはございません。そこの平民の方は、わたくしたちと学びを共にする方ではございませんか。何を理由にしているかはわかりませんが、このように平民にわめきたてるのはとても美しくございませんわ」
正直貴族としての言葉遣いは、疲れる。
私はもうすっかり平民言葉に染まっているのだ。だけれども、王侯貴族の学園に通っているので、まぁ、仕方がないことだろう。
それにしても幾ら私が嫌われ者だったとしても、身分というものは絶対的なので、ちゃんとその辺はしてほしい。
「――オティーリエ様、貴方には関係ないでしょう!」
「わたくしにとっては関係がありますの。目の前でこういう美しくない行為をされると不愉快だというのがわかりませんこと? 学園内では、そういう身分を笠に着るやり方は望まれておりません。今ならばまだ見逃しますわ。すぐにおやめなさい」
この学園では、身分は関係なしに交流を図るというのが一応の学園の趣旨である。とはいえ、もちろん、身分が完全に関係ないことはないけれど。
それは権力を行使して、下位の貴族や平民をこのように追い立てる行為を望ましくないと言っているのだ。身分の低いものを守るためにも、そういうことを学園は謡っている。
それでもやっぱりこういう行為はなくならないらしいというのだから、本当に貴族社会は陰湿なものだ。
私の言葉に彼女たちはいなくなった。
とりあえず私の言葉でやめてくれてよかったとほっとする。
「……大丈夫ですか」
「え、は、はい。あ、ありがとうございます!」
その平民の少女は、委縮していた。私が嫌われ者の、あのオティーリエ・シェフィンコだと知っているからだろう。青ざめた顔をしている。
「貴族として当然のことをしたまでです。貴方、このような真似は結構されているのですか? 理由は?」
「わ、私が……授業で目立ってしまったので……」
「まぁ、そのような理由であのような真似をされてしまったのですね。教師の方に相談するなりしたほうがよろしいかと思います。もし物品破損などありましたら、学園に訴えれば補償もされるはずですよ」
「……え、いや、しかしそんなことをしたら」
「あの方々ににらまれてしまうことを恐れておりますの? でしたらわたくしの名前を使って構いませんわ。腐ってもわたくしは公爵令嬢ですので。わたくしの名を出せば彼女たちも率先して貴方を虐めはしないでしょう」
「え、で、でもそんなことをしたらシェフィンコ様が……」
「わたくしは良いのです。わたくしがそれであらぬ噂を立てられたとしてもそれは今更ですもの。わたくしは貴方もご存じの通り嫌われ者ですので」
そう言って微笑めば、驚いた顔をされた。
それだけ言って私はその場を後にする。
私と深くかかわってもこの平民の少女が面倒な立場になるだけである。私の名前を出せば一旦は嫌がらせもやむだろう。もしかしたらあの令嬢たちは風評被害を恐れて私のせいに全てをするかもしれない。
でもまぁ、それはそれだ。
私はもうすでに嫌われ者で、王侯貴族間での評判なんて地に落ちている。
今更なので、私の評判が落ちてもそれはそれなのだ。それよりもこう言う真似が少しでも減ってくれればそれでいい。私もこういう不愉快な事が学園で起きているというのは嫌なのだから。
それでまぁ、案の定、私が平民を虐めていただとか噂が出回っていた。あの平民の少女は否定していたらしいけれど、当たり前のように信じられなかったらしい。
あの王子様がわざわざ「あいつに脅されているのだろう。俺は分かっている」とか知ったかぶりな事を平民の少女に言って、それが真実になってしまったようだ。
一度少女と目が遭った時に滅茶苦茶頭を下げられたが、私は気にしないでとでもいう風に頷くだけにとどめた。