私と、可愛い生徒たち ④
「オティーリエ様、ごきげんよう」
今日はマドットとは別の生徒の元へと来ている。今年十三歳になる女の子である。少しだけ引っ込み思案だけれども、所作が綺麗で可愛い女の子だ。
大人しい雰囲気の、茶色の髪の少女の名はリュヌネアという。
お姉さんが二人いて、末っ子なのだという。その二人のお姉さんたちとも仲良くさせてもらっている。最初は少し警戒されていたけれども、今では私と仲良くしてくれていて妹であるリュヌネアの家庭教師もやらせてもらっているのだ。
そうやって私と仲良くしてくれる方がいてくれることも、私にとって嬉しいことだ。
新しい出会いと、新しい交流関係。それを思うだけでいつもワクワクした気持ちになる。
「ごきげんよう。リュヌネア」
私が笑いかければ、小さく笑ってくれる。
何だか庇護欲を誘うような雰囲気の少女で、私も何だかほんわかとした気持ちになる。リュヌネアとの授業は、マドットとの授業とはまた違う雰囲気の授業の進め方になる。
「リュヌネア、先日はここまでやったから今日は――」
「はい」
どちらかといえば大人しい女の子だけれども、自分の意志がないというわけではない。誰かに流されるままではなく、ちゃんと自分の意見を言える強さは持っていて、そういうところが素敵な女の子だと思う。
私が間違ったことを言えば、それに対して「違います」と言える女の子だ。私も勉強はしてきたけれども、それでもまだまだ学び足りないことが沢山あるのだとこういう授業の中で実感する。
人生において、勉強を終えたって満足する瞬間はきっとないのだろうなとは思う。
「リュヌネアは劇場に行くのが好きなのよね」
「ええ。とても楽しいです」
このクレバス王国では劇場文化というか、劇や歌のお披露目などがとても盛んである。他国からも見に来る人が結構いたりするのだという。リュヌネアはそれを見に行くことが好きなのだという。歌もとても得意で、歌の勉強を一緒にしたりもする。
このクレバス王国に伝わっている歌の意味や成り立ちを勉強したりもしているの。そういうものはそこまで私は詳しくないから、余計に楽しい。
そういう古くから伝わっているものには、この国の歴史などが潜んでいたりする。新たな歴史の発見もあったりもするから、こういうものを知るのも楽しいってそう思う。
「でしたらこの前から演じられている『小さき姫と騎士』は見ましたか?」
「見ました。あの劇の素敵さは、子役の方の感情表現がとても素敵で……っ、本当にいいなぁって思いました」
リュヌネアは、そういった劇場で働いている女優さんたちのことも詳しい。一緒に授業と称して見に行って、そしてそれを題材にして議論を交わしたり――そういうのも楽しいのよね。
その劇はこの前イフムートと一緒に見に行ったのだ。
私はただ楽しんで見ていたけれども、リュヌネアはもっと違う視点でその劇を見ていたりもする。
なんだろうイフムートが紹介してくれたり、私自身が仲良くなって生徒にすることになった令嬢たちってそういう好きなものに対して一生懸命な子たちが多い。
例えば、家具がとても好きでそういう知識を持っている子だったり、王都の流行を誰よりも仕入れていたり、乗馬が趣味の子だったり――。私も沢山の経験をして、沢山のことを学ぶことが出来ている。
こうやって楽しそうに生きている生徒たちを見ると、自分の昔を考える。
私が同じ年ごろの頃は、どうだっただろうかと考えると、此処まで将来に希望を抱いていたわけではなかったななんて思った。平民の友人たちが沢山いて、楽しかった。だけれども、嫌われ者という状況だったからこそ、悩んでいることも沢山あった。
私は授業の中で、噂に惑わされないように――というのはよく伝えている。私が散々噂や一人の存在の言っていた言葉に振り回されてきた人生だったから。
私がそうやって嫌われ者と言われていたことに、生徒たちは驚いた目を向けてくる。私と接していて、“嫌われ者”だとか“悪役令嬢”だとか言われるように見えないって言われる。
でもそれでも私がそういう風に言われていたのは事実で、私の過去の一部だ。
私の可愛い生徒たちが、私と同じような目にあったら悲しいと思う。私と同じような目にはあわずとも、同じように誰かの言葉に影響を受け、そういう態度をされてしまう時は全力で味方になりたいとも思う。
私はそんな気持ちを抱えながらも、可愛い生徒たちの先生として授業を行うのだった。
隣国に行った後のオーリーです。次は他視点になる予定です。
『お知らせ』
嫌われ者の公爵令嬢。コミカライズ決定しました。