17.私は突き落とされそうになった友人を庇う
「オーリー様、いきましょう」
「ええ。一緒に行きましょう」
人前であるので、ナーテも私を様付けし、私も貴族としての仮面をかぶる。
だけれどもこうしてナーテの傍に友人としていられることは何だか嬉しかった。幸いにも、私がナーテの傍にいることで、ナーテへの嫌がらせは少しずつおさまっている。
あの王子様たちには私が色々と企んでいると思われているらしいけれど。そもそも本当に私が誰かを貶めようとするならば、もっと貴族らしいやり方をすると思う。……こういう考え方を思いつくから、あの王太子妃に“悪役令嬢”とか言われてしまったりするんだろうか。
そうも思ったが、結局王侯貴族だとそういう暗い面もあるものだしなぁ。
「私って、やっぱり性格が悪いのかもしれないわ」
「オーリーが性格悪いわけないでしょ! そもそも貴族ならそういう考え方があっても当然だもの。それに清廉潔白な人間なんてきっと世の中にはいないからね。でも合理的に考えれば本当に私をつぶそうとするなら、そういう恐ろしい考えとか行動になるのもありえるよね……。わー怖い……」
「学園内は学園に仕えている使用人たちがいるから目立った行動はないはずだけど、王子様がナーテを気にしているから、ならず者たちに恐ろしいことをされる可能性もあるからちゃんと気を付けた方がいいと思う」
「うん……。気を付ける」
「もちろん、そういう貴族ばかりではないけれど、追い詰められた人間はどういう行動をするのか分からないから」
私も公爵家令嬢として生きてきたから、貴族であることの裏面も知っている。
私だって公爵令嬢として誘拐犯に狙われそうになったりしたことは前もあった。そうして人の醜い部分だって見てきた。
ナーテも、こういう私を見て幻滅するかと思ったけれど、平民暮らしの中で色んな経験をしてきているからか「そういうものだよね」と言っていた。
ナーテの傍になるべくいるようになってから、イフムートとはあまり会えていない。だけど時々、イフムートはミロダ経由で接触はしてくれる。
王太子妃の言っていた“運命”に出会うだろうと言われていたから、それでもっとややこしい事態にならないように表立っては近づいてこない。
だけどイフムートが平民の子たちと一緒に居るのは見かけるから、何かしら動いてくれているのだと思う。
それにしてもこれだけ接する機会が増えても王子様たちは、私の事を“悪役令嬢”だと思っているのか、それとも思いこみたいのか、大暴走している。
というか、そんなに頑なに私の事を“悪役令嬢”だとか“悪女”だと信じ込みたいのだろうか。
何だか王子様に関しては私を信じようと言うような表情をして、その後に、「お前みたいな悪女に騙されるか!」とか言ってきてなんだろうってなる。
残り僅かな学園生活を、ナーテと一緒に過ごせることが私は楽しかった。
嫌がらせはある程度やんでいて、何だか普通にナーテと一緒に学園生活を過ごせている雰囲気で、私は何だか単純に楽しんでしまっている。
とはいえ、まだまだ嫌がらせがなくなっているわけではないからもちろん、警戒はしているけれど。
ただ表立って嫌がらせがやんでいるから、私はちょっと気を抜いてしまっていた。
そんな中であの出来事が起きた。学園でナーテと過ごし、長期休みも一緒に過ごして、楽しく過ごしていた。そんな中の出来事だった。
私とナーテは、階段を降りようとしていた。
隣を歩くナーテ。
ナーテはにこにこと笑って、「オーリー様」と私に呼びかける。ナーテの笑顔は何だか見るものをほんわかさせてくれる魅力があって、こういう所がナーテが人に好かれる魅力なのだろうなと思った。
「ナーテは……」
ナーテに話しかけようとした時、ナーテの身体が急に落ちた。
ナーテが驚いた顔をする。私は思わず、そのナーテの手を取った。落ちていくナーテの手を取った私は、ナーテを自分側へと引き寄せる。
それはそうしようと考えて行った事ではない。身体が勝手に動いていた。
そして階段に投げ出され、へたり込んだナーテが見える。私は、そのまま落ちていく。
「オーリー!!」
へたりこんだナーテが叫ぶ。
私は落ちていく。
「オーリー!!」
そして次に聞こえてきたのは、イフムートの声だった。
私は誰かに支えられた感覚を感じながら、そのまま意識を失った。




