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9.私は正反対の立場の彼女の噂

「オーリー、美味しいチョコレートのお店を見つけたんだ。今度、一緒行こうよ」

「うん。行きたい」



 イフムートとは、街にちょくちょく一緒に出掛けるようになった。

 学園の友人と一緒に街に出かけるなんて、初めての経験だったから大変楽しかった。





 イフムートは、結構な情報通らしく、街の美味しいお菓子屋さんの情報なども私にくれる。そして私を連れて行ってくれるのだ。




 ちなみに学園の図書館でこんな普段通りの砕けた口調で話してしまっているが、周りに人がいないことを確認の上である。去年はもう少し人の姿が見られた気がするのだけど、最近はあまり生徒の姿はない。

 図書館の端っこのエリアとはいえ、これだけ人が見えないのは少し不思議だった。




 そういえば、イフムートなのだけど……平民としてこの学園に通っているようだけど、所作などを見ると何だか違う気がする。何らかの理由があって平民として此処に通っているだけのようにわたしの目からは見えた。




 何らかの理由があってそういう風にしているのだろうから、私は特に口出しする気はないのだけれども。





 図書館で私とイフムートが話すのは様々な話だ。勉強の話だったり、家族の話だったり。

 イフムートにはお兄さんと妹がいるらしい。丁度真ん中らしく、家族のことが好きだと彼は語っていた。兄のことを尊敬していて、妹のことを可愛がっているとそんな風に口にしていた。





「家族仲が良いのは良いことだわ。私は両親とは仲が良いけれども、お兄様とは不仲だからうらやましいわ」

「王太子妃様の言葉を信じて、オーリーを嫌っているんだっけ。普通にオーリーと会話を交わしたらオーリーの性格ぐらい分かると思うんだけどな」

「彼らにとって私がどういう風な態度でも全部悪女が演技をしているだけだもの。……だからイフムートも気を付けてね。私と話しているのを見られたら私に騙されているって言われるから」

「大丈夫だって」




 私は心配して言っているのだが、イフムートにはそんな風に言われてしまった。

 何だか軽いわね? 本当に大丈夫なのだろうか……などと私は思ってしまった。





「私と一緒に居るところを見られたら大変だから、その時は他人のふりして突き放すからね」

「オーリーは優しいよね」

「……優しくなんてない」




 真っ直ぐな目で、優しいなどと言われることはあまりないので何だか恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう。



 私の噂を聞いていても、私の噂を知っていても――イフムートは笑っている。

 最近も学園内での騒ぎの黒幕が私だとか噂に上がっていた。それのこともイフムートは私がやっているわけがないと分かってくれているのか、それとも私がやっていてもやっていなくてもどうでもいいのか私にそのことを聞いてくることはない。




「優しいよ。それに見た目も綺麗だし、学年首席で頭も良い。この国の王侯貴族は見る目がないね」

「……褒めちぎっても何も出ないわよ。何だか平民の友人にも同じことを言われたわ」

「本心だよ。その真紅の髪も、空のように青い瞳も、綺麗だなぁって思うから」




 ああ、もう恥ずかしい。とりあえずひたすらに恥ずかしい。




 嫌われ者として、こういう風に同年代から綺麗だなんて褒められることなんてほとんどなかったのだ。

 お父様やお母様や、屋敷の使用人たちに言われたことはあったけれどそれは身内贔屓だろうし。




 それにしても同年代の異性にさらりとこういうことを言うあたり、イフムートは女性の扱いに慣れている気がする。





「それはともかく! ナーテ様があの王子様たちと接触してしまったって聞いたわ!」

「相変わらずオーリーはナーテ様を気にしているんだね。あれは接触したというより、第二王子様側から接触されたんだろう。王太子妃様のお気に入りだからって理由だけで」

「ナーテ様が心配よ。王子様たちはこの学園で人気者だから、どのような事態になるか分からないわ。王太子妃様のお気に入り相手に馬鹿な真似はしないとは思うのだけど……平民から貴族になっただけでも心労が酷いでしょうし、そういう貴族のごたごたに巻き込まれてしまうなんて大変だわ」




 そうなのだ。

 ナーテ様は、王太子妃から気に掛けられている。



 その影響で、この学園の生徒達から気に掛けられているのだ。王太子妃が、ナーテ様に優しくすることを望んだから。





 ――そしてそれは王太子妃の事を妄信している王子様たちが接触を図るのには十分な理由だった。

 王子様やその友人たちは、王太子妃の言葉により婚約者を作っていない。そのため貴族令嬢たちはその妻の座を狙っている。



 そんな中で王子様たちが、ナーテ様に話しかけたとなれば中々大変な事態になると思う。




「そうだね。普通に考えて元々平民だった子がそう言う立場の人と簡単に近づいたら、元々妻の座を狙っていた令嬢からしたら面白くないだろう」

「そうなのよ。だから、大変な思いをするのでは……と気になっているわ」

「まぁ、でも彼女が大変な目に遭おうが、オーリーは気にしなくていいんじゃない?」

「いいえ、気になるわ。そもそもそういう大変な目に遭っているのを見るのは不愉快だもの」




 そう言い切ったら、やっぱりイフムートは面白そうに笑っていた。

 何がそんなに楽しいのだろうか。




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