16.私は正反対の立場の友人を守りたいだけです
イフムートの出自を聞いてからも、特に私たちの関係は変わることはなかった。どういう立場の人間であろうとも、私の友人であることには変わらなかったから。
逆にその立場を聞いて、これから私が好きなように動いても、私とナーテが隣国に行けるように根回し出来ていると言う言葉に確信を持てたから。
「ナーテ様、一緒に新しい教科書をもらいに行きましょう」
「はい。オーリー様」
私は表立って、ナーテの傍にいることにした。
ボロボロになった教科書を手にするナーテと一緒に教師の元へ向かって、新しいものを受け取る。
私の事を嫌っている教師には、私が自作自演をしているだとか、第二王子に構われたくてこのような行動をとっているだとか言われてうんざりした。
私が人目のあるところでナーテの傍にいることによって、ナーテを虐めていた人たちは『すべてはオティーリエ・シェフィンコのせい』という免罪符を使いにくくなる。
王子様たちは私のことを嫌っていて、私が悪女だって信じきっているから私が傍にいることにどうのこうの言っていた。
ナーテが「オーリー様は私の友達です! そんなことをなさいません!!」と口にしても、騙されているんだなと本人を前にして言っていた。私もナーテの傍に表立っていることにしたら結果的にナーテを守ろうとストーカーしている連中と一緒に居ることが多くなり、色々と面倒な噂がまた再発した。
私が第二王子の婚約者になりたいから、自分で嫌がらせをしている癖にナーテのことを守って好感度を上げようとしている。……頭が痛いことに、その噂は王太子妃から広まっているものだ。
王太子妃は、ナーテを守ろうとしているらしい。私という悪女がナーテを虐めるから、それから守るのだと。本当に意味が分からない。
私は公爵家令嬢だから、嫌がらせといったことはされない。ただドジータ様には色々言われてしまっていたけれども……。
それにしてもドジータ様も、王子様と結婚したいって思っているみたいだけど、あの王子様は結婚しても大変なのではないかと思う。
だって運命だなんて不確かな言葉を口にして、自分は好かれていると勘違いして大暴走しているのだ。普通に考えてまた運命だとか言い出して浮気に走りそうな気がする。
「――父上のこともお前は操っているのだろう!! 父上とお前の両親は騙されているんだ」
「……わたくし、陛下のことはパーティーでしか拝見したことがございません」
「お前自身でなくても、お前が人を使っているのだろう。メーシーも言っていたぞ。お前は使用人たちとこそこそしていると。いつも悪だくみをしているのだろう。義姉上はナーテのことを守ろうと必死なのに、父上に苦言を言われてしまったのだぞ!! お前のせいで!!」
陛下からも注意はされているらしい。
それにしても凄いことを言っている自覚は、この王子様にはあるのだろうか。一国の王様が、か弱い公爵家令嬢に本当に操られていると思っているのだろうか? それは中々、陛下に対する侮辱だと思う。
陛下は頭を抱えているのではないかと思う。陛下の言葉も聞かないとか、立派な王命違反だと思う。
メーシーとは、私のお兄様である。使用人とこそこそしていたというのは、使用人たちと仲良くお喋りをしていたことを言っているのだろうか?
公爵家の使用人が王宮に顔を出して陛下を操る。なんて非現実的なことが本当に出来ると思っているのだろうか。
「わたくしは何もしておりません。わたくしはただ友人であるナーテ様を守りたいだけです。第二王子殿下もナーテ様を守りたいというのならば距離を置いてください。これは婚約者のいない貴方様たちの婚約者に収まりたいと思っている令嬢たちが起こしていることです。なのでナーテ様から離れていただければ終息していくはずです」
「何をしらじらしいことを!! 俺たちが傍にいないとお前はナーテを虐めるだろう!! 人のせいにばかりして!! ナーテは俺たちの運命なのだ。俺たちが守らなければならないのだ! そう義姉上も言っていた!!」
本当にこの人、義姉上って言葉しか言わないな……義理の姉に対して多大な妄信を持っていて、正直引く。
こうやって第二王子や宰相、騎士団長の息子たちが暴走しているのは、王太子妃のせいな気がする。あと私を嫌っていた教師も何だかナーテを運命の人認定しだしている。教師が生徒に手を出そうとしているとか、引く。
ナーテも引いているのが分からないのだろうか。
「そうです。ナーテの側で私たちはナーテを守らなければならないのです。私たちのせいでというのならば、私たちが責任をもって守るべきです」
「ナーテ、俺たちがその悪役令嬢から君を守るから!!」
ナーテがとても遠い目をしているのが見えないのだろうか。この人たち、本当に耳が聞こえないのだろうか。そして多分、目も見えない。
高位貴族の人たちはともかく、平民の方たちが引いているのが分からないのだろうか。あと下位貴族の人たちも。彼らは力がないから発言はしないが、陰では私たちを助けてくれている。そして彼らは明らかに王子様たちに引いている。
去年ぐらいから嫌がっているナーテにぐいぐい行っているから、それらの発言で引かれているのが見えないのだろうか。
「……オーリー、この人たち怖い。なんだか変な思い込みして暴走している」
ナーテが私の手を掴んで、怯えて小声でそう告げる。
それを見ても彼らは私がナーテを騙していて、第二王子の妃に収まろうとしているとそんな風に思い込んでいるのだ。
そもそもナーテははっきりと「私は隣国に行きます」と告げているのに、なぜか変な解釈をして「その悪女がいるからだろ。どうにかしてこの国で幸せになろう」などと言い出していた。
馬鹿なのだろうか。
そして彼らはナーテに誰か一人を選んでいただけるものと思っているらしい。……この勘違いたちから選ばなきゃとかどんな罰ゲームだろうか。自分達がこれだけ思いを寄せているのに選ばないなんてありえないと言うナルシストな部分がにじみ出ていて正直言って気持ち悪い。
こんなのに追い回されていたなんてナーテの心労は計り知れない。
もうすぐ卒業だし、この人たちが色々言っていても、どうにか無事に卒業できればいいなぁとそう願うのだった。




