第三章32 〈試行錯誤②〉
「よし……今日は豚骨的なスープに挑戦だ!」
ステアーとピニャが狩ってきてくれた大型の猪の骨を使う。
肉はナイトウルフ達で食べもらって、俺は骨だけを貰う。
先ずは一度水から茹でて沸騰したら湯は全て捨てる。
これをもう一度新しい水から茹でていく。
こうする事で臭みを減らすことが出来るはずだ。
そして沸いてきたらアクを丁寧に取り除く。
これも怠ると雑味と臭みがスープに出てしまう。
アクが出なくなったら、フタをして重しの石を乗せてから強火で骨が砕ける固さになるまで炊いていく。
石を乗せるのは圧力をかけるためだ。
こうする事で水の沸点が上がりダシをしっかり取れる上に茹で時間を減らせるので蒸発する水分を減らす事ができる。
大体朝から茹で始めて、夕方くらいに骨が砕ける固さにまでなってきた。
そしたら今度は炊いているスープの中で骨を粉々に砕く。
こうする事で骨の髄までダシが取れるのだ。
骨を粉々に砕いてからも焚き続けて、翌日の昼前まで火にかけ続ける。
昼前に火を消し石を下ろして、フタを開けると見事に白濁としたスープになっていた。
そしてそのスープを少しずつザルで丁寧に濾していく。
「うん、よく出来てる」
白く乳化したスープを丼に入れ、かえしの代わりに塩を入れ、別に柔らかくなるまで茹でた背脂を入れる。
これで豚骨風スープの完成だ。
────ズズッ。
熱熱のスープを飲んでみる。
「おお! 結構いい感じじゃん。でもこりゃ売るほどスープ取ろうと思うと骨の量が全然足りんな……噂では豚の頭蓋骨を大量に煮込むやり方もあると言うが……」
豚骨式のスープにするならば、肉屋で骨を安く譲って貰った方が早いだろう。
だがそれはそれとして、やはり魚介スープをメインにしたい。
なぜならここは海のリゾート、エンドレスサマーだからだ。
「次は甲殻類や貝類を試してみるか……。出来ればウンディーネ様が言ってた、こっちの世界の『らうめん』食べてみたいなぁ……ま、タロ達が帰ってきてからか」
この後も新名物『らうめん』の試作は続いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「しかしよ……世の中には美味いもんが沢山あるもんだな」
「だなぁ……まさかヤキメンに迫る食べ物がこんなにあるなんてな」
「カーッ……テメーの基準は結局ヤキメンかよ?」
「ん? そうだぞ。あれこそ至高にして究極……つまりヤキメンを生み出したアイラは、オイラの神だぞ!」
「…………」
「…………」
「……いや、オメーがそれでいいなら良いんだけどよ……」
「……良いんだぞ」
「……しかしコレ美味いな」
「……うんだぞ」
二人で河原の土手に腰を下ろし、両手に持った肉の餡がたっぷりと詰まった饅頭を交互に頬張る。
エンドレスサマーを旅立った時に比べ、二人ともまるんとしたのは気のせいではない。
「ふう……次はどこへ行くかな〜」
「そうだ! ジロは帝国には行ってないから帝国行くか? オイラがいれば入国は問題ないと思うぞ?」
「……帝国か……もちろん美味い物はあるんだろうな?」
「把握してるだけでもかなりの数あるぞ? アソコは煮込み料理が美味い」
「……ほう? 俺様の舌を唸らせられるといいがな」
「そうと決まれば、早速移動だぞ」
そう言ってフルサイズに変身したフェンリルに、素早くネズミの魔物が乗り込む。
そして帝国を目指し走り出したのだった。




