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【連載版】嫌われ者の公爵令嬢。  作者: 池中織奈
番外編

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38/55

ツィアーノ・バーシェイクの辺境生活 ③

 コーディーは不思議な男だった。

 怪我をして俺が一人では何も出来ないからと面倒を見てくれた。コーディーだけではなく、コーディーの近所の人々も俺のことを心配そうにのぞき込んでいた。正直俺のことをそんな風に心配してくれる人がいるとは思わなかった。

 中には俺が暴行されているのを止められなかったことを謝ってくる人もいた。



 俺はそのことも驚いた。てっきり皆、俺には関わりたくないって、俺があんなふうに暴行されることが当たり前なように思われているのかと思っていた。俺に暴行した男を恐れて止められなかっただけで、俺のことを思ったより嫌っているわけではないのかもしれない。


 そりゃあ、俺は色々とやらかしていたから俺のことを嫌な目で見る人は多いし、俺と関わりたくないと思う人も多い。そして俺があれだけ思い込みで行動し続けたからこそ、周りの人の人生を狂わせた。――それでもその一番の被害者であるオティーリエ・シェフィンコの誤解が解けて、彼女が隣国に行ったとしてもそれで俺の人生は終わっていない。




 義姉上は、思えば“運命”との出会いとそれにまつわることが終わればまるで全てが終わるかのように、まるでそれが全てかのように振る舞っていた。

 義姉上と、兄上は今、何をしているのだろうか。義姉上は、今までのようにはいかないだろう。今までのように、自分が全て正しいと笑えないだろう。少しだけそんなことを考えた。




 俺も自分のやっていることに対して自信なんて欠片も持てなくなってしまった。俺が正しいと思っていたものが、正しくない可能性があることをあの時に実感したから。




「何をぼーっとしているんだ?」

「……俺を心配してくれる人が多くてびっくりしたから」



 そう言ったら不思議そうな顔をされた。




「そりゃあ、あんたが眉を顰められるようなことをやったのは確かだし、俺もあんなふうに暴行受けられているの見なきゃ関わりはしなかっただろうけど……。結局俺たちはその出来事に関わり合いのなかった他人だから」

「他人だから?」

「ああ。あんたに何かを言えたり、あんたに報復を出来るのはあんたがやってきたことで迷惑をこうむったやつだけだろう。あんたに本当に何かする権利があるのは、あんたのせいで人生が狂ったというお貴族様だけだろう」



 俺は暴行を受けた時に、そういうことが起きたとしても仕方がないとそんな風に思っていた。だけれどもコーディーはその権利があるのは、オティーリエ・シェフィンコだけだと言う。




「あんたもやらかしたことで後悔していたとしても、それで何をされても構わない立場だなんてそういう風に悲劇の男ぶる必要はないだろう。寧ろそうやって今の自分に対して悲観して、それで暴行されるのを受け入れて死んだりしたらそれはそれでそのお貴族様も寝覚めが悪いだろう?」





 そんな考えがあるなんて思いついてもいなかった。俺は悲劇の男ぶっているなんて言われて、顔が赤くなる。

 ……俺は結局のところ、自分のことばかり考えてしまっているのかもしれない。ああ、もう本当にどうしようもないなと落ち込む。





「落ち込んでいるのか? 人間なんだからそういう風に自分のことを考えるのは当然だろう。俺だって自分のことばかりしか考えてないし。というか、この領内でそういう暴行事件でも起きたらこの領地が評判悪くなるだろう。そうやってされるがままじゃなくて、もっと俺たちに歩み寄ろうとしたらいいんだよ」




 俺に向かって、コーディーは続けて言う。




「俺たちだってあんたと距離を置こうとしていたけれど、あんただって近づこうとはしてなかっただろう。此処で暮らしていくつもりなら、もっと歩み寄ろうとすればいいんだよ。そうすれば俺たちだってあんたのことを知れて、遠巻きにしなくなっていくさ」

「……それ、嫌がられないか?」

「嫌がる人だっているだろうし、あんたを暴行したような奴だっていないわけではない。けど、あんたを知って仲良くしようってやつだっていないわけじゃない。俺もあんたと関わってみて想像していたよりは話しやすいと思っているし」




 そんなことを言われて、俺は確かに心機一転して一人で生きて行こうとしているのに――そういう風に周りに近づこうとはしてなかった。周りから遠巻きにされるからと、俺なんかに近づいてほしくないだろうからって。

 でも結局人は一人では生きていけないし、俺みたいな色々やらかした面倒な存在に自分から近づこうとする人なんてあまりいないのだから、自分から話しかけないと誰かに歩み寄ることなど出来ないのだ。




「……確かにそうだな」



 ――俺の信じていたものは、まやかしのようなものだった。正しいと信じていた物は正しくなくて、それが俺の行動を無意識に制限していたのかもしれない。




「俺、もっと人と喋ってみる。もっと近所の人たちとも仲良くなる」

「うん。それがいい。あんたは周りに関わらなさすぎだ」

「……コーディーも、俺と関わってくれるか」




 友人になってほしいとは、言えなかった。言えなかったのは、断られたら――とそう思ってしまっているから。

 コーディーは俺の言葉に笑った。





 俺の辺境生活は、その暴行を受けた日から確かに変わった。



許可が下りているので、表紙画像を活動報告にのせています。

よろしくお願いします


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― 新着の感想 ―
うーむ、コイツらに救いいらんやろ
[良い点] コーディーの言うことがもっともすぎる。悲劇の王子ぶってないで、っていうのは当人にはキツい言葉かもしれないけど実際見えちゃうよねえと思いました。贖罪って難しいなと。 [気になる点] それはそ…
[良い点] コーディのド正論
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