20.私は卒業まで残り僅かを満喫し、告白を受ける
卒業まで残り僅か。
王子様たちもお兄様も、案外、大人しい。
でもイフムート曰く、それは私の悪事の証拠をつかもうとしているらしい。率先して動いているのは同じ学園に滞在している王子様たちである。
悪事も何も、私はそういうことを一切やっていないので証拠なんて出てくるはずもない。それとも証拠がなくても私をそういう風に悪事が働いた悪女にでもしようとしているのだろうか。
嘘を吐かれて貶められてしまう可能性もあるかもしれない。
ドジータ様は相変わらず第二王子と結婚することを夢見ているようだ。だから階段からナーテを落とそうとしたのもドジータ様の命令によるものではないかと疑っている。
私がナーテの傍にいることで、王子様たちに接触されることも多くなったから余計にそのようだ。ドジータ様は私やナーテに嫌味を言ってくることもあるが、それは大抵的外れなものでしかない。そしてドジータ様も大貴族特有なのか、自分の意見を絶対的に信じている。
彼女の価値観からしてみれば、第二王子の婚約者におさまろうと動くのは当然で、寧ろそこにおさまりたくないと思っているなど異端の考え方でしかない。
あの階段騒動以降、表向きはこの学園は大人しい。平穏を保っているようにも見える。だけど実際はそういうわけでもない。何ともややこしい事態である。
「またこうして図書館で三人で過ごせると平和でいいわね。あの王子様たちが私とナーテとイフムートの三人で過ごすのを許してくれるとは思ってなかったけれど」
「俺がいるからだろう。俺がオーリーはそんなことはしないけれど、ウェシーヤ嬢を虐めないように見とくからって言っといたから。でも皆、俺がオーリーに騙されているって思っているみたいだけど」
「イフムート様って、やっぱり普通じゃないよね。でもまぁ、そういう普通じゃない立場のイフムート様が味方にいるからこそこうしてのんびり過ごせると思うとほっとする」
私、イフムート、ナーテの発言である。
ナーテはイフムートの出自を知らないけれど、特に聞く気はないようである。本人曰く、「オーリーの味方で、同志ってことが分かればいい」ってそういう風に言っていた。
「――卒業まで残り僅かだな。隣国に移る準備は結構進んでるか?」
「うん。進んでいるわ。でも屋敷の物、全部持っていこうって勢いだけど大丈夫?」
そうなのだ。
隣国に移動するための準備は着々と進められている。私のお気に入りのドレスや宝石、平民の友達からもらったものなど、沢山の物をイフムートは全部持ってきていいなどというのだ。
「大丈夫だよ」
「私は助かるけど、イフムートはどうしてそこまでしてくれるの? 友達だからとしてもイフムートに助けられてばかりな気がするわ。私に出来ることがあったら何でもしたいぐらいなのだけど」
「――じゃあ俺の側でずっと笑っていてよ」
なんだかそんなことを言われてしまって、恥ずかしい気持ちになる。私の隣に座っていたナーテがわざとらしく「きゃっ」なんていって顔を隠して、指の合間から私たちを見ているし。
「ええっと、イフムート、ナーテがなんか期待しているけれど、友人としてよね? 貴方の立場もあるし、誤解はしないようにしておくわ」
「いや、友人としてというか……まぁ、この際はっきり言っておくけど俺、オーリーの事、好きだよ。友人としてってより、異性として」
「え」
「というか、本当に気づいていなかった? 流石に俺も好意を抱いてなければこんなに気にかけないよ」
何て言われてしまって、私は驚いてしまう。
今の今までそういうことを考えていなかったから。ところで、隣のナーテが相変わらず指の隙間から覗き見をして、「ひゅー」などとはやし立てている。この状況に驚きはなく、楽しんでいるようだ。
「うん。気づいてなかった。いつから?」
「最初はあの王太子妃が悪い意味で気にかけていることで気になってはいたんだ。王太子妃が言っていた“運命”よりも、王太子妃が言っている絶対に気を付けなければいけない“悪役令嬢”の方が気になった。実際に観察して、話してみると、王太子妃の言っていることは違って、オーリーは素敵な令嬢だった。平民を目指しているから庶民的なところもあるけれど、貴族としての誇りも失わず、それでいてこれだけ周りから悪い意味で注目されていても腐っていない。――俺はそういう心の強さが何より美しいと思った」
美しいと思った――なんて、その綺麗な赤目に見つめられて言われて、思わずぼっと顔が赤くなる。
ちなみに私とイフムートの会話にナーテは口挟まない。ただ「オーリー可愛い……」というつぶやきが聞こえてきた。
「だから出来れば、そういう意味で、オーリーに側にいてほしいかなって思うんだ。もちろん、断るなら断るで友人に戻るだけで、隣国側は喜んでオーリーたちを受け入れるけど。……でもオーリー、俺のこと、嫌いなわけじゃないだろう?」
「ええっと、うん。でも、私恋愛感情があるかどうかわからないから、い、一旦は保留でいい?」
「うん。もちろん。照れているオーリーも可愛いし、これから意識させれば落とせる自信は俺にはあるしね」
さようですか……。
というか、何だかんだこういう告白を嬉しいと思って、顔を赤くしているあたり私は大分、イフムートに傾いているとは思っている。ただ恋愛なんて考えた事もなかったから、イフムートへの好意がそういう意味なのか分かっていないだけで……。
でも多分、そのうち私は陥落する予感が自分でもしていた。
 




