私と、可愛い生徒たち ②
「オティーリエお姉様、今日は何を教えてくださるの?」
マドットはそう言いながら、私のことを無邪気に見る。
その様子がとてもかわいらしくて、私は思わず笑ってしまう。
マドットの部屋はとてもかわいらしいものに溢れている。ぬいぐるみだったり、小物だったりそういう部分にマドットの好みが現れている。
そのマドットの部屋は、私の教師としての仕事を行う場所である。
「そうね……何にしましょうか。マドットはどんなものを知りたいかしら?」
マドットに教えるものは、様々なものである。令嬢としてのたしなみや、貴族としての生き方といったものも当然教えている。
だけれども、私は学びというのは楽しみながらやってほしいと思っている。
だからこそ、マドットがどんなことを学びたいかというのを聞いた上で進めることが時々ある。
私自身が、独りぼっちで、誰も仲良くしてくれない中で本を読み、何かを学ぶことに対する楽しさを知って学んできた。そういう学ぶ楽しさというか、知る喜びみたいなのを知っていった方がきっと未来に繋がっていくと思うのだから。
そういう教え方は、結構私の教え子たちには好評である。
「わたくしが知りたいこと……そうですわね。今、興味があるのは、カッチヤの染め物かしら!」
「カッチヤ地方についてですか。私も知っていることは少ないので、一緒に学んでみません? 一緒に図書館に行って、学んで互いに発表会をするといった形の学び方するのも楽しそうだと思うのだけど」
生徒の学びたいと思ったことが、私が知らないことの場合も当然ある。
私はこの国にやってきて間もなくて、事前に勉強をしたり、この国にやってきてからもこの国を知ろうとはしていても足りないことはある。
私は家庭教師という仕事をしているが、それは決して一方的なものではない。私自身も生徒たちから学ぶことが沢山ある。こうして貴族の子女と交流することで、私はこの国にもっと馴染んでいけているし、交流を深めてこの国で生きていくための繋がりを作っているのだ。
多分イフムートはそういうことも考えて私に家庭教師の仕事を勧めてくれたのだと思う。
「それは楽しそうだわ! ふふ、オティーリエお姉様の知らないことまで沢山勉強してくるわ!」
「楽しみにしておりますわ。わたくしもマドットの度肝を抜くような情報を探して見せますわ」
「オティーリエお姉様が、どういう情報を持ってくるのかわたくしも楽しみにしていますわ!」
そう言いながらマドットは楽しそうににこにこと笑っている。
「マドット、楽しそうね」
「ふふ、楽しいですわ。だってオティーリエお姉様との勉強会楽しいんですもの!」
「楽しんでもらえてうれしいわ。一先ず、発表会に関しては二週間後ぐらいにしましょうか。その間に使えるものを使って、情報を集めましょうね」
「はい、もちろんですわ。オティーリエお姉様に負けないように勉強しますわ」
そんな会話を交わした後は、私の知っている限りの染め物の歴史を語った。とはいってもちゃんと私自身がバーシェイク王国で学んだものが多いことは前置きした上である。
私は嫌われ者だったから、パーティーに参加することはあまりなかった。だけどドレスといった衣服のことは好きで、そういう服に纏わることは少なからず学んでいた。大体本で学ぶことが多かったけれど、シェフィンコ公爵領の職人の元に行って学んだりもしていた。
その時の経験も踏まえて、マドットに私の知りうる限りの情報を告げる。
「やっぱりオティーリエお姉様は、とても博識ですよね」
そうやって喜んでもらえると、沢山本を読んできて良かったとそんな気持ちになった。
バーシェイク王国では正直こういう知識を披露する機会もなくて、誰かに何かを教えることもなかった。
だからこうして私が学んだことを、喜んで聞いてくれる人がいると言うのが嬉しかった。
それからしばらく染め物について語った後は、紅茶を飲みながらおしゃべりをして帰宅する。
馬車の中で、どんな風にカッチヤ地方の染め物について学ぼうかと考えて、ワクワクした気持ちになる。
私はやっぱり学ぶことが好きで、新しいことを知れると思うだけでも、何だか気持ちが高揚するのだ。
王都の図書館は身分証があれば入れるので、図書館に行って色々調べてみようと思った。
屋敷へと帰宅するとお母様とお父様が笑顔で迎え入れてくれる。今日の授業はどうだったかなんてそう言う話をして、穏やかに一日が過ぎて行った。
明日はナーテが遊びに来ると言っていたので、ナーテにもカッチヤ地方について聞いてみようかな。
書籍、15日頃発売のため早い所では既に並んでいるようです。
特典については活動報告に記載しています。




